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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
彷徨う少女と理不尽な悪意
8/84

8-

目指せ1日1話。

前回までのあらすじ。泣ーかせたー泣ーかせたー

 昼下がりの午後。

 下町(アンダータウン)の町並みの中を『とてとて』と、幼女が歩いている。

 白いつば広の帽子からのぞく髪は銀色で、ワンピースの裾と一緒に風になびいていた。

 その両側で幼女と手をつないでいるのは、両親だろう。

 右手側には母親。幼女とおそろいのつば広の帽子にワンピース、顔は隠れているためうかがうことはできない。

 左手側には父親。黒い髪を無造作に後ろで束ね、浅黒い肌に精悍な顔立ちをしている。体を動かすことに慣れているのだろう。体つきはいい。

 幼女の年齢をかんがみるに、両親の年齢は若干若すぎる気がしないでもないが貴族も平民も早ければ14、5で子供を生むのだ。特に問題は無かった。


 すると、ふいに幼女が両親の手を離して走り出した。

 向かった先はひとつの雑貨露店。

 魔力結晶によって、踊る少女の立体映像(ホログラム)を生み出すオルゴールや、アトランダムに色や点滅パターンを変えるランプ。一定の時間ごとに時を告げるベルや水を入れると数秒後にお湯になるという湯沸かし器(ポット)まで置いてあった。

 幼女がじっと見ていると

「どうです?奥さん。娘さんにコレなんかに会うと思いますが」

 店主が、幼女を追いかけきた母親にオルゴールを薦めてくる。

 造りは粗いが見た目より頑丈そうで、中は小物入れにもなっており、値段も安い。しかし

「ごめんなさい」

 そういった母親が幼女に目を向けると、幼女は振動短剣(ヴィブロダガー)多機能魔力銃(マルチプルガン)望遠計測器(スコープアイ)に触れていた。

「変わったご趣味をお持ちですなぁ」

 普通、この年齢の女の子は人形やおもちゃに興味を持つものだ。

 あいまいな顔をして頭を下げた母親は、幼女を促して露店から離れていく。

 二人の先には、父親が待っていた。

「すみません。お待たせしました」

 幼女と手をつなぎなおした母親は謝る。

「いや、問題ない。大丈夫だ」

 一緒に歩き出そうとした父親に、幼女がその左手を絡ませてきた。

 そう。

 何も問題はない、よく見る光景であった。

 問題はなかった。が


(どうしてこうなった!!!)


 父親、いやジョイは、心の中で悲鳴をあげていた。


 事の起こりは幼女……ユニが街へ出たいと言い出したことによる。

 院長であるセーナは手を離せず、落ち着きのない子供たちは大人の目を盗んですでに孤児院を抜け出している。

 ユニをつれて歩けるような年長組みはだいたいが出払っているか他の子をみていて、かろうじてリッカが動ける状況だった。が

 なによりユニがどうしてもカルラと一緒じゃないといやだと、腕を引っ張って離さなかったのだ。

 いまだにカルラの手配書は撤回されておらず、街にでるのは危険で危なくて険しい。

 だが、ソラの

「別に構わない」

 の一言でユニのめったに言わないわがままが通ることになる。ついでに、なにかが釣れればいい(・・・・・・)とも。

 その結果がこの『親子ごっこ』であった。

 金髪、翠眼の女性なんていくらでもいる上に、手配書に書かれているのは機械持ち(ユーザー)であるかもしれない(・・・・・・)という情報で、似顔絵もよくある顔だ。

 復元(ストレージ)状態の機塊を見分ける技術は現状みつかっておらず、尋ねられても「ちがいます」の一言でおわるだろう。

 何よりも、『子供』と『旦那』の存在がいい目くらましになる、と。

 ユニの角についても問題はあったが、下町(アンダータウン)であれば、よほどこれ見よがしに機塊をさらけ出して歩いていなければ、大体は見てみぬ振りをされる。それも比較的他地区に近いような、外側の商店街であればなおさらだった。髪の色を指摘されたら隔世遺伝だとでも言えばいい。

 なおソラが父親役にという意見や、リッカも同行するという意見出たが、姉妹にみられるだとか、ハーレムに思われてもいいのかと押し切られた。

 現在、ソラとリッカは隠れての監視中である。


 けど、絶対面白がっていたよなぁ。

 あのときのソラの目の奥にはイタズラを楽しむ光があった。

 いくら無表情を貫き通していても、3年近くつきあってるのだ。わかるものもある。

 リッカと二人にしてやりたかったというのも、ないことはない。

 なにかの折にしょっちゅうデートしているであろうことは孤児院の悪ガキたちから聞いてしっている。

 あの二人は恋人同士に違いない。とはおもうもののなんかこう、恋人とか家族とか兄弟ともちがう何かがありそうなんだよなぁ。

 気にはなる。気にはなる……が

 今はこっちだよねぇ

 隣の、彼女を見る。

 カルラ・バーズン。学園の高等部第2学年。成績は中の上といったところ。長女で一人っ子。父親のダニエル・バーズンは小型の偽塊製造に関係しており周囲からの信頼も厚い。最近はいろいろな方面からも声がかかってるらしい。夫婦仲も悪くない。

 たった1日じゃ当たり障りのないことしかわからなかったけども、細かい裏情報なんかはどうせソラが調べてるのだろう。問題ないはずだ。

 調べて受けた印象といえばどこにでもいるような、面倒見のいい女の子。行動力もあり、周囲の感想も明るくて裏のないということでそこそこファンもいるようだった。

 だからなのか昨日の彼女の涙はまずかった。あまりにも不意打ち過ぎた。

 半分、自分が原因と言えなくもないけれど、あの、一瞬で心をつかまれる様な間隔は黒歴史の中の一回を除いて一切なかったわけで、そのことに気がついてちょっとだけ落ち込んだのだが。

 俺ってこんな涙に弱かったかねぇ?

「えと、どうかしましたか?」

「いや別に……」

 昨日のあの涙にぬれた顔を思い出して、つい目をそらす。

 なにか、てきとうな、わだいを、くれ!

 心が通じたのか、ユニちゃんが俺を見た。カルラちゃんを見た。また俺を見た。

 そして

「「!?」」

 俺とカルラちゃんの手をつなぎ合わせて、逃げていく。

「ちょ、えっと、その」

 顔が、熱い。

「えーっと、まあ今は『夫婦』ですし?」

「あー……うん」

 なんでそんなに平静でいられるのか

「その、俺は……」

「ちょっと歩きましょうか。せっかくユニちゃんとソラが息抜きのチャンス作ってくれたんですし。ね?」

「あ……」

 考えてもいなかった。

 たしかに、まだ数日とはいえ逃げ回って、その次は孤児院にいっぱなしで、外に出れたとはしても敷地内から出れたわけじゃない。

 しかも、俺とはちがって機塊持ち(ユーザー)になることを望んでいたわけでもないんだ。

 今まで持っていた価値観をすぐさま切り替えることもできず、ストレスがたまってなかったとはいえない。

 たぶん、ユニちゃんはそのことに気付いていたんだろう。無意識かどうかはともかく。

「その、なんかほしいものとかないか……ですか?適当なものだったら……」

「もう少し楽に、話しやすい様にしていただいていいですよ?ほら『夫婦』なんだし」

「あの、それじゃあそっちも……」

 顔を見合わせてくすくすと笑いあった。

「それにしても、さっきからあまりこっちを見ないですよね?」

「えっと、いや、まあ」

 護衛として周囲も確認しないといけないわけではあるし。

 じっとこっちを見つめてきて、耐え切れなくなって

「ほら、また目をそらしました。」

「ウン……あー、その、だいたいだ。ソラが『夫婦の振りをすればいい』とか言い出さなければ……」

「いやなんです?」

 からかうように、いってくる。

「いや、いやじゃないんだけど」

 なんていってごまかそうか適当に言葉をごまかして……

「あー……わるい。昨日の涙思い出して……なんていうか、その、惚れた」

 ……あれれくちがすべったぞ

 ぎぎぎ、と首を横に向けると、一泊おくれて彼女の顔が赤くなった。

「いや、その、『夫婦』ですし、ね?そういうことですよね。ただの台詞なわけで……」

 前を向いて、ごにょごにょとなにかをいっている。

「あの、こういう状況でなければ、うれしい、です?」

 そうだよなぁ……

「なので、おわってからまたお友達から……」

「……うん」

 これは保留ということでしょうか。

 と、ふいに服がひっぱられる。

 ユニちゃんが戻ってきていて、俺達をどこかに連れて行きたいようにしていた。

 ついたところはアクセサリーショップで、何かを手にとって見せてくる。

 二つの、指輪。

「「……」」

 二人でつい無言になってると、『だめなの?』といった感じで首を傾げられた。

 その指輪はペアになっていて、どこにでも売っているようなものではあったのだけど

「さすがにまだちょっと早い気がするんだよ」

 俺も、カルラちゃんも、どっちも腕ごと機塊化するためにつけても壊れてしまうのが落ちだ。

 ごめんね。と頭をなでながら替わりになにかないかなと適当に見渡す。

 指輪も腕輪も壊れるとなると、ブローチか、ペンダントか。

「ああ、これを」

「まいどー」


「何を買ったんです?」

 店を出てから、カルラちゃんが聞いてきたので、さっき買ったペンダントを渡してあげた。

「とりあえず、お近づきの印にね。たいした物じゃないけど」

「いえ、ありがとうございます」

「つけようか?」

「……おねがいします」

 少しだけ、顔が赤くなっていた。

「あと、こっちはユニちゃんにね」

 そういって取り出したのは赤いリボン。

 なにげに、彼女が店に入った時に気にしていたものだ。

 いろいろ立ち回ってくれているお礼である。

 いちど、見せてあげてからつけてあげると、満面の笑みを浮かべてくれた。

 あのわがままな妹の面倒を見させられていてよかったと、一瞬だけおもってしまった。



 その後は適当なところでお茶したり、噴水を眺めたり、鳥たちを追いかけるユニちゃんを二人で眺めたりしてすごした。

 昔、ソラの相手をして歩いたことを外せば、初デートである。

 ユニちゃん(おまけ)がいるけれども、二人の間に子供ができたと思えばそれはそれで……いやいかんいかん。

 実際、時折周囲の監視を忘れそうになっていたことは突っ込まないでほしい。

 ソラなら「護衛対象に入れ込むな」ぐらいは言ってきそうだ。いや言ってくるだろう。絶対。

 ただそれでも、恋心を抑えられるほど人生積んでないし?

 多少は青春させてほしい。いやかなり切実に。

「そろそろ、帰りますか」

 そうカルラちゃんに言われて、だいぶ時間がたっていたことに気がつく。

「そうだなぁ」

 特に何もおこらなかったけれども。

 このまま日常にもどることができたら、どれだけいいことか。


 それでも


 昼過ぎの時のように、3人で手をつないで孤児院へ向かう。

 歩き出して間もなく、手をつないでいたユニちゃんが手を強く握ってきた。そして立ち止まる。

「どうしたの?」

 彼女の見る先に、なぜかぽっかりと人の空白ができている。

 場に似合わない空気が漂っていたからだろう。


 そこには、巨大なハンマーをもった男がいて、こっちをニンマリと見つめていた。

難産でした。

少なくともこの帝都では、魔力を万能エネルギーとしていろいろなものに転用しています。電気とか。

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