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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
帰還-帝都の外へ
69/84

4-8

かくれんぼ

「あいつ、喜ぶかねえ?」

「さあな。まあ俺の持てる技術全部つぎ込んでんだ。あいつの過剰魔力でも十分使えるだろうよ。……これでおざなりに扱いでもしやがったら張り倒してやるさ」

「張り倒すも何も、そんなこと思ってすらいないくせに」

「うっせえ」

「もうじき三年目か。早かったような短かったような……」

「ゾイは一番あの子のこと気にかけてたものねえ」

「うっせぇ。妹見てるみたいでほっとけなかったんだよ」

「言っとくがあいつは男だぞ?」

「んなこたぁわかってらぁ! クニにいんだよ。ちょうどアレぐらいの年齢のが。いい男みつけてっかなぁアイツ……で、ジン、本気なんだよな?」

「ああ、三年前から決めてたんだ。いまさらやめましただなんていったら他のヤツラにも顔がたたねえよ」

「んじゃわたしはそろそろ行くわね」

「おう。……アクア」

「なに?」

()()()



 □ □ □



 ユニは一人、パンと水、適当なおかずをもって階下へ向かう。

 着いた先は事務所の倉庫となっている一階。一度目を閉じ、『角』に意識を集中させて目当てのものを探し当て、迷うことなくそこへと向かう。

 今は使う人のいない偽塊やらその整備道具やらが雑多に、それでも整頓されて埃や毛布を引っかぶっていた。いくつか崩れ穴が開いているものは、今朝のスチールイーターに食われたあとだろう。カバンに収まっていた『蜘蛛』は何かに興味が引かれたのか、抜け出して探検を始めた。

 目的地に着き食器を置いて、うずくまっていたソレにそっとふれると

「ひゃうっ!?」

 びくりと飛び上がった。

「あ、ユニ?」

 コクリと一度うなづいて、クロエに朝食を差し出す。

「……あリがと」

 一言断って、食べ始めた。

 リッカは帰っていないとはいっていたが、まさか倉庫にいるとは思っていなかったようで、ここまでは『視て』いなかったらしい。結果的にクロエは一人勝手にうずくまったままおなかをすかせることになっていたのだけど。

「みんな、怖がってなかった?」

 食事をしながら、ぽつりとクロエが聞く。

 ユニは首を横に振って、クロエの隣に勝手に座る。そのままもたれるようにして目を閉じた。

 ユニがもたれた瞬間、クロエは一瞬びくりとしたものの、逃げることなく食事を続ける。


 大丈夫。みんなびっくりしただけ。


 機塊が全身に巡っているせいだからだろうか。ユニの『角』を通して、彼女が言いたいことがなんとなく伝わってきているような気がした。

「そレレも……」

 ぽつりと、クロエは口を開く。

「わラしレもこの『血』は怖いかラ」

 そう言うと、先を促すようにユニが顔を上げた。

「ラって、他の人に触レないし。さっきも引きずラレたし……」

 いまは匂い袋のおかげでおさまっているものの、いつ人を喰うかも分からない。そのことを恐怖するぐらいには、それだけトラウマはまだ深かった。スチールイーターを屠っていた時もなにやら興奮しているような様子が見受けられもしたが。

 ユニはそっと手を伸ばしてクロエの顔に触れる。

 大丈夫。というように。

 まだ孤児院に初めてきたころは、こうしてユニがいつのまにやら隣にいるということが何度もあったのだけれども、それでもこうやって体を預けてくることは無かった。なんとなく、クロエが触れられることを避けていることが分かっていたようで。

 そしてだからこそ、人にそうやって触れられることに慣れていないせいか、クロエはしばらく固まっていた。



「ん、あれ、クロエ?」

 唐突に、物陰からソラが顔を出した。

「なんでこんなところに」

「うや、そラは?」

「あー……ダガーの変わりがないかと思って」

 探してはいたけれど、成果は芳しくなかったらしい。

「いっぱいモノがあルもんね」

「うん、まあ……クロエは?」

 ソラの質問に、クロエはあははははと笑って誤魔化して立ち上がる。ユニは空になった食器をもって、部屋の外に出て行った。

「そラは……」

 クロエは上目遣いに、ソラの顔を見る。

「自分のはね、好き?」

()()?」

 聞かれて、おもむろに翼を展開する。

 場所が狭いこともあって、出す羽は一枚のみ。

「これは……」

「そラはどうしてそのはねを手に入れたの?」

「えーっと……」

 ソラの場合、必要に迫られて。といったほうが正しい。この事務所で過ごすにあたって、あの時から先リッカや、他の人達とすごすにあたって、『堕天使の翼』の影響力はあまりにも危険すぎた。

 もっとも、自分が『堕天使』だと知るのはリッカと、ジョイと、後はごく一部か。クロエにしろユニにしろ、出会った時は『明日をも知れえぬ翼』の状態で会っていたが為にその本質を知らない。いや、ジョイも概略を知っているだけに過ぎないのだったか。

「クロエははじめてあった時が機塊の発現したときだったのだっけ?」

「うん……」

 となると、大体三年前。

「まだ納得はできないよね」

 ユニのように、人の役に立つ方法が思いつけば何とかなりそうなものではあるけれど、クロエの機塊は対生物においてほぼ最強の兵器。しかも相手を傷つけるという面に特化しすぎている。それだけ強いストレスを受けて発現したのだろうけれど。

「大丈夫」

 一言そういって彼女の頭に手を乗せ、撫でる。

 くしゃくしゃと撫で回しながら、なんとなく、思いついたことを口にしていく。

「オレの場合、生まれつきこの翼があってずっと付き合ってきたようなものだから、嫌おうと嫌うまいともうどうしよもないというか、なんというか。ただ、もともと人を遠ざけて内に篭るようなものだったから」

 力を抑えて、客観的に見ることができるようになったからこそそう判断できるのであって、オヤジさんに出会うまではまったくそんなことも思っていなかった。ただ、そこに在るだけ、そこに居るだけで、自分のことも、自分の機塊のことも考えたことすらなかった。

 ただ、それだけにしては異常とも思えるような能力をもっているのだけど。

「なんとか抑え方を覚えて向き合えるようになっていまで四年……五年? 抑え方を覚えたのはたしか八つのときだから……」

 それでも、好きになれたとは思わない。

「たまたま、空を飛ぶことができて、人と争えるだけの力があったから」

 環境がそういったところだったという理由もある。

「クロエ」

「なあに?」

「焦らなくていい」

 クロエの質問に対する応えにはなっていないだろうけれど

「こうして、生まれてからずっとつきあってるオレでも、まだ扱いあぐねているのだから」

 そのことを考えると、あのカルラの受けた衝撃は相当なものだったとは思うけど。

 ジョイにまかせっきりだったということもあるし、同じようなタイプだからまかせっきりしておいてなんだといわれそうではあるが……

 そこまで考えたときに、ふと、クロエが手の下からいまだに見上げてきていることに気がついた。

 しばらく見つめ合ってると、するりと手をくぐって、身を寄せてくる。

 首に手を回して、抱きついて、間近から顔を覗き込んできた。

「クロエ?」

「そラ」

 あとわずか。顔を近づければ唇が触れ合うような距離から、クロエは言った。

「赤ちゃんってロうやったラレきルの?」

「……は?」

「そラの赤ちゃんならほしいなっておもって。ロうやったラレきルの?」

 あまりにも質問が、その内容が唐突過ぎて、ソラの思考が止まった。

「赤ちゃんは産めルようになってルって、お姐さん達はいってたけロ、ロうやったラレきルのか知ラないの」

 じっと見つめてくる、純粋な、目。

「あー……教えてもいいけど」

「けロ?」

「リッカがなんていうか」

「?」

 首をかしげる。

 クロエにしては何で悩むようなことなのかが分からないといったところだろう。というか、その『お姐さん達』ってのは肝心なところを教えていなかったのかという思いがないでもない。

 さて、クロエでも分かりやすい言葉で説明するとしたらどういった方法があるかどうかなにかないか。と、ソラが考えをめぐらせたときに。

 くいくい

 と、服を引っ張る存在がいた。

「……ユニ?」

 いつのまにやら戻ってきたユニが、そのカバンの中の『蜘蛛』と一緒に見上げてきていた。目つきがなんだか鋭い。

 しばらく固まっていると、クロエから引き剥がすように強く引っ張られた。左腕に抱きついて、頬を膨らませてクロエを睨みつける。

「え~」

 なぜかクロエが嘆きの声を上げる。

 女達の無言の会話。割って入ったら何が起こるかわからない。

 ユニはしばらく睨みつけた後ソラに向き直り、手に持っていたものを二つ差し出してくる。

「ん、ダガー?」

 受け取り、鞘から引き抜いてみると薄く透き通った白い剣身がみえた。まるで自分の羽のような。

 以前使っていたものと比べるとやや幅広ではあるものの、軽い。恐らく重量のほとんどは柄にあるのだとおもう。

「きレいラね?」

 クロエも気になったのか、一緒に覗き込んでいた。

「どうしたのこれ?」

 聞けば、この倉庫の中に埋もれていた。という感じのことを伝えてくる。そして渡される一枚の紙。

「……これ」

 紙に目を通して、ソラは少しの間だけ動きが止まった。

「ロうしたの?」

「いや、別に……」

 後ろから覗き込んできたクロエに適当に返して、紙をポケットにしまう。

 これなら前と同じようにとまでは言えないにしても、十分使えるような気がする。

 さらにユニはなにやらを伝えようとするが、うまく伝わらない。

「まあ、上に戻ってから、だ。ありがとう。ユニ」

 そう言ってユニの頭をなでると、花が咲いたように笑ったのだった。



「で、ソレを見つけてきたってことねー?」

 リッカが一度ソラから二本のダガーを受け取り、いろいろと『視て』いく。

「ジャックさんの剣じゃないけど、機塊……というよりは魔術具なのかな? エリーにも見てもらったほうが分かりやすいかもしれないけど。剣身はかなり高質化した魔力結晶だねー。ソラの羽よりも硬いとおもうよ?」

 言いながら目を向けた先には、結局灰色に戻ったジャックが再びぶつぶつつぶやいていた。いい加減うっとおしい。

 エリーはまた大図書館へと通いの修行に向かったとか。

「つまり欠けてももどる?」

「たぶん。ただ、普通の金属より強度は低いだろうから、たたきつけるみたいな使い方はできないかな? 切り裂くように使ったほうがいいと思うよ」

 なるほど、ゾイが手がけただけのことはある。これならそこらへんの安いダガーより相当使いやすいだろう……にしてもなんであんな倉庫に置いていたのか。

 リッカからダガーを返され、両の手でそれとなくもてあそんでみる。サイズもちょうどいい。

「……機塊だとすると、羽、というよりはオレの過剰魔力は?」

「うーん、そこは問題ない、のかなぁ? ユニはどう思う?」

 “たぶん だいじょうぶ”

 ユニが黒板に文字を書いて掲げる。

「それなら問題ないか」

 後は使ってみてからだと納得をして、鞘にしまった。一緒にあった紙にはゾイの名前と、回りくどく、要約すれば一言“やる”という言葉があっただけで、扱い方も手入れのことも何もかかれていなかった。ユニとリッカがいなければどうなっていたことか……

「そしてクロエも下に隠れていたと」

 一通りの見識がすんだところで、リッカが視線をソラの後ろにいたクロエに向ける。

「うー……」

 クロエの顔はどこか弱々しい。

「別に、いまさらクロエが悪の帝王だったとか実はスラムの『悪魔』でしたとか言われたって驚かないのにねー?」

「いや、『悪魔』はもっと別の……」

「いや例えだけど、ソラは知ってるの?」

「伝聞の域をでないけれど」

「ふーん?」

 納得したようなしてないような顔をして、リッカはとりあえず、と一言置いた。

「クロエがもとからぴりぴりしていたのはずっと知ってるし、結構気を使ってたってのも分かってるから。ほんと、いまさらだからねー?」

 リッカに目をあわせられなくて、クロエは目を伏せる。

 リッカはいったいどこまで自分の事を『視て』いたんだろうか。人を襲いたくない、傷つけたくないといろいろと気にしていたのに、まるで必要なかったかのように言ってくる。さすがみんなのお姉さんというのか、何というのか……

 それはそうとして

「で、なんかユニが“言う”にはクロエが結構強烈なことを言ってたらしいのだけど?」

 急な話題転換と共にリッカがソラとクロエを交互に見ながら、笑顔を浮かべた。

 あ、まずい。これ怒ってる。

 ソラとクロエ二人の脳裏に警報がなった。

 ユニが思わずといった形で、『蜘蛛』を抱きかかえ後ずさる。

 どうしよう? どうする?

 無言で目を合わせる二人は必死になって逃げ道を探すものの、どうも逃走経路はどこにもないようだった。


クロエのネタなーんかどっかで使ったような無かったような……あれえ


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