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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
帰還-帝都の外へ
81/84

4-20

 一体何度きり結び、相手の攻撃を受け止めただろうか。

 ジャックとラグは、延々と武器を振るい合っていた。

「なあ、てめえの体力は底なしか? おい」

「ひひひひとよりいくらか頑丈なのがとりえでしししして……」

 やはり、ラグのもつ『杭』は溜めるためにそれなりの時間が要るものだったのだろう。

 最初に放ってきたものは、未だに使う様子もない。

 これだけ疲れているならば、アレもできそうですね。

 ジャックは心の中でふとつぶやく。

 とはいっても、ジョセフィーぬこと呪符剣の魔力結晶も心もとない。たぶん奥の手を使えばまともに防御壁も出せないだろう。

 それでも

 まあ、ここにかけますよ。

 決めて、一気に相手の内側にもぐりこむ。

「な……きさま!?」

 剣を振るうにしてはやや短い間合い。

 ジャックは半身に、両手で剣を立てて持ち、右肩に寄せた。

 反動を得るために、前に出した左足をわずかに浮かせる。

「必殺・満流居(まんるい)……」

 わずかに後ろに体をひねり、地についた左足から腰、そして両腕へと力を伝播。呪符剣を力の限り振るう。

葬濫(ほうむらん)!」

 インパクトとともに、呪符剣の障壁を展開した。その結果……

「うご……あ……!?」

 周囲一体に鈍く甲高い音が鳴り響き、スイングの威力と、障壁の反発力が組み合わさり、ラグの巨体が浮く。浮き上がる。打上げられる。

「てめええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」

 そこらの屋根を越えてさらに遠くへ飛んでいくラグを見送って、ジャックは振りぬいた姿勢を正した。

「ままままだ残ってますよねねねええええ?」

 切り結んでいる間に、どうも特定の方角に背を向けて戦おうとしていたラグを、それならばとそちらに打ち飛ばしたわけだ。

 その方角は一度ジャックが向かおうとしていた方向でもあったわけで。

「あああああちらにお仲間が……もしくは事務所の誰かがいいいい居るってことですよね」

 元来なら、相手をそのまま壁に叩きつけて押しつぶす技ではあるのだが、ラグの巨体を考えたらそれも難しそうだったために打上げたのだ。

「でわでわ……」

 ジャックはいそいそと、銃声のなった……ラグが行かせまいとしていた、自分が気になっていた方角へと歩き出した。



 同時刻。

 キャノピーに対して逃走戦を行っていたジョイは、頭上を通り過ぎていく叫び声に顔を上げた。

「……なんなのかねぇ。あれ」

 空中でもがく男は一瞬で屋根の影に消え、白昼夢だったと思えなくもない。叫び声はまだ続いているが。

「だれかが戦ってたか、何か爆発でも会ったのかねぇ?」

 爆発音のようなものは聞こえなかったから、つまりは誰かがあの男を放り投げるなり飛ばすなりしたということなのだろう。

 思ったほど楽に空き家や適度に利用できそうな廃墟もみつからず、スラム中で銃撃戦を行いながら逃げ回ることになってそろそろいい加減疲れが回ってきていた。

 ここらで少し休憩をしたいのだけど……

「ちょっ斗、ラグ!? あん多どこに……」

 思いのほか近くで、キャノピーの声が聞こえた。

「……お仲間ねぇ」

 そうなると、自分の味方が居る可能性は高い。一対一は難しくても二対二になれば何とかなるだろう。

 ジョイはそう判断して、男が飛んできた方へと、向かう先を修正する。

 崩れかけてる家を回りこみ、塀の影を偲び、道から道へと進む姿は傍から見れば怪しさだらけではあったが、六つの砲塔に狙われていると思えばどうということもない。

 幸いなことに、キャノピーというあの少女はお仲間のほうに向かってくれたのか、そばにいるような気配はなかったが。

 ある程度進んだところで、雪を踏みしめる音がする。

 隠れている自分に気がついたのか、足音を止め様子を伺っているような気配を感じる。

 あー……考えてみれば、敵の敵は味方とは限らないんだよねぇ。

 場合によっては、三人目の敵という事だってありうるという可能性を忘れていた。

 まあここは……

「出たとこ勝負かねぇっ……っと!?」

 物陰から飛び出すと同時に自分を伺っていた人物らしきものへ、銃と化した左腕を突きつけたところ

「わわわわわわわわ!?」

 白っぽい、見知った骸骨のような人がそこにいたのだった。



「はあ、そそそそうでしたか。それは災難でしししたねねねね」

「いや、そちらもまたなんか大変だったようで……」

 物陰に隠れ、今までにあった相手とのことについて情報を交換したジャックとジョイ。

 お互い胸中に飛来した思いは、どっちもどっちということ。

「いいいい一応、彼らからいろいろと聞かないといけませんね」

「まあ、他のヤツらのところにも行ってるかもしれないしねぇ」

「いきますか」

「やりますか」

 顔を見合わせ、簡単な打ち合わせを始める。

 相手は、恐らく、それなりの付き合いのあるコンビ。遠近の違いはあれどどちらもパワータイプ。

 対するこっちは即席の、知り合って間もないというか会話すらほとんどしていない行き当たりばったりペア。片や援護を、片や防御を得意とするようなタイプだ。

「ままままあ、ソレぐらいの大砲なら何とかなりそそそそそうですけどね」

 というのは、キャノピーのことを聞いたジャックの談。

 こういうときの常套手段としては、さっさとどちらかを集中攻撃して落とすことが先決なのではあるが……

「こっちとしては、俺がともかく狙われないように、ってことかねぇ」

「ちなみにジョイさん、狙撃(スナイピング)はできるんですか?」

「威力が落ちてもいいならなんだけどねぇ」

「まあ、そそそそれならそこは……」

「じゃあこういう時は……」



「見つけたわ世」

 堂々と、人通りのない十字路のど真ん中で会話していたこともあって、比較的容易に見つけてもらうことができた。

「しっかりとお返ししてやらねえとなぁ。おい」

 キャノピーとラグが、連れ立ってやってくる。

「二対二なら何とかなるかも死れないと思ったっ手、そうはいかないんだから」

「なめてもらっちゃぁ困るぜ? おい」

 苛立ちをあらわにしてくる二人に対して、ジャックとジョイは

「……なんとまあ予想通りというか」

「……あああある意味、助かりましたね」

「それじゃあ」

 と声を合わせて、二人同時に駆け出す。

「は?」

 キャノピーとラグの声が重なった。

 彼らも、ジャックとジョイについての情報はここに来るまでの間に交換している。

 ゆえに、ジャックを壁にして後ろからジョイが狙撃してくるだろうということは予想していたのだ。

 ソレだというのに、彼らがとった行動は


 同時に突撃!?


 呪符剣を振りかぶったジャックに対して、ラグが応戦しようと前に出る。

 その足を打ち抜く、ジョイの弾丸。

「んな!?」

「問題ない、わ!」

 即座に援護しようとキャノピーが砲弾を打ち出すが

「無駄です、よっととと!」

 ジャックが突き出した剣によって弾かれた。

 さらにジョイが、ラグの横を駆け抜け様に銃を構えキャノピーに向ける。

 慌てて身を物陰に投げ出したキャノピーを構うことなく、ジョイはその銃口をラグに向けなおした。そのまま発砲。

「んなろ! ふざけんな!」

 ラグが右腕の『杭』を動かし、銃口の向きを変える。頬の傍らを過ぎ去っていくいくつかの弾丸。

 そのすきだらけの背中に

「いただきました」

 ジャックの剣が閃く。

「ちょっ斗! 卑怯じゃないの!!」

 キャノピーは叫びながらも、その右腕の砲台からジャックに対して一斉掃射を行い、失策に気づく。

 もしここでよけられたら、ラグにあたる!?

 だが

「通させませんよ。っと」

 振り返り、振り回された剣によって、相殺された。

「んな……おいおいおいおい!」

 ラグは、背を向けたジャックを狙おうにも、インファイトを仕掛けてくるジョイに邪魔をされてできない。

 ともすれば、的確にジャックはラグの攻撃を捌き、わずかな隙に剣を差し込んでくる。

 キャノピーはジャックでもジョイでもどちらかを狙おうとはするが、ラグに肉薄されてる以上容易に撃てない。

 撃てたとしても、その弾丸は全てよけられるかジャックの剣によって相殺された。


 結局のところ


 ジャックとジョイの二人が下した判断は、二対一対一という状況を作ることだった。

 ジョイとしてはソラの動きについていけるだけの精度はあるのだし、ソラと組み手をすることだってある。近接における銃での戦闘についても考えていないわけではなかった。ただ、どうも一手足りない。

 対するジャックは、防ぐことに専念すればはっきり言ってラグが二人居ても何とかできる自身だけはあった。あの最初に受けた高威力の一撃だって、バカ正直に受け止めたがゆえにピンチになったわけで、受け流しいなし、もしくはよけさえしてしまえばなんとかできる自身はあった。ただ、それはあくまでも防御一辺倒で動いた場合であり、そうなると相手をいつまでも倒すことができない。

 そこで打ち出したのが、ジャックが受けてジョイが攻める。

 とはいっても、お決まりのジャックが前に出るだけではダメだ。後ろにいるジョイが狙われてしまえばキャノピーによって狙撃されてしまうのだから。

 ゆえに、二人で肉薄してラグを盾にしつつ、どうしようもできないところはジャックが受け止めるというような形になったのだ。

 あとはともかく、ラグを先に落とす。

 それでも、狙えるならばキャノピーに対してジョイは銃撃をすることを忘れてもいないし、ジャックだってラグにちょっかいを出してジョイの手助けをすることを忘れていない。

 まあ、いくらか強引過ぎるきらいはありますが……

 いまもまた、砲弾をそらし、ついでとばかりにラグに向くように調節した。

 この短いやり取りで、連射されたなら弾き、単発ならそらすことで活用する術を生み出し始めていた。

 その結果

「おい、キャノ! 俺まで狙うな!」

「そんなこと言ったっ手!」

 キャノピー自身気を抜けばジョイの弾丸が飛んでくる。ラグにあたらないように狙っても、モノによっては軌道を変えられる。どうしようもなかった。

「ふざけんなよ! おい!」

 とうとうぶちぎれたラグが、荒々しくその右腕の『杭』を引き戻した。

 いままでの『杭』による攻撃とは明らかに動きが違う。

 これは……

「ジョイさん!」

 ジャックの叫び声とジョイが大きく飛びのくのと、どちらが早かっただろうか。

 ただ、ジョイが飛びのくよりも速く『杭』が伸びていく。

 軌道を反らそうとジャックは呪符剣を振るうものの

 まにあいません!

 吸い込まれるように、ジョイの腹に向かって『杭』突き立った。勢いのままに、ジョイは跳ね飛ばされていく。

 意識がジョイに向かったことで、さらに次の行動が遅れた。

 ラグが、伸ばしたままの『杭』でもって横殴りにジャックを狙う。

「ぐ……」

 受け止め、動きが止まったところに

「おら、撃て。キャノ!」

 六つの砲門からの一斉射。

 とっさに呪符剣の腹でもって重要な箇所は防いだものの、それでも一発は左肩をえぐり、もう一発は右腿を焼いていった。

 二発は逸れていったものの、受け止めた二発は呪符剣に多大な衝撃をもたらし、両腕をしびれさせる。

 呪符剣を取り落とさなかっただけでもよかったのか、悪かったのか。

 硬直するジャックを、ラグはさらにジョイの下へと蹴り飛ばす。

「まったく、手間をかけさせやがって……おい」

「まあ、あんな無茶な戦いしてた羅、こうなることはわかっていたけど根」

 動きの止まったジャックとジョイに、ラグとキャノピーが近づいていく。

()ったの?」

「まー、こっちの髪の長い兄ちゃんなら当たり所では……おい?」

「度うしたの?」

 いぶかしげに、ラグがジョイを覗いたときだった。


 パンッ


 と乾いた音が連続して響き、キャノピーが崩れ落ちた。

「な、おいいい!?」

 振り向けば、彼女の手足から血が流れている。そして驚きに固まったラグの後ろに、一つの影が浮かび上がった。

「おわり、です」

 そしてラグは、頭に衝撃を受けて意識を失った。

「……『嘘つき』はソラの専売特許だったとおもうんだけどねぇ」

 むくりと、ジョイが顔を上げ立ち上がる。

 右手には煙を上げる銃。左腕には『杭』の形に穴が開いていた。

「だだだだだいじょうぶですか?」

 ジャックは剣を振りぬいた姿勢を戻しつつも、ジョイに声をかけた。

「これ、直るまでは戻せないねぇ。学校どうしよう……というかジャックさんこそ大丈夫だったんで?」

「頑丈さがとりえですからアレだけじゃ」

「そ、ソウデスカ」

 にこやかに告げるジャックを見て、ジョイは言葉を濁す。

「にしても、念のために予備武器は持っておいたんだけど、あまり感触はよくないねぇ」

 手元の拳銃をもてあそび、その後服の内側にあるホルスターへとしまってキャノピーに近づく。

「あんた……」

 右腕をむけ、なおも抵抗しようとするキャノピーの後ろに回り器用に片手と足を使ってジャケットで縛り上げていく。

「腹ぁ貫かれていたんじゃなかったの?」

「これ見てわかんないかねぇ?」

 穴の開いた左腕をちらつかせる。

「……機塊っていったって自分の体の一部なの世?」

「でも治るからねぇ」

 まあ最終手段だけど。

 といいながら、ジョイはジャックに顔を向けた。

「そっちはどう?」

「結構ししししっかり殴りましししたからね。しばらくは目を覚まさないと思いますよよよ」

「痛いじゃないの世。もうすこ死丁寧に……」

「はいはいっと……」

 ジャックとジョイは、それぞれラグとキャノピーを抱え上げ、立ち上がった。

「とりあえず、帰りますか」

 尋問のためにも。

「こら! ちょっ斗! はなしなさいって!」


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