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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
異世界人?と二つのお願い
35/84

2-14

親子の団欒

 また、お父様からお呼び出しだ。


 カルラはひとり、呼ばれた応接室まで向かって歩く。

 たぶん、以前うけた、『お願い』の進捗状況でも確認したいのだろう。

 お願いとは名ばかりの命令を、学業と平行しながらやってるのだ。友人付き合いもある。そんなに何度もあんな離れた事務所までいけない。たぶん相手の人が満足するような内容は、きっと手にはいっていない。それぐらい分かりそうなものだと思うのだけど、ちょっと急ぎすぎじゃないだろうか。

 少しでも情報をとおもってジョイを探しているものの、彼は学園はサボってるのか、自主休校なのか、あまり来てなくてつまりはなしを聞くこともできない。マリーとサナエからは愛しの彼が来なくて残念ねとからかわれてはいるが、決してそんなんじゃない。いい加減分かってくれないだろうか。

 だいたい、自分は普通でいたいのだ。

 こうして生活していると、自分も機塊持ち(ユーザー)で、両腕が機塊に変化してしまうということをついうっかり忘れてしまってはいるけれど、それでもひょんな弾みで展開してしまわないように気をつけてはいるけれど、それでもあの事務所に何度も行きたいとは思わない。今まで生活してきた感覚が残っていて、どうしてもユーザーに近づきたいとはおもえないのだ。まあ、ジョイさんに限っていえば、比較的会うことも多く性格もある程度知っているから付き合いやすいというものもあるけれど。彼もおなじ復元(ストレージ)できる人だし。

 あの事務所に近づきたくない理由としてはやっぱりあの子の存在が大きい。

 リッカ。左目が機塊のままだという少女。ソラを知ろうとすると必ず避けて通れない相手。どうしても、あのむき出しの目が向けられると、身がすくむ。彼女は『いろいろ視れる眼』だといっていたけれど、人の心まではさすがに読めないとはいっていたけれど、それでも、考えていることまで見透かされているような気がして落ち着かない。彼女の前では、物理的な隠し事はできないせいなのかもしれない。ちがう、怖いんだ。たぶん。私にとっては、あの金色の羽を広げたソラよりも。最初の印象がよかっただけに、ギャップのせいで余計に。

 ソラは何も感じてないのだろうか。それとも慣れてしまっているのだろうか。普段はその翼を閉じて、服の中にしまいこんでいるせいで、うっかりすると機塊持ちだということを忘れそうになる少年。わずかに、背中が翼で盛り上がっているからこそ分かるようなもので、その気になればノーマルの中にも簡単に紛れ込めるんじゃないだろうか。それでも、あの羽は目立つこと間違いない。広げれば、日に輝いて、蒼い粒子が飛び散る姿は美しいというよりは幻想的で、彼の周りになぜか女の子があつまっているのも、かわいいとかきれいだとかじゃなくて、あの羽のせいなような気がする。あの羽も、根元の翼も、触ったことはない。触ったことはないけれど……

 自分の胸をふと触ってみる。

 ほどよい重量があるなら、胸とのバランスが取れてもいいかもしれない……あのときたまたまきていたいろいろとダイナミックな女性も、背中に翼を持っていたのに姿勢よかったし……ああ、でもなんか肩は余分に懲りそうだから、やっぱりないほうがいいのかもしれない。

 そう考えると、やっぱり自分の『腕』は不便だ。普段から必要ないのに、細かい調整が効かない出力。両手が外れることでのバランスの変化と重さの変化。魔力が抜けていくことによる肉体的でも精神的でもない独特な疲労。実はお父様にも、お母様にも隠れて、こっそり部屋の中で何度か練習はしたことがある。砲撃はさすがに撃ってないけれど、それでもやっぱり慣れたとはいえない。慣れたいとも思えない。普段とはまったく違う感覚になるのだ。彼らはなんで平気なのだろうか。なんであんなになんともないように操れるのだろうか。生活の糧になっているともいうけれど。

 今度ジョイさんに聞いてみるか。

 ジョイさんにしても、よくあの二人と付き合っていけると思う。アルバイトだから接している時間が少ないせいなのかもしれないけれど。

 そしてあの方(・・・)。自分が行くようなパーティーで会うようなことも無くて、直接見たことは無かったけれど、あの時あったのが初めてだったのだけど、聞いていた特長が見事に当てはまった。間違いない。あの朱い髪に、蒼い目。あのヒトは……

「あ……」

 心の中で言葉にする前に目的地についてしまった。

 目の前には応接室のドア。

 今きている『お客様』は、みんな(・・・)の動きがあわただしいことから、それなりに大切なお客様だということはなんとなく分かる。お父様の知り合いだとして、お父様の仕事の関係上、機塊に対する親和派でも排除派でもどちらともありうるから、そこから絞ることは難しい。親しいといわれている方達であればもっとみんなは落ち着いているはずだし……

 ひょっとして私のお見合いの打診?

 あと半年もすれば十八だ。お父様は自由に恋愛すればいいとはいってくださってるけど、相手が持ち込んできたとしたら……

「あれ?」

 そうだ。お客様だ。

 もし私に関係あることなら、お父様を通じてあらかじめスケジュールの確認があるはず。仮に、本当にお見合い相手の紹介で私に合いたいのだとしたらなおさら。

 お父様が進捗状況の確認をしたいという線も消える。あんなの、いつもの書斎で聞けばいいのだし。

 単純に私を紹介するため?

 それにしてはばあやが呼びに来たとき、

 なんだろう。握りかけたドアノブをつかむのが凄く怖い。

 ああそうだ。入室前にノックを……

 室内から返事があった。

 ドアノブを握り、ドアを開ける。

「失礼します」

 中にいた人物は、お父様とお母様。あと、知らない男性。若い。四十台ぐらい……?

 着ているものは、かなりいい。どう見ても、上流階級。よく見かけるような、ややくすんだ金髪。目の色はアンバー。不敵といってもいいような笑みをうかべて、その目で私のことをみてくる。

「紹介しましょう。娘のカルラです」

 お父様が、最近ではすっかり見慣れてしまった困り顔を隠し切れず、私を紹介する。

「カルラ、こちらが例の『お願い』の、アトム・オスフェアレ公爵様だ」


 頭が真っ白になった。


「えっと……」

 なんとか、言葉を捜して頭を回転させる。

「本日は……」

 言葉を適当につないで、時間を稼ぐ。

「どのような……」

 公爵のことについて知っていること……なにがあったっけ。

「レポートじゃ分かりにくいものもあったからね。直接聞こうとおもってきたんだ」

 きたんだじゃねえだろおい! ……いけないいけない。思わず口に出してしまいそうだった。

 あまりにも突然すぎる。普通こういうことってやっぱりアポイントメントを取ってから動くものじゃないのだろうか。それとも下にいる人間の都合はお構いなしとか?

 それにしても深い声。これは見た目もあいまって社交界からも人気が高いのではないか。

 ……そうじゃなくて

「まあ、漠然としすぎていいにくいだろうからね。こちらから質問してそれに答えてもらうという形でいいよ」

 オスフィアレ公爵。たしか現皇帝の従姉妹である、アルバ様が嫁いだ相手。北のほうでなんらかの武功を建ててそれを認められたとか、小さかったころに聞いた覚えがある。

「まず、どんな子なんだ? そのソラという子は」

「どんなと言われましても……無口、無愛想、無表情、としか」

 レポートにも書いたことだ。というより、書けることが少なすぎる。

 ここで、機塊持ち排除派じゃなかったかと尋ねることはできない。下手なことはいえない。

「うん、そうだな。具体的には……周囲からの人気。そういうものだよ」

 排除派の中でも特に厳しい方であり、知り合いはすべてノーマルだとか。そんな人が、ソラを、なんで?

「町の人からの人気は、悪くないと思います。なんだかんだで依頼も受けているようですし……」

「君個人としては?」

「感謝、してます。いろいろと助けてもらいましたし……」



 それからも、いろいろなことを聞いてきた。癖、趣味はあるのか、行動的か否か、信念はあるのか。他にも分からないようなことまで。

 なんとか答えてはいったものの、正直にいって役に立つとは思えないし、役に立っているとはおもえない。でも、それでも十分だったようで、急に黙る。

 片手を口に当て、何やらを考えているみたいだったけれども、ふと、口の端を釣り上げた。

 ああ、あの目は人を利用する人の目だ。

 なるほど、野心家といわれるのもうなづける。おおくの女性はあの目に惹きつけられるだろう。でも私はごめんだ。できるならジョイさんのような、もっと優しい目をした人がいい。

 眼。

 ふと、朱い髪が脳裏をよぎった。

「ありがとう。有意義な時間だったよ」

 そういって、帰ることを告げてきた。本当にソラのことを聞きに来ただけらしい。

 お父様が夕食にも誘っていたけれど、辞退されて、魔動車で帰っていった。

「ねえお父様。ヴィクトリカ皇女様っていまおいくつでしたっけ?」

「どうしたんだ? 急に」

 見送るために玄関に出たまま、魔動車が見えなくなってからお父様に尋ねる。

「たしか十五、六ぐらいだとおもったけどなあ」

「そう、ですか」

 たとえば、あの事件で一部で有名になったソラを、あの皇女様がほしがったとしたら? 排除派が多い貴族達の中で、皇女だというにも関わらず機塊好きだということを公言しているというし。そのために公爵様に声を掛けた?

 いや、だとしたら公爵様が自分で足を運ぶわけがない。

 じゃあ、皇女様の遊び相手に充てるためにソラを? そのためだけに、間接的にとはいえ嫌いとする機塊持ちのことを?

 そもそも皇女様が自分で会いに来ていたのだ。

 まだ、弱い。

 アレだけの大物が一個人を気にする理由にしては、何かが足りない。

「オスフェアレ公爵というのはどういう方で?」

「そうだなぁ……」

 家の中にはいりながら、お父様は首をひねる。

「たぶん君が知っていることそのままだと思うよ。野心家で、男女問わず人気が高い。同時に、腕の立つ武人でもある。ただ、相手の予定を確認するといった配慮に掛けるところもあって、そこで好悪が分かれるかな?」

 まったくそのままだった。

「ああ、あとかなりの愛妻家ともきくね。何年前だったかな? 長子が死産だったらしいのだけど、それ以降妾をとろうともせず、かといって養子をとることもせず……アルバ様のことを思ってだろうという噂がたっているね」

 私が、社交界に気があるとおもわれたのか、喜んで教えてくれる。

「ひょっとしたら、ソラ君を引き入れるつもりなのか。機塊持ち嫌いでも彼の戦力としては見逃せないものがあるだろうし」

「なるほど……」

 一理あるかもしれない。もっともあれは戦力というには大きすぎる力のような気がした。なんといっていたっけ? 不可解(ラディカル)回路(サーキット)とかいってたような。見たのは一度。どうじに、巻き込まれて体感したのも一度。不可解で、不可思議で、他の偽塊による攻撃はすべてシャットダウンして、ジョイさんや学園で垣間見るほかの機塊持ちの人達とは違う次元の気配がしていた。

 それに、ソラのあの性格は、人の言うことを素直に聞くとは思えない。だからといって、人の上に立てるような性格でもない気がする。そこのところはジョイさんやリッカがうまく操ってやっていたようだけど、コツがあるのかどうなのか。

「でも、だからといってこうして足を運ぶと思いますか?」

「どうだろうね。私もそう親しいというわけでもないし」

 ひょっとしたら、引き入れや操作自体は他人に任せるかもしれないけれど、でも、だからといって、納得はできない。

「納得してない顔だね」

「納得してない顔です」

 もし、わたしの身分がもう少し高ければ、納得できる理由を探すことができたかもしれない。ただこればっかりはお父様やお母様のものが関係してくるので仕方がない。学校の友人からうまく情報を仕入れるというのもアリかもしれないけれど、悲しいかな上流階級の方々に詳しい友人はいないのだ。いてもそこまで親しいわけでもないし。手詰まり。なにか、重要な情報がほしい……

「まあ、君の知りたがりは別に悪くないことではあるけれど、僕らの立場じゃ踏み込んだところまで知ってしまうと、後がなくなってしまうから。ほどほどに、ね」

「……はい」

「さ、そろそろ夕食だ。難しいことは後にしようか」

 促されて、食堂に向かう。

 教えてくれるかどうかは別として、またジョイさんに聞いてみよう。何か分かることがあるかもしれない。


しょうげきのしんじつ


ジョイの家族

父親は元冒険者 母親は帝国民。やや年の離れた妹が一人。どの人もかなり前にチラ出したっきり。父親の冒険者時代の稼ぎがそれなりによかったうえに、ハンターとしてもいまだ稼いでいるため、生活は悪くない。

ジョイのアルバイトは経験を積ませるためと、お小遣いは自分で稼げという方針によるものだが、娘には甘い両親でもある。

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