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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
彼のいない日常
55/84

3-ジョイ&カルラ2

なんでか蚊帳の外になっているジョイ君

 世の中には逆らってはいけないものがある。

 たとえば権力者。

 ついうっかり、ぶつかったり前を横切ったり何か適当に理不尽な理由をつけられて目に留まってしまえば、あとはない。相手の気が済むまで満足がいくまで、徹底的に叩きのめされてうち捨てられるのがオチだ。そうならないようにヒトはマナーを学び必要以上に権力者と会わないようにする。

 たとえば両親。

 目上の者といってもいい。それもほどほどに仲がいい親だ。相手はよかれとおもって自分のことを考えていろいろ言ってくる。そこで中途半端に反論して相手の意見をさえぎれば、雷が落ちてとんでもないことになる。夕飯が抜かれたり、家から追い出されたり。ゆえに親の機嫌は取っておくに越したことはない。

 たとえば機嫌の悪い女の子。

 こればっかりはどうしようもない。逆らう以前に、ちょっとした事で相手は感情を爆発させる。万が一相対してしまうことになったら取れる手段は一つ。なだめ、すかしてご機嫌を取り、なんとか導火線の火が消えることを祈るしかない。イケメンで恋愛関係にあれば、愛情表現でなんとかなるということもあるかもしれない。

 そして、ショックのあまり学校を休んだ女の子の友人。

 自分達と仲がよかった友人が急に学校を休んだのだ。当然原因となる人物に心当たりがあればその人物に突撃するだろう。追い詰め問いただし、原因となったであろう出来事を根掘り葉掘り聞きだして、大事な友人を立ち直らせるための手段を講じるのだ。そこにあるのは友情と信頼と友のための正義感。相手がその友人と付き合っているとなれば尚のこと容赦はない。

 そんな彼女達対して、なにかできることはあるのだろうか。まさしくその状況に陥ってるジョイに、決定的な解決策はない。



「いやだからさ、ちゃんとお互い付き合おうって告白したら、びっくりされて、それだけなんだってば」

 すでにその日の授業も終わり、今いる場所は校舎の二階、廊下奥。人通りも少なく見られる心配は少ない。

 そんなところにいるジョイの、後ろには壁。左右も壁。正面には女の子が二人。カルラの友人のマリーとサナエ。

 昨日急に学園を飛び出していったカルラを見送ることしかできず、さらに自主休講までされて、一体なにをしたのかとジョイを連れ出し問い詰めにきたところだった。

 下手なことをいったらただじゃ置かないという剣幕の二人に対して、ジョイが返した言葉が先ほどの

 “告白した”

 てっきり、すでに告白を済ませて付き合っているものだと思いこんでいた二人は返す言葉もない。

「いや、ね、うん。応援されてるって言われていい気になってちゃんとした説明してなかった俺も問題あった……よねぇ?」

 言い訳はできない。したらいけない。したとたん、絶対なにか言ってくる。

 そうでなくても何かを発言する事すら難しい気配がしているのだ。

 こういう時は、できるなら口を開くことなく嵐が過ぎるのを待つのが一番いいということを、ジョイは母親と妹から十分すぎるほど学んでいる。

 ただ、()()ができる状況であればという前提がつくが……

「まったく、信じられません」

 先に口を開いたのは小さいほうのマリー。

「いや、俺もちょっとは悪かったと……」

「あなたじゃなくてカルラです」

 その目は友人に向けた怒りに燃えていた。

「なんでたかが告白程度で学校を休むんですか。今までいったいどれだけ告白されてきたと……」

「へ?」

「あなたに合う前の段階でも、それとなく好意を寄せる男性は多数いました。あの子がそれに気付いていたかどうかは別として」

 ジョイの知らない事実を思いのままに述べていくマリー。

「まあ、そのどれもがあの子と碌に会話してないヒトの一方的な宣告なんですけどね。しかも大体が社交界のノリで婉曲的で分かりにくいものだから、余計に伝わらなかったり気付かれなかったり」

「はあ……」

「一部は私達でしっかりガードさせてもらってはいましたし。バーズン家といえば家格はそこまで高くなくてもやり手ですし、狙う人物も多くないのですよ」

 慇懃無礼とはまさにこのことなんだろうなぁと、関係ないことをジョイは思いながらも、適当に相づちをうつしかない。それ以外とれる対策がない。

 そんなジョイを置いて、マリーは一人しゃべっていく。

「あの子自身、男の子に興味がほとんどないような子だから、どうせ将来はお見合いして政略結婚だろうということを私達は話していたのです。そう思っていたところにあなたが現れたというのに、あの子のピンチをしっかり救ってくれた人だというのに、気が向くことも無くひたすら“違う”というばかりで困ったものでした」

 ほとほと困っていたというように、両腕を組んでマリーは言い

「それにあなた」

 突然矛先を目の前の少年に向ける。

「え、俺?」

「サナエ」

「ええ……」

 急遽背の高い眼鏡の少女、サナエに何かを促す。

「ジョイ・バックブロー。平民クラス。ハルフォード事務所という何でも屋にてアルバイト中。父親は現役ハンター、母親は専業主婦。年の離れた妹が一人。生活は悪くない。学園の成績は中の上といいところではあるものの、学業よりアルバイトを優先するきらいがあり、卒業に向けて出席日数が危ぶまれる」

 レポート用紙も何も無く、ただ淡々と告げられる言葉はジョイの情報。まる暗記していたのか。なんだか知らないところで個人情報が駄々漏れのようであってこれはこれで怖い。ソラのこと……というよりいまの事務所の状況のことは知っているのか知らないのか……知っていたら“何ハーレム築いてんですか”ぐらいいわれそうな予感がする。

 ここでソラとのコンビネーションの技術を使うことができたなら、相手の出だしを防いで少なくとも膠着状態に持ち込めるというのに。自分の腕のように、マシンガンのように言葉を吐き出していく少女に対してはどうすればいいのだろうか。

「人としては悪くないのですけどね。いろいろと評判を聞くとなにかと“惜しい”人物のようですが……」

 さんざんいわれる中、ジョイはジョイで二人に対する知っていることを思い出す。

 マリーは貴族クラスでたしか騎士の家系。流石に今は持っていないけれど訓練用の剣が寮にあるとかないとか。いくつかの選択授業でカルラとおなじものをとっていて、そこから仲良くなったのだっけか。伯爵家ではあるものの、カルラのバーズン家よりも家柄は上。家族全員軍の関係に勤めているというのを、かつて聞いた覚えがあるようなないような。

 サナエもおなじ貴族クラスだけど、文系少女。マリーの幼馴染だが運動はあまり得意ではないらしい。

 で、二人ともカルラちゃんのお友達。と。

「まあ、私たちもあの子の言うことをちゃかしてしっかり聞いていなかったという問題もありますし、この場はよしとしましょうか。……って、聞いているんですか?」

「え? いやきいてるよ!?」

 釣りあがった目でにらまれる。

「まったく……マカロンです」

「は?」

「ルージュヒルのマカロン。ベリーの味があの子の好物です」

「はあ……」

 急にいわれても何をいっているのか分からない。

 いや、カルラの好物のことをいっているというのは十分わかる。ただ、それで何をどうすればいいのかという事に、ジョイの思考は追いついていない。

「ここまでいわれてもわからないのですか? あの子の好物を買ってもっていって機嫌をとれといっているのです」

 マリーの言葉にサナエももっともだというようにうなづいている。

「いや、ここは友達の君達が持っていったほうが……」

「元凶であるあなたがフォローしなくてどうするんですか。それも悪口をいって傷つけたのではないのでしょう?」

 今度はサナエの言葉。

「いいですか?」

 ずずいと詰め寄ってくる。

「この一ヶ月近い間、あなたが告白してなかったことは置いておきましょう。仲良くなってからと思っていたのかもしれませんし、お互いもっとよく知り合ってからと思っていたのかもしれません。そのことについてあなたがヘタレなのか慎重なのか、気になることはありますが今は忘れておきます」

 ……なにやらするどい言葉がジョイの胸に突き刺さる。

「ただ、カルラのあまあまデレデレな状況を楽しみにしていた私達としては、応援したいのです。せざるを得ないのです。そもそもカルラが男の子と仲良くなるということ自体これまでになかったのですから」

「わたし達にとって、あなたのあの子がうまくいこうが失敗しようが最終的な結果は関係ないのですよ。あの子に男の子というものをもう少し知ってほしいという思いもありますし」

「身分の差があるとはいえ、あなたに本気で()()()があるとしたら当然応援します」

「まあそのときはしっかりと責任は取ってもらうつもりですが」

「てっきり遠くから覗き見していた感じでは、すでにすること済ませてお互いいいかんじになっていると思っていたのですけど」

「お互い慣れてしまったがゆえに、初々しい感じが一切見えていない状態だと思っていたのですけど」

「まさか()()じゃなかったとは……」

「私達に問われてそのたびに否定するあの子で楽しんでいたといわれても間違いなかったりもしますが」

「手を出していないというのも高評価でした。こっそりヤっていたならそれはそれでつるし上げる予定もありましたけど」

「一番大切にしたいのはあの子の気持ちでもあるのですが」

「その上で楽しませてくれるあなたというスパイスが必要なのです」

「つまり何が言いたいのかというと」

「さっさと買うものかっていい仲になってきやがれこのヘタレやろうということですね」

「……」

 怒涛の言葉に反論する術を、ジョイはもたない。それよりも告げられた言葉の中でさりげなく、それでもしっかりとけなされている気がするのは気のせいだろうか。

 また彼女達の言葉の中には随所になにやら娯楽の意味合いが混じったものも混じっている様子がある。それだけ刺激に飢えているのだろう。

 だからといって、今のジョイに人で楽しむなともほっといてくれともいえるわけではないが。

「いや、うん、わかったよ。わかりましたよ。手土産もってなだめてこればいいってことなんだよねぇ?」

 要約すればそうなのだけど

「その言葉です」

 ダメだしが入る。

「は?」

「なんですか『ねぇ』って。いやそれがあなたの口癖だというのは分かっているのですけどねっとりしすぎです。気持ち悪いです」

「……」

 散々な言われようである。

「まあこの際言葉遣いはよしとしましょう。これからゆっくり強制していけばいいし……」

「とりあえず重要なのは今です。どうやってカルラに会いに行くか……」

「服装は制服でよしとして、マカロンだけじゃたぶん物足りないですね」

「ここはやっぱり花を?」

「今の時期これといったものはないからアクセサリのほうが……」

「どうせなら紅茶とセットにしたほうがよさそうですね」

「そして『一緒にお茶をしよう』と誘わせると」

「むしろ外に連れ出してもらったほうがわたし達も見学できますし」

「それならルージュヒルに直接いったほうがいいわね」

「いや、ちょっと? 俺の意見と予定は?」

 ほっといたら勝手に今後の予定も組まれそうな気配がして、なんとかジョイは手と声を上げ

「なんですか? せっかく協力してあげるといっているのに文句でも?」

 みごとにつぶされる。

 ジョイとしては、協力してもらえるならそれはそれでありがたい。

 ただ、自分のペースでやって行きたいというものがある。いちいち自分の行動を人に見られるというのもいただけない。できるなら、人のいないところで二人きりでゆっくり話したいともおもっているのだ。この二人はそれを許してくれそうにもないが。

 うまくなんとか出し抜こうにも、現状ここから離れればこの二人はいやでもくっついてくるだろう。彼女達の練り上げたプランを無視して動けば絶対何か文句をいってきそうで、それはそれで後々恐ろしいことになりそうで怖い。

 三人寄れば姦しいといったのは一体どこの誰なんだろうか。二人でも十分やかましいというのか、太刀打ちできないというのか……好きなだけ喋らせてうまく撒くしかない……

 いまなお思考するジョイの前では、二人の少女が友人のためという言い分を盾にした自分達の娯楽を、いかにして盛り上げるかで会話をヒートアップさせていた。


 ああ、雪合戦一緒に見に行きたかったんだけどねぇ。


 ジョイの心の声は誰にも届くことは無かった。


こういうときの正しい行動ってなんでしょうね?

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