表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
帰還-帝都の外へ
67/84

4-6

ちゅーちゅー

 いち早く、影に気付いたクロエがリッカをかばうように押しのけ、そのまま片手で殴りつける。

 硬い。

 手袋越しとはいえ、伝わってきたものは金属のような硬さだった。

 そして軽い。けど重い。

 振りぬいた腕は止められることなく、その小さな影は拳打に弾かれて飛んでいく。そのまま適当なゴミ山に突き当たり、転げ落ちた。

「こレ……」

 黒っぽい蜘蛛とでもいいのだろうか。

 足の高さは三十センチほど。うまく丸まればあの黒いタマゴとおなじサイズになるだろう。胴を中心として放射状に伸びる八つの足。その足は刃のようなものに包まれていて鋭い。後ろに膨らむ腹。正面には七つの青い結晶体が見えている。目、ということだろうか。

「機塊? ……でもなんかちがう……」

 じり、とこちらの様子を伺う『蜘蛛』をみたリッカがつぶやく。

『蜘蛛』が、飛び跳ねた。

 クロエがカウンターを繰り出そうとして、慌てて避ける。そのまま殴りつけていたら、手袋か、もしくは手がそのままずたずたになっていただろう。

 クロエの周囲を跳び回り、次々と体当たりを仕掛ける『蜘蛛』に対してクロエは避けるしかない。

 多少ガマンすれば無理やり押さえつけることもできるけど、やっぱり痛いのはいやだ。

 ふと、地面から突き出ている鉄棒が目に入った。力任せに引き抜き、その勢いのまま『蜘蛛』に向かって振りぬく。

 ガッ

 鈍い音が響いて黒い影が撃ちあがった。宙でもがくその姿はどこか滑稽で、この緊迫した状況に似つかわしくない。ただそれでも、あの勢いでぶちその体がぶち当たれば確実にずたずたにされるだろう。

『蜘蛛』が落ちてくるまでの間に、クロエは片手を手袋から抜き取り口元に当てた。さっさと『血』で片をつけるために。

 そのとき、不意にクロエの背後から飛び込んできた一つの小さな影があった。

「にゃー!?」

 突然のことにあわて、うっかりこけて、クロエは倒れこむ。見ればそこにいたのはユニで

「――!!」

 なにやら真剣な顔でクロエに訴えている。

「ちょっと、ユニ!?」

 リッカが叫んでいる間にも、『蜘蛛』が落ちてきて襲ってくるかもしれない。だが、慌てて引き剥がそうとしてもユニは離れようとしなかった。

 キィ

 ふと、倒れるクロエの耳元でなった音は金属のこすれる音か、それともその(アギト)の立てた音か……

 青い目をした黒い『蜘蛛』が、その七つの目でクロエを見つめていた。他の足よりも太く大きい足を振り上げ構えている。

「……」

 リッカも、クロエも、動けない。もし、不用意に動けばすぐにでも飛び掛ってくるだろう。それともその凶器な足を振り下ろしてくるか……

 見つめあう二人をよそに、クロエの上にあった重みが軽くなった。

 ユニが立ち上がり黒い『蜘蛛』へと向かって

「あぶな……」

 抱き上げる。

「……へ?」

 おとなしく、暴れるどころかその凶悪な足を閉じて抱き上げられる『蜘蛛』

 あっけに取られた顔を晒して見つめるリッカとクロエに、ユニは申し訳なさそうな顔をするしかなかった。



「えっと、つまりどういうこと?」

 不幸なことに、ユニも慌てて飛び出していたようで黒板を持っていなかったために、意志の疎通ができてない。

 ユニも何かを追いかけてここまで来たようではあるのだが、それぐらいしかわからなかった。とりあえず『蜘蛛』に危険がないということは分かったのだけれども。

「おーい、ユニー? なにしてん……げ、クロねえ!?」

「にゃ、ひさしぶリー?」

 ユニを探す声に振り向けば、なにやら物騒な物を持った見慣れない子供達が五人いた。ユニが駆け寄っていき、なにやら身振り手振りで意志を伝えようとする。

「クロエ、知り合い?」

「うーんと……トット?」

 その名前に、リッカがなるほどという顔をする。確かにあの地下水路にいないのでは、マスクもゴーグルもいらない。あの格好をデフォルトとして覚えていたために、素顔が分からなかったわけだ。

「うんと、なんでねーちゃん達がいるわけ?」

「それはユニを追いかけてきて……」

 リッカはそういいつつも、横目でユニを見る。ユニは、『蜘蛛』を指先にじゃれ付かせていた。

「……あの『蜘蛛』なんなのかあなた達は知ってるの?」

「いや、オレ達も今日はじめてみたんだけど、あの『タマゴ』だよな?」

「たぶん」

 いつのまにやら、トットの後ろからクロエがのしかかるよう抱きついているのを見ないように、気付かないようにして、二人は会話を続けていく。

「それより、なんでまたこんな朝早くに……?」

「あ、そうだ。それで朝のうちにユニを……気をつけて!!」

 慌てて思い出したように、子供達が武器を構え、周囲に目を光らせる。

 クロエも何かに気がついたのか目を鋭くして、ユニは『蜘蛛』を地面に下ろした。

「……なに、あれ?」

 リッカの『眼』に、ゴミの山の隙間を駆け巡る、無数の小さな『何か』が映る。

「くるよ!」



 それは波だった。

 波でなければひとつの侵食だった。

 ()()()()とする感覚にその場にいた者達が身構えたときに、周囲のゴミの隙間からあらわれた()()()が押し寄せる。

 それは

「ネズミ!?」

 何十、いや何百といるのか。

 それだけの数の、体長二十センチはある独特なニビイロの光沢を放つ毛をもったネズミの群れがに現れ、その鋭い牙をむき出しにして襲い掛かる。

「に、逃げ……」

 なんとか空いてる隙間から子供達が順に飛び出していき、遅れてリッカとクロエも後に続く。

「うにゃああああ」

 叫び逃げながらも、つぎつぎと飛び掛ってくるネズミを殴りつけていくクロエだが

「なんか変~」

 その感触に戸惑っていた。生物だということは分かる。だが、硬いうえに重い。

 それらは先を行く子供達よりも速く、先回りにして取り付こうとする。子供達は武器を振り回し、なんとか引き剥がそうとするが効果が薄い。

 ユニが、タマゴの姿に収まっていた『蜘蛛』を投げつけた。

 空中で『蜘蛛』はその八つ脚を広げ、次々とネズミに襲い掛かり、その脚を突き刺していく。

「なんなのよこれ!」

 自分もなんとか両手を使って襲いくるネズミ達を追い払いながらリッカは叫ぶ。

「スチールイーター! 地下のケモノなんだけど……」

 トットも手に持った槍のような武器を突き刺した。

「ここに来るまでこんなんじゃなかった。もっと少なかったんだよ!」

「少ないってどういうことよ」

 殴りつけ、振り払い、振り落とし、蹴り飛ばし、ぶつけ、少しでもネズミの少ない方向へと一行は逃げていく。

「最初は、ちょっと地上に向かってる小さな群れを追っかけてるだけだったんだよ」

 棒のような、槍のような武器を振り回しながらトットは言う。

「それが……ミィ!!」

 慌てるその声の先をみれば、ネズミに群がられている少女がいた。トットが舌打ち一つ立て、向かおうとするその傍らを通りすぎる影がある。

 クロエだ。

 次々と容赦なくネズミ達を掴み取り殴り飛ばして、群がられていた少女を救う。

「ラいじょうぶ」

 血だらけではあるけれど、命に別状はないようだ。

「とりあえず、逃げるぞ!」

 トットが叫び、一斉に駆け出す。



 なんとかゴミ島からの脱出を果たし、地べたに座り込む八人。

「それで、詳しい理由は知ってるの?」

 荒い息をつきながら、リッカが改めてトット達に問いかける。腕や脚など、

「えっと、もともとあいつらは地下にいて……」

 呼吸を整えつつ、トットが話し始める。

「いろんな金属を食うんだ。何でかは知らないけど、金属なら何でも……」

 そのせいで、時々せっかく集めた『落ち物』が台無しになるという。

「最近地下に落ちてくるゴミが減ってきたのか、それとも地下でヤツラが食えるものが減ったのか、だんだん上層に上がってくるようになって。酷い時は人も襲うんだ。」

 ああ、それで下町の商店街が荒れていたのかと、クロエは納得する。昨日の内からどうもきな臭かった。

 ゴミ島に住んでいる人達はどうなったのか……

「追いかけてたらユニとよく別れるところのそばだったから、気になって追いかけたんだ。」

 リッカは、ミィに応急処置を施しながら、トットの話を聞く。運よく、彼女の傷はそこまで深くなかったことは幸いだった。

「様子を見てると、地上のあちこちから出てきてるみたいで」

 最初のネズミを追っている間に数が増えてきて、逆に自分達が追いかけられるような状態になっていたらしい。

「おれ達だけでも何とかできるところはしようと思ったんだけど……」

「なんで大人は出てこないのかな?」

「大人はみんな、地上のヤツラなんて気にしてないんだよ! おれ達だってユニがいたから!!」

 思わず叫び、ゴメンとトットは謝る。

「ネズミ達に苦手なものはないの?」

 クロエが周囲を警戒しながら疑問を口にする。

「ヤツラを喰う別のケモノならいるんだけど……」

 地上で見たことはないそうだ。

 武器で刺すにしても、金属混じりの堅い毛皮のせいでうまく突き刺せないらしい。そのかわり、剥いだ毛皮はいい防具の材料になるそうだ。重たいけれど。

「なんともまた厄介な相手だねー」

 ミィの処置を終えたリッカは、他の子供たちの様子をみたあと、自分の手当ても始める。

 できるなら見なかったことにして、事務所に戻ってもいいような気がした。戻ってソラ達に相談して、しかるべき機関に後は任せる。話を聞く限りでは規模が分からない。トット達のすむ地域だけなのか、帝都全体なのか、それとも自分達が見てきたところだけなのか。

「一応ほっとけばいなくなるとは……思うんだけど……」

「そうしたいのは山々なんだけどねー……ほかに、そのスチールイーターの特徴ってないの?」

 いついなくなるのかも分からない以上、ほっといたら地上の金属がなくなっていたということにもなりかねない。そうなったら後味が悪い。

 だからこその質問だったのだが

「縄張り意識強いとか、齧りやすいのか薄い金属をよく齧るってぐらい。さっき一気に襲ってきたのもたぶん縄張りに入り込んじゃったからだと思うんだけど……」

「うーん……毒なんかは効くの?」

「たぶん、無理。金属喰うんだぜ?」

 ヒントにならない。

「うーん……」

 現状、取れる手がない。さてどうするか、やはり見なかったことにするかとリッカが心の中で思ったとき、クロエがうなる声が聞こえた。

「何、クロエ」

「たぶんラけロ、なんとかなルかも?」


「は?」


 その場にいた全員の思考が止まる。何を言い出すんだこのクロエは。

「ゴミ島がなくなってもいいなララけロ、全部『喰べ』ちゃえば何とかなルよ?」

「食べるって……クロエの機塊で?」

「うん」

 一同、目を見合わせる。

 クロエが機塊もち(ユーザー)であるということは分かる。その底ははかりしえないが、本人ができるというならきっとできるのだろう。

 仮に、ゴミ島に集っていたスチールイーターがあれで全部だとしたら、そうでなくても大半だとしたら、確かに解決策になるといえばなるのだが、そこで生計を立てている人物達はどうなるのか。

 騒ぎが起きていないということは恐らくすでに脱出しているものだとは思いたいが……

「まあおれ達としては遊び場が一つなくなるぐらいだし?」

 なあと地下都市の子供達が顔を見合わせる。

「住んでる人達には残念でしたってことにするのが一番、かなー?」

 リッカも賛同する。

 できるなら、やってしまえ。あとしらない。

 悪どいかもしれないが、被害を最小限に抑えたということで見逃してもらおう。なによりだ、だれも一少女が一つの集積所を壊滅させたとか誰が思うだろうか。

「よし、クロエやっちゃえ」

 事務所の備品を食われた恨みもある。朝っぱらから無駄なマラソンをさせられた恨みも。だったら自分の手でなくても徹底的に反撃してやる。

「あいあいさー」

 快活に返事をし、そばにあった適当な鉄塊をもって再びゴミ島に近づくクロエ。

「あ、そういや暴走とか大丈夫なの?」

 慌てて、思い出したようにリッカが確認する。一応抑えられるユニがいるものの、ゴミ島全域をカバーすることは流石に難しそうではあるし、余計な被害が広がってもらっても困る。

「ラいじょーぶ!」

 クロエが、再びゴミ島の土地に一歩を踏み入れた。彼女を伺う無数の気配がある。

 その気配に頓着することなく、クロエは片手を手袋から抜き、親指を噛み切った。その『血』をもってきていた鉄塊にこすり付ける。


『血』が、うごめいた。


 スチールイーターの群れが波だとしたら、クロエの『血』は赤い沼とでもいうのだろうか。

 わずか数滴にも満たなかった『血』が、鉄塊に広がり、まるでスライムが捕食するように多い尽くす。わずかな間を置いて、鉄塊は形を崩し、それに等しい体積の赤い水溜りが出来上がった。

 水溜りとなった『血』は、傍にあった他の鉄のパイプに、板に、適当な木材に、次々と絡みつくように伸びていき、さらに侵食を開始する。

 クロエを伺っていた気配が、わずかに引いた。

「もーちょっと下がっててね?」

 言いながら、クロエは周囲の『食料』をむさぼっていた『血』に指示をだす。

「ごー!」

『血』が、爆発的に飛び散るのと、スチールイーター達の我慢が切れるのとどちらが早かっただろうか。

 いまだ、クロエの周囲にあった『血』が、クロエに飛びかかろうとしたスチールイーター達に向かって『伸び』捕まえる。

 引きおとし、絡みつき、覆いつくし、浸蝕し捕食し増殖していく。

 いかに金属を食べ、己の肉体に溶け込ませる特異な体質をもつケモノも、ギィギィと断末魔をあげざるをえなかった。。

「にひひひひひ」

 わずかに上気し笑顔に染めたクロエは、両腕をあげ、『血』に更なる指示をだす。

 赤い沼が、ゴミ島を覆い尽くしていった。


ねこいらず持ってる状態でターン終了時のダメージ0表記を殴るとかいう攻略法なんてありません。


40センチ=電気鼠と同じぐらいの背丈=大体膝下ぐらいの高さ。ちなみにピンクの丸い悪魔は20センチ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ