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盛大な、勘違い
孤児院をでたソラは忘れ物があったことに気づき、事務所にもどった。
階段をのぼり、鍵を開けようとしたところで・・・
(あいてる?)
確かに、しめたはずだ。そっと、息を殺して中に滑り込む。
右手はすでに腰のダガーの位置にある。
2階、応接室、事務所、異常なし。
1階の倉庫へのドアの鍵はしまったまま。
3階、奥にみえる共用スペースは問題ないようだ。
が、手前から二番目、左側の部屋のドアが
(わずかにあいている)
近づき、そっと中をうかがうものの見える位置にはなにもいない。中には人の気配。
(リッカがいれば『視て』もらうだけで済んだけど、飛んで外から入ったほうがよかったか・・・)
勘がいい相手なら漏れる魔力に気付くこともあるが。
(さて、この部屋は・・・)
思い出して、ドアを押し込みながら身を低くしてするりと部屋に飛び込んだ。
同時に突き出されてくる銃口を、右のダガーで、はじく。
それる銃弾。
「うお・・・」
侵入者は声を上げながら、銃とは反対の右手を向けてくるが、いなす。そのまま、足払い。
「ちょ・・・ま・・・」
倒れ、転がって逃げようとする侵入者の首筋に、ダガーを突きつけた。
侵入者は両腕を上げて、苦笑いをして言う。
「負けだ負けだ」
その侵入者はなんてことのない、見知った人物。
黒い髪を無造作に後ろで束ね、浅黒い肌に精悍な顔立ち。
街を歩けば10人に5人は振り向いてくれるといいなぁと普段からぼやいている男。
ハルフォード事務所の仮従業員。ジョイである。
(相変らず、表情の一つも変えねえよなぁ)
ソラがダガーをしまう姿をみながら、ジョイはおもう。
(はじめてあったときと比べれば、まだだいぶわかるようになったがそれでも・・・リッカは『すっごいコロコロ変わってるよー?』とはいうが、『眼』でみずに心でみてるんだろうなぁ)
左手の機塊を戻し、起き上がる。
相変らず、仕掛けてみても勝てたためしはないというところは変わらない。
「早かったな。今日は」
「学園、今日は授業無かったからな。たまにはうちにもこいよ。サシャが『また一緒に飛んで~』ていってたぞ」
「あれは、うるさい」
お、いま顔をしかめなかったか?
つい、かわいくおもってサシャを相手にしている感じに頭を撫でようとした。
「なんだ?」
避けられて、のど元にダガーの切っ先が突きつけられる。いつぬいたか相変らずわからない。
(かわんねぇよなぁ)
いや、吹っ飛ばされなくなったというだけでも、変わったのか。
それは3年前
およそ自分が今のソラと同じぐらいの、15のとき。
□ □ □
その誕生日のときに、俺の左腕が機械化した。
親父は『俺は外からきたからわからんぞ』といってたが、期待していたのは知っている。
親父と一緒に喜んで飛び跳ねていたら母さんと先月10になったばかりの妹にあきれられた。
女にはメカメカしさのよさがわからんのだよ!と、親父がわからないことをいっていた。
学園では機塊持ち向けの、猟団行き用の授業も一緒に受けるようになったが 親父は学校の訓練とは別に冒険者時代に知り合ったその道のプロにお願いしたという。
そのプロとは何を隠そう、いまやアンダータウンでは知らない人はいないという、ハルフォードの事務所の所長ハルフォードその人だと!
一桁しかいない所員を率いながら、かつてドラゴンを倒し、エニグマの大侵攻を食い止め、住民達を代表し貴族に意見をしたというその人が俺の師匠に!
しかも、その事務所には年の近い子もいて、その相手もしてほしいのだとか。
最高の機塊持ちの元で修行ができて、友達が増えて、さらにお小遣いまでもらえるという好条件に、俺はうもすも無く飛びついた。
当日、その日の授業がおわり、親父に連れられ、ハルフォードのオヤジさん――事務所の人達はそう呼ぶらしい――にはじめて出会う。
その巨漢は、背からのびた鎖状のアームを邪魔にならないよう腕と体に巻きつけ、それでもなお巨大な棘付鉄球を引きずっていた。
2メルテは越えそうな越えそうな体に、直径1メルテはありそうな鉄球。圧巻である。
挨拶もソコソコに親父達で話をするということで、おれは4階に通された。
そこの部屋の一角に例の子はいるという。
俺を案内してくれたお姉さんは
「がんばってね」
と、ドアの前に俺をおいて下の階にもどっていく。
その言葉に疑問を感じながら、ノック。返事はない。
そうっとドアを開けると
そこに
天使がいた。
椅子に逆向きに座り、背もたれにかぶさるようにして眠っている。
なんでそんな不自然な寝かたをと、疑問を持つ必要もない。蒼い羽が、呼吸にあわせて拡がっているのだから。
その背に輝くクリスタルの羽は魔力の結晶。砂色の髪短い髪といっしょに日に輝いて。
ときに零れ落ちた魔力の粒子が新たに部屋に加わっては別の場所にある粒子が部屋に溶け込む。
つと、眠たげに開かれた空色の目は、周りの魔力光に照らされて妖しく色を変えた。
着ているローブからのぞく手足は白くて、ちいさい。
『美少女』だ。
一目ぼれ。かわいい。それ以上に、美しい。
15歳の子供が何をというかもしれないが、それしか感想しか無かった。
部屋いっぱいにあふれている魔力の粒子が、その幻想を引き立てている。
そして、動かない。
呼吸とともにわずかに揺れるその羽が無ければ、部屋全体をつかった芸術品だといわれても、うなずけただろう。
「痛っ」
ジっと、肌に触れた魔力粒子に肌をやかれて我に返った。
「ダレ?」
ふと、部屋に女の子の声が響く。
周りを見渡しても誰もいない。
いや、目の前。彼女の眼がじっと、こちらを見つめている。
「いや、えっと、おれは・・・」
いいよどんで、なんていえばいいのかわからず、まごつく。
挙動不審。
そのうちに下から俺を呼ぶ声が聞こえて、それに答えて振り向くと彼女はまた眼を閉じていた。
(・・・嫌われた?)
もういちど俺を呼ぶ声が聞こえて、結局その日はそのまま帰ることになった。
□ □ □
黒歴史、だよなぁ
しみじみと、ソラを見て思う。
「なんだ?」
「べつに・・・」
あれからしばらくの間、およそ1年。こいつの性別を勘違いしたせいでしなくてもいい苦労をすることになった。
俺の青春をかえせ!
いやだって、誰もいわない。誰も指摘しない。しかもいまだにうっかりすると間違えるぐらいなのだから。
うん、俺は悪くない。
そもそも俺はロリコンじゃない。相手は推定12歳だったという話じゃないか3つしか変わらない。
かわいい弟が増えたとおもえばいいんだ。できれば妹がよかったが・・・そしてこっちをじっと見つめてどうしようもなくなったときに「ジョイ」と、ぼそっと声を掛けてくれれば。いや、ここはやっぱり「兄さん」がいいか?それとも「兄上」?むしろここは・・・・・・
ちく
おや、のどになにかささったきがするぞ?
心を読んだかのように、ソラの目がするどくなっいた。ごまかすように確認する。
「で、どっか出てたのか?」
「いや、仕事。そういやお前、貴族にツテはあるか?」
お前じゃなくて兄さ・・・いや冗談ですごめんなさい。
そして告げてくる、一つの家名。
「バーズンって、偽塊の有名メーカーじゃねえか」
「そうなのか」
「ああ、大手ってわけではないけど、いいものを作る。小型の偽塊がメインだったかな?量産できるような技術がうまれれば一気に大手になるぞここは。」
「ふぅん・・・じゃあ、基本情報と周辺情報。ついでに各種関係性を」
しらべろと。
「まあ貴族と平民でクラスが分かれちゃいるが・・・まあなんとかなるだろ」
授業の一環でといえば大体のことは教えてもらえそうだ
所長達がいなくなっておよそ三年。正規雇用は学園を卒業してからということでまだアルバイト状態だというのが悲しい。ソラは俺の雇用主代理だし。
「ちなみに、依頼内容は?」
「そこの娘の護衛と調査。どうにもメンドイことになりそうな感じだ」
そういって、ナイフをしまい変わりに取り出してくる2枚のチラシ。
ほとんど同じことがかかれた、異なるソレをみて
「たしかにめんどくさくなりそうだなぁ」
うなる。
「ソラはどうする?」
「止まり木にいって鳥たちに聞いてくる」
いつもと変わらない表情。でも、その目の奥になにかを感じて声を掛けようとしたが、かなわなかった。
「ジョイ」
「なんだ?」
「頼んだ」
「おうよ」
少しはかわいげが出てきたじゃないか。よし、お兄さんがんばっちゃうぞー。
1メルテ=1メートル
某ゲーム風に言うとPC4のオープニングフェイズが終わったってところです。
それにしてもジョイ君の勘違いで番外編が一つ造れそうな・・・・・・需要あるのかな