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無理に上ろうとして、赤いトマトが根元に~ということもまれにあるそうです。コワイデスネ
空中カフェ・止まり木
その店は、いちどこの帝都にきたら見上げずにはいられないという塔、その先端で開店している。
帝城をはるかに越え高さ600メルテをぬけて、帝都の町並みを見下ろしていた。
場所は帝都の南部。ちょうどアンダータウンと商業区の境のあたりに、のっそりと突き立っているコンクリートと金属でできたのっぽの枯れ木みたいなものがそれだ。
そう。例えるなら枯れ木だ。
塔の主軸を幹とすれば、中腹あたりから先端にむけておよそ4分の1あたりの範囲で乱雑に突き出ている棒のようものは枝で、飛行者たちの休息場所として、中継点として機能している。
葉に当たるものはないが、先端の店舗部分そのものは巨大なツリーハウスといえなくもない。
テラスは発着場であると同時にネズミ返しになっており、万が一たどり着けたとしても入り口に手をかけることなく落ちるだろう。
幹の中にも外にもはしごどころか枝以外のとっかかりがないため、ちゃんと空を飛べるものしか入店できないという非常に危険で変わった店だった。
マスターがどうやって品物を搬入しているかは、いつ建造されたのかということと合わせて帝都最大の謎である。
ともかく、そのような変り種建造物であるので、事情をしらない外大陸からきた冒険者は見上げて「なんだありゃ」とつぶやき、見慣れた住民たちはカフェの入り口が見えるかどうかでその日の天気を占うというのはすでに当たり前ともなっていた。
ちなみに、帝都高層物件第2位は帝城の西塔30メルテほどである。
「さて」
そんな空中カフェ止まり木のドアをくぐって、ソラは店内を見渡した。
「よう、ソラ。久しぶりだな!」
「そーらー、あそびましょ?」
「おう、坊主こっちこい」
まだゴーグルを取ってすらいないのに、次々と声がかかる。
まだ数えるほどしかきたことがないのに、ほとんどの客がすでに顔なじみとなっていた。
来る客が限定されているためともいえよう。
テーブルの間隔は羽のサイズを考え広めに。椅子の背もたれも背が低めになっているなど細かいところで気が配られている。
そして人の数と同じだけさまざまな生体金属の『翼』があった。
鳥のように見事に折り重なったような翼。
単純な魚ようなフィン。
複雑に積み重なった重厚な翼手。
虫のような薄い金属の板でできた羽。
逆に、分厚い板が横に突き出しているだけなやつもいる。
「よっ。なんか面白いニュースでも持ってきたか?」
いま声を掛けてきた彼は、珍しく翼をもっていない。かわりに両足がロケットとなる変り種だった。
まだ、空を飛ぶための偽塊がないこともあって、店内は見事にユーザーのみである。
適当に挨拶を返しつつ、ほぼ定位置となっているカウンターに向かう。
とにもかくにも、カフェに入ったらまず忘れてはいけないことが一つ。
「マスター、コーヒー。ブラックで」
注文である。
そういえば、マスターの翼をみたことがない。
出されたコーヒーをすすりながらソラはふとおもう。
飛行者にしかこれないところである以上、マスターも飛行者のはずなのだが。
「どーしたのー。そーらー。」
声を掛けてきたのは、マリア。重厚な翼とともにダイナミックな体を持つ女性だ。
「いや、マスターの羽ってみたことないとおもって」
「そういやそうねぇ」
と、ソラに相槌を打ちながらマリアは後ろからその胸についた二つのボールを頭に載せてきた。
やわらかい。ついでに重い。
マスターはグラスを拭く手をとめず
「それは秘密ですよ」
丸めがねを光らせて言う。
きれいにまとめた髪。柔和な顔。シャツにベスト、エプロン。どこからどうみてもザ・マスター
そういえば名前もマスターとしか呼ばれていないような……
「そんなことより、ソラ君の用事はなーにかなー?ほら、おねぇさんにいっちゃいなさい」
「情報」
ソラがぼそっとつぶやいた瞬間、店内の何人かが反応する。
なにせ翼があるのだ。
多くの飛行者は、それこそ風の吹くまま気の向くまま。自由気ままに帝都中を飛び回り、いろいろなものを見聞きする。
中には長距離輸送の荷運びを行ってるものもいて、どこそこのだれそれが何を送ったのだの何をもらったのだの話題に絶えない。
止まり木は古くから帝都中のあらゆる情報が集まる場所となり、当然情報を扱う者達が集う場所ともなっていた。
空を飛び、おしゃべりをする。ゆえに鳥。
ただのカフェとして通うものもいるが、ソラのように情報のためだけに赴く者もいる。
「んと、これどうおもう?」
そういってソラが取り出したのは二枚のチラシ。
尋ね人と手配書の違いはあれど、ほとんどの情報が共通しているものだ。
「またかー。ソラ君あんまりお金になる話題持ってきてくれないからお姉さんたちかなしいわー・・・なになに?この犯人は3件の事件を起こしており今後も~・・・うーん、おねえさんにはムリ!」
そう嘆いたマリアは二枚のチラシをてにとり
「これわかるひとー」
掲げた。
「おう、それならおれっちもみかけたけどよ」
答えたのは足にロケットを持つ男だ。
「だがよー、人探しのほうはちょっとしたらすぐ差し替えられてたぜ。で、この娘を探したいってわけじゃないよな?」
「まあ。本人はもう匿っている」
「やるねぇ」
ヒュゥとロケットの男は口笛を吹いた
「ひとまず、この射殺事件について知りたい。貴族街のとあるカフェで起きた騒動と関係してるんじゃないかって」
「それはおれっちじゃちょっとわかんねぇなぁ・・・このときって、ビアがそばにいたっていってなかったか?」
「おお、それならおれが知ってる」
ビアと呼ばれた男が席を立って近づいてくる。
腕も足も首も太く、まさしく樽のような男だった。飛ぶときはその背負っている長方形の箱からアームとプロペラが伸びるらしい。
「でだ。射殺事件についてだがおとといの昼ごろから3件連続で起きているのは間違いない。
最初の事件はまさしくそこのカフェだ。轟音が起きて人々がパニックになっていたな。現場から逃げていく少女をみたっていう証言と、銃器で打ち抜かれた死体が残っている。
地面にはぶっとい溝。そこに残ってた死体は一つしかなくて、死因は溝とは関係がないだろうってことだ。
そこから南西に向かって別々に二つの死体があがってる。
ただどれも凶器は物理型なのか、魔力型なのか、機塊なのか偽塊なのかさすがにそこまではわかんねぇよ。死体もってかれてるからなぁ」
そういって、ビアはヒヒヒと笑った。
「ああ、ついでにこいつはサービスなんだが、被害者は帝都外から来たならず者二人と、以前強盗殺人で捕まっていたやつが一人。強盗殺人犯のやつはたまたま逮捕現場をみてたから本人に間違いないだろうよ」
なんでそんなのがうろついていたのかねぇ
「そうなると……」
行き当たりの犯行は消える。バラバラだ。
いちどリッカに確認する必要もあるだろうけど、カルラはほぼ、確実に、襲われただけ。
学園の友人たちと買い物に出たところだといっていたから、尋ね人としてのチラシはその友人から親に伝わって出されたものだろう。
手配書に関しては、機塊の名前を出せば大体どんな理不尽も通るという貴族たちの頭は気にしたら負けだ。
いや、排除派の権力が強いだけか。親和派もいることにはいるというし。
でも、手配書を出すにしたって機塊持ち相手の事件としてはどうにも早すぎるきがする。
つまり
「準備していた?」
3つの事件が別件という可能性はない。軍、この場合は憲兵たちが、やつらがこの3件を同一犯によるものとして処理しているからだ。こういうことに関してだけは信用できる。
でもなぜ真犯人を無視する?
気付いていない?
そこまで馬鹿じゃないはずだ。
指示をしていた人間がいるかもしれない。
得する人物……?
「仕事、依頼」
内容は
「バーズン家の裏情報。二日以内あさってまで」
ジョイに頼んでいた分が無駄になるかもしれないけども。
「そいつは俺がもらった!」
一人の飛行者が答えて飛び出ていく。
「やけに急かすのねぇ」
「そう?」
ただなんとなく、急いだほうがいい気がした。
まだ目立った動きはないというだけで猟団がでてきたら……
「血の雨が降る……?」
「なんだよソラ。急に物騒なこと言い出して」
軍。
貴族街。
殺人。
憲兵。
少女。
強引な。
スラム。
血。
羽が
ざわつく
「コーヒーの、おかわりはいかがですか?」
マスターの声で、われに返った。
カップの中はすでに冷めていて、あわてて飲み干して注いでもらう。
「あと、羽。開いてますね」
指摘されて、背中に目をやると確かに展開しかかっていた。閉じていたはず、なのに。
「お仕事がんばるのもいいですけど、無理しすぎるのもよくないですよ。ソラ君の状況は知ってるつもりですがまだ15なんですから」
マスターの笑顔が、優しい。
「そうそう。ほら、おねぇさんの胸で癒されなさい。なんなら今晩おねぇさんのところにとまってく?いろいろシてあげるよ?」
「マリアさん、ナニをいってるんですか。ソラ君にはちゃんと相手がいますし、寝取るのはよくないですよ?」
いやマスターも言い方というものがあるのでは?
「だってぇ……ソラの年でここまでこれるコいないし。こんなかわいい子は捨てて置けないし……あ、そうだ彼女ちゃんもまぜて3人で」
「マリアさん?」
「ま……ますたーめがわらってないよ!?」
にぎやかだ。熱いコーヒーを飲みながらソラは思う。
マリアの叫びにあわせて周りがはやしたて、顔を真っ赤にした彼女にさらにからかいの声がかかる。
昔の事務所もこんなだったきがする。
短い間しか、ともにいられなかったけれども。
「ちょっと、ソラ!笑ってないでこの人達何とかして!」
□
「すっかり日も暮れましたねぇ」
沈みかけている夕日に目を細めてマスターがいった。
「あ……」
途中で昼食も食べたとはいえ、ついうっかり長居をしてしまうのはこのカフェのいいところなのか悪いところなのか。
「マスター、会計」
そしてコーヒー数杯と昼食分にしては多すぎる金貨を取り出す。
情報料だ。マスターの手から、それぞれに回るようになっている
「いつもありがとうございます」
よくみれば、店内の顔ぶれも先ほどからだいぶ変わっている。
「羽は休められましたか?」
会計を済ませるときに、必ずマスターがいう言葉だ。
「ああ、そういえばどことまではわかりませんが、はるか西にいった街に大量の偽塊をかついだ男がいたらしいですよ」
それは……
「人づてにきた話ですから、確証もないのですけどね」
「……ありがとう」
「いえいえ」
そして優しい笑顔でこういうのだ。
「またのご来店をお待ちしております」
コネクション:止まり木 <情報:帝都>
帝都中の情報が集まる空中カフェ。<情報:帝都>の判定に+3Dする。飛行Lv3以上のキャラクターしか取得できず、このアイテムを使用する場合飛行Lv3を取得しているものしか登場できない。