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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
彼のいない日常
44/84

3-ジャック1

ひとつうっかり設定ミスでそのまま投稿してしまったので、も一個投稿です(執筆中のリストの邪魔になったからとか言わない)


真冬のホラーで寒くなろう

 そのころ。

 クロエが飛び出しエリーが大図書館に着きジャックが運動をしてくるといって事務所を出、リッカが孤児院へと向かいユニがどこかへ出かけたころ。

 ハルフォード事務所周辺の、ハンターの仲間達の間で一つの噂が飛び交っていた。

 いわく


『骸骨剣士が戻ってきた』


 その話題はこの帝都を拠点としている冒険者達の間にも瞬く間に広まり、知らないものはたまり場にもなっている酒場で「その骸骨剣士とは何ぞや?」と首をかしげ、震える古参のものから説明をうける。


 すなわち

 いつごろ現れたのかは知らないが、少なくとも五、六年以上まえには存在していた白い剣士。肌も髪も着ているものも白いうえに、痩せていて穴のように黒い目をしている様子が骸骨に見えるが故の『骸骨剣士』。

 ただし、この二つ名は見た目に限るものではない。

 この骸骨剣士、まだ少年だったころから剣を一本片手に持ち、帝都のとある戦士に試合を挑んだ。

 当初はだれもが一笑に付していた。また夢見る若者が希望を抱いて挑戦してきたと。

 そしてその憶測は見事に当たり、少年は負け、負け続け、その気があったらまたこいといわれて追い出される。

 当然、相対した戦士は本気で言ったわけじゃない。リップサービスというものもあるし、またきたらちょっとは遊んでやってもいいだろうぐらいの気持ちであったのだ。きても二、三回程度だろうと。

 翌日、少年を追い出した戦士の下へ再び少年が現れる。また負けて、追い出される。

 その翌日、もう一度少年が現れた。負けて追い出される。

 次の日、また少年が現れた。負けても起き上がり、さらに勝負を挑んでくる。

 戦士は感心した。よくもここまで何度も挑戦できるものだと。あるとき少年に「よくやる。負けたよ」と伝えたら、ぱったりと少年は来なくなった。

 この負けたというのは、少年の根気に対してであり、勝負に負けたわけではないのだが……

 ある意味、この戦士は運がよかったのだろう。もし負けたといわなかったら、この後続出する犠牲者の一番最初の人物となっていたのだから。

 そして、別の冒険者の下へこの少年が現れる。

 勝負を挑み、負けて、追い返され、再戦し、倒され、起き上がり、再び挑む。

 冒険者は躍起になった。何度も挑んでくるこの少年がどこで根をあげるか気になった。

 一日目、二日目、三日目……日を追うごとに少年が一日に起き上がる回数がどんどん増えていく。ひっきりなしに現れ、何度も起き上がる少年を相手にしているうちに、この冒険者はノイローゼになった。

 また別の何でも屋のところに少年が現れた。何度も挑み、今度は勝ちを拾うこともできたが満足がいっていなかったようで再戦を挑む。

 勝ったり負けたりが続き、その無限ともいえる少年の挑戦から逃れるため、何でも屋の男は行方をくらませた。

 それ以後も、帝都中のあらゆる戦士達がこの少年の犠牲になった。

 あるものは気をやみ、あるものは剣を折り、またあるものは再起不能となった。

 この少年が現れ初めて、一年が過ぎたころからだろうか。彼に『骸骨剣士』の名が送られたのは。

 すなわち、見た目に限らず、倒しても倒しても起き上がる様は、ばらばらになっても核を潰さなければ復活するスケルトン(骸骨)の如く。

 また持っている剣も、いつのまにやら切っ先が平らな特殊な剣へと変わっており、これがよくスケルトンの持っている折れた剣を想起させたために、見事にはまっていた。

 顎がわるいのかそういう癖がついてしまっているのか、普段から歯を打ち鳴らしている姿も、スケルトンに似ていた。カタカタと笑うあの骸骨に……

 そして二年ほど前あたりからだろうか? この帝都で骸骨剣士を見かけなくなったのは。変わりに、大陸のいたる街で見かけたという話が時折旅するものの耳に入るようになる。

 ただそれでも、スラムの三原則やキンダーガーデンのルールほどではないにしろ、帝都で過ごすにあたって知っておくべき四方の規則ではないにしろ、『骸骨剣士に勝負を挑まれたら全力で逃げろ』という戦士達の暗黙の了解は静かに広まっていったのである。


「まあ、もしつかまっちまったら、こっちが全力で戦って、その上で負ければもう挑んでこないってのも救いなんだがな」

 古参の戦士はそう締めくくる。

 骸骨剣士自身実力はかなりあるほうで、格下にはまず挑んでこないということも救いだ。

「何度も何度も起き上がるって、それこそマモノじゃないですか。そんなヤツがいたらぜひとも見てみたいものですね。まあ昼間ならお化けはでないでしょう」

 新米戦士は信じていないのか、のんきに両腕を広げていう。

 そしてテーブルの上のジュース――昼間からさすがに酒を飲むわけではない――に手を伸ばしたときに、先輩戦士の表情が固まっていることに気がついた。

「どうしたんです? 先輩」

 ふと周囲のテーブルを見回してみても、まるでバケモノが現れたかのように皆の動きが止まってる。

 その顔は、どうも自分の背後、酒場の入り口に向けられているようだった。

 なんとなく、いやな予感が新米戦士を襲う。


 耳に、何かがずるずると足を引きずって歩いてくる音がやけに大きく聞こえた。


 誰かが生唾を飲み込む。


 キィ、と、酒場のドアが開く音がした。


 振り向くな。振り向いちゃいけない。絶対に振り向くんじゃない。


 でも、好奇心と恐怖にはどうしても勝てなかった。

 新米戦士は恐る恐る振り向く


「どどどどどうもももはははじめましててて。ああああたらしししししいいかかかかたですねねね。どどどどうでででですかかかかしししし試合でももも」


 カタカタと――本当は寒さのせいで――歯を鳴らしながらソイツ(・・・)がいた。

「――!!!」

 その日、とある酒場で一つの叫び声が上がり、また一人の戦士が犠牲になったのだった。



 □



 うーん、やはり避けられてる感じがしますねー

 ジャックは、自分が一つの伝説を作り上げてしまっていることを露知らず、酒場でエールを飲みながら心の中でつぶやく。

 ワタシとしては戦士同士仲良くしたいところなのですが。

 本人が仲良くしたくても、周囲はそのような眼で見ていないということに気付けていない。

 自分が戦士になろうと思った時はいつごろだったか。

 父親も母親もとくになにか特殊なものをもった人ではなかった。ただ、なんとなく小さなころから棒切れは振り回していた。

 あるとき漠然と、剣で身を立ててみるかと思い立って最初に行ったのは肉体作り。かなり長い期間行っていた気がする。おかげで丈夫な体になった。


 考えてみれば、そのころから他人と自分の体力の差がではじめていたような気がする。

 近隣の子供達のグループにはいって追いかけっこをしても、一人息が切れていないということがよくあったのだ。夕方になり、全員へとへとになって座り込んでいるときでも一人走り回っていたような記憶すらある。

 そんな前兆があったためだろう。今では日に何度勝負をしてもほとんど疲れるということがない。


 剣の技術は人から盗むことにした。自分に有益なものを盗み取るために、何度も挑戦して物にしていった。

 挑戦しているうちに出会った呪符剣は本当に運命の出会いだった。

 鉄の板とも剣とも取れないものに呪文を描き、魔力結晶や使い手自身によって魔力を流すことで呪文に合わせた効果を発揮する特殊な剣。いまでいう偽塊の奔り。最も原始的な偽塊ともいえる。

 しかも生体金属で作られていたのだから、文句無く飛びついた。結果的にさらに丈夫になった。


 この相棒には本当にお世話になっていますよねー

 ジャックはのんきに、傍らに立てかけている剣をさすりながらしみじみと思う。

 この剣が発する防御結界のおかげで、頭上から岩が降ってきたときも、谷底へうっかり落ちてしまったときも、グレートボアの群れに轢かれたときも無事だったのだ。


 そんなときだ。スラムの噂を聞いたのは。

 あらかた周辺のツワモノとは手合わせをすませ、満足の行く相手がいなくなったときだ。

『堕天使』、『死神』、『悪魔』。どれも危険極まりないとされ、触れるなともいわれている存在。

 キンダーガーデン(闘技場)のランカーも相手にしていたものの、ルールがややこしく満足に戦えない。そして上位者と会うには時間がかかりすぎる。

 よって、『彼ら』を探すことにしたのだがなかなか見つからない。

 スラムの代表格だというのに。

『堕天使』はあるときから住処を飛び立ち行方がしれなくなったという。その痕跡が残る不思議な場所が残っているだけだった。

『悪魔』は悪魔の使いを名乗る者はみつけれたけれど、本人は探し出せなかった。だが、その使いから話を聞く限りだととくに腕が立つ人物でもなさそうだった。

『死神』はそれらしき場所は分かったけれど、出会うことは無かった。そもそも、死神が出たところには寸断された肉体が残るのみで、()そう(・・)なのかが分からないという。結局諦めることになった。


 あの時は本当に残念でした。そして幸運でした。


 意気消沈してスラムから帰る途中で一人の少女と出会う。

 師匠その一、クロエ。

 自分よりもいくらか年下の彼女とであったときに、体中がぞわり(・・・)とした。

「おおおおねがいしますすす! わわわワタワタワタワタシとて手合わせししてくださああああいいいいい!!」

 叫びながらつい切りかかってしまったことは今でもすまないとは思っている。

 だが、つい飛び掛らずにはいられない何か(・・)を彼女は持っていたのだ。

 その結果

「み?」

 彼女は振り下ろされた剣をきれいに避け、代わりに自分がカウンターのパンチを見事に顔面にもらった。

 鼻血が飛び出て、歯も一、二本折れた。壁に背中を撃ちつけ一瞬意識がとんでもいた。

「ラ、ラいじょうぶ?」

 彼女が心配して覗き込んできたときには、全身が歓喜に震えていたものだ。

「もももももっと! おねがいします!」

 めずらしくあまりどもることもなく叫び、起き上がって彼女に向かっていく。殴り飛ばされる。蹴飛ばされる。石を投げつけられる。


 あの時が一番楽しかったかもしれません。最近の師匠はワタシをみるとすぐ逃げ出してしまう……

「お、おい、骸骨がわらってるぞ」

「あれか? あの世とでも交信してるのか?」

「さっきは剣をなで回していたし……次の犠牲者を考えているのかも知れねえ……」


 その後、羽をその背にもった少年が現れた。

 師匠その二、ソラ。

 逃げ回るクロエがおびき出したのか、誰かから連絡を受けてソラが着たのかそこはわからない。

 ただ、圧倒的な魔力弾の物量の前に、なすすべもなかった。

 呪符剣に埋め込まれた魔力結晶が全て弾けとんだこともはじめてだった。

 ほとんど飛びっぱなしで下りてこなかったソラを卑怯とは言うまい。こっちだって呪符剣で防御力を底上げしていたのだから。

 いつのまにやらクロエはいなくなり、地面は穴だらけになっていた。

 そして初めて戦いの中で気絶したのである。


 クロエが削っていなければこっちの魔力が尽きていたと、ソラは言ってましたね。

 もう二度と相手にしたくないとも。

 再びエールを口に運び、ジャックは心の中で苦笑する。

 気絶から回復すると、沢山の子供達に囲まれていてものすごく驚いた記憶もある。

 あの二人に負けたあと、なかなか再選する機会も無く、周辺の、時には遠方の街まで武者修行のたびに出ることにした。

 その結果は満足のいける相手に出会えたり出会えなかったり、関係のない被害に巻き込まれたり。

 ときおり孤児院に戻ってはクロエに再戦を挑むが、大抵は逃げられてしまう。かわりに孤児院の子供達の相手をするのだけれど、昔の自分をみているようでこういうのもいいかと楽しませてもらっている。

「そういえば、雪合戦がどうのといってましたね」

 この酒場に来る前のことだ。

 出掛けにリッカが「参加する?」と尋ねてきたので考えてみると返したのだった。

 たかが子供の遊びの雪合戦ではあるが、聞けばかなり本格的なものであるらしいし……

 たまには剣以外のものを握ってみてもいいのかもしれない。ちょうど新しいスタイルを身に着けようとおもっていたところでもあるし、意外なところにヒントというものは隠れているものだ。

「それにしても……挑戦者がきませんねー……」

 酒場を見回しても、自分と目を会わせる人がいない。ハンター、冒険者問わず、たまり場となっているこの酒場ならそれなりに見つかると思ったのだが。

 せっかく運動をしようとおもって出てきたのに誰も声を掛けてくれないのだ。

 今日は諦めたほうがいいのかもしれない。クロエが帰ってこれば相手をしてもらうのだけど……

 いや、それとも帝都中を歩き回って相手を探したほうがいいのか? いや今日は寒いし素直に変えりますか。

「マスター、お代、ここにおいておきますねー」

「まいどー」


 ずるずると、足を引きずるような音を立てながらジャックが酒場を出て行って、他の客達はやっと安堵のため息をつく。

 ちょっとでも目が合えば怖いぐらいに言い寄ってくるから下手に顔を上げられないのだ。

「それにしても先輩、あの背中の看板って意味あるんですかね?」

 出て行ったジャックの背中を見つめていた新米戦士が先輩に声をかける。

「いってやるな。見た目は間抜けだがアレ(・・)のおかげで俺達も警戒できるんだ」

『挑戦者募集中』

 対戦相手を探すために背負っているその看板が、逆に挑戦者の数を減らしているということに骸骨剣士のジャックはまだ気付いていない。


その姿、まごう事なき……


さて、この人どんな人? 

→ジャック「え、ワワワワタシですかかか?」


リッカ「ちょっとかわった剣士。いいひと」

エリー「初めて会ったのだけど……」(というか作中ではまだ会ってないわよ?)

ユニ“おもしろいおにいちゃん”

クロエ「みぎゃあああああああああああ!!!!」

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