2-9
おせっきょう
なんだか、ねぇ
ジョイは心の中でつぶやく。
この間のカルラちゃん襲撃事件じゃないけれど、下手をすればそれ以上に厄介なものに巻き込まれている気がしてならない。
あれは結局犯人であったデトス・ヒルトマンをソラがぶちのめす形で終わったけれど。
今回のこれはなんだろうか。
飛行者の謎の失踪。
カルラちゃんへの謎の人物の依頼。
謎の少女のソラへのコンタクト。
あと気になっているのが決闘者の失踪。
そう、ソラとあの護衛の人との手合わせがあった翌日、調べてみたら案の定まだ見つかっていないそうだ。
しかもただの上位ランカーだとおもっていたら部位別のトップに立っていたという人物達が。
だれも、最後に目撃してからというもの、どこに行くとも、どこへ行ったとも誰も聞いていなくて、足取りが一切つかめていないというのも、飛行者の件と似ている気がしてならない。
「それにしても俺、ちゃんと卒業できるのかねぇ?」
いまのところ、ソラが絶対安静でろくずっぽ動けず、ほかの女の子達は別々で動いている、らしい。
とはいっても、あの魔法使いだというエリーちゃんが一人、アツヤの正体が分かるかもしれないと魔女にコンタクトを取ろうとしているだけ。つまりなにもできていない。
さらに、リッカちゃんが『視た』限りだと事務所の周囲に十人ほど護衛さんとおなじ服を着ている人達が隠れているらしいのだ。中には『耳』をもってるひともいて、大体の情報、特に会話は筒抜けだと。そして外に出ればこっそりついてきてる人がいるという。できるならストーカーで訴えたいところだけれど、相手が国家権力となるとなんともしがたい。
なんともしがたい。恐らくはヴィヴィちゃんの護衛達ってことなんだろうけど、ちょっと物々しすぎやしないかねぇ?
「まあまだ出席日数は足りてるし……」
卒業できなくても中退して一応ここに転がり込むことはできる。とはいうけれどそれもなんだかいやではある。まあ卒業するだけなら別に何も変わらないともいえるとは言えるけど。
親父は中退しても構わないといって笑いそうな気もするが……うーん。
ちなみにカルラちゃんの件は別人からの依頼な様子がある。本人に確認したわけでもないけれど、普通自分で依頼しておいて調べに来るだなんてしないしねぇ。まあ、カルラちゃんはヴィヴィちゃんのことなにか知ってる様子だったから今度きいといたほうがいい気もするけど。カルラちゃん自身の調べものは昨日の時点ではどたばたしていてほとんど進んでないように見える。リッカちゃんに苦手意識もっているようで、なかなか聞けないらしい。まあ、いちど勝手に許可しといてなんだけど、今の状況が終わってからにしてもらいたいところだ。
異世界からきたというアツヤ君はあの日以降、四階の訓練室で素振りを始めたそうだ。といっても次の日、つまり今日。全身筋肉痛でばてて、あてがわれている部屋でダウンしていた。なんとか話を聞き出してみると、争いのない平和なところからきたって言うしねぇ。
「争いのないところというと……」
世界最大の中立国、龍皇国。竜に守られている土地。人種の坩堝。とくに聖府から逃げ出す獣人達が亡命先に選ぶことがおおいとかなんとか。
「ただ、人同士の争いがないってだけで街の外にでれば狩り放題ともいうんだよねぇ」
むしろ武器をもたない人間の方が少ないらしいと、授業でならったところである。
「というか、ドラゴン、みてみたいよねぇ」
亜竜とよばれるものなら見たことがあったけれど、あれはまさしくただのでかいトカゲだった。火を吹きもしなかったし、空も飛ばなかった。ちゃんとした竜は喋れなくても人語を解するというし、竜語魔法やブレスもつかうという。
まあいまはそれよりも
「こっちだよねぇ」
傍らを見る。
「おお、アカネそれをこっちに」
「ヴィー、違います。これはあちらです」
「ん、そうか? おお、これも入れよう」
「いいですね。ではこれとこれも」
ソラはほっとくとすぐ動こうとする。抑えておくためにはユニちゃんだけでは心もとないからリッカちゃんも追加。
アツヤ君はダウン中。クロエちゃんはそれを突っついて遊んでる。エリーちゃんは魔女に会いにお出かけ中。
まともに動ける人間がいないため、ソラと情報の共有もあわせて学園を休み、昼ごはんを作りにきたわけなんだが
「なんで君達がいるのかねぇ?」
入り口には閉店中の看板を掛けておいたはずだ。いやそもそもこの二人、一昨日は帰ったはずじゃなかったか?
「なに、ソラが動けないと聞いたのでな。わたし手ずから手伝いに着てやったのだ」
「手伝い、ねぇ……」
彼女達の背後を見る。
そこにはかつて食材だったものがごちゃごちゃと山になっていた。
いま彼女達が手元に持っているものも、どうにもカオスな色味をしている。
「何をどうやったらそうなるのかねぇ」
「なんだ? 何か間違ってるのか?」
事務所に入ったとたん、そこら中が散らかっていて、なにがあったのかと聞けば彼女達が掃除をしたという。いままでしまわれていた関係の無いものが出ていることは掃除というのだろうか。
洗濯物はクロエちゃんと一緒に水浸しになり、さらに汚しなおした。リッカちゃんがクロエちゃんともども三人、お説教タイムを繰り広げた。
料理は案の定である。名状しがたいなんとやらが出来上がっている気がするけど、それを食料だと、料理だと言い切るのだろうかこの二人は。さすがに俺やソラでもまだ食べれるものを作るぞ。
いや、考えてみれば昨日だってなにやら大量のにもつを運び込もうとしていた。完全に居座ろうという気がありありと見えたから、絶対に事務所を通さないようにとなんとか頑張ったのだけど。
片手で顔を抑えて、ため息混じりに告げてやる。
「他のみんなよりはソラの相棒やってる期間長いからねぇ。年上だし、俺がやっぱいわないといけないかなとは思ったんだけど」
さすがにリッカちゃんには負けるだろうけど、彼女は相棒というよりは伴侶だしな。
『聴いて』いる人物がいるならちょうどいい。ついでにこちらの訴えぐらい聞いてほしいものだ。自分達の主を諌めるのはこの護衛さんだけの仕事じゃ、ないんだろう?
「実際のところ、ヴィヴィちゃんは何をしたいのかねぇ?」
「どういうことだ?」
わけがわからないという顔をし、二人顔を見合わせている」
「分かってないなら尚のことたちが悪いんだけど」
本当にわからないというのか。
「ソラを調べ上げ、傷つけ、事務所の周りを囲って、コッチは仕事にならないんだよねぇ?」
「だからこそ手を貸そうと」
「それが、邪魔だって言ってるんだよねぇ」
そもそも、絶賛監視中だということは否定しないのか。その監視のせいでどれだけ気が休まらないか分かっているのか。
「普通に手伝うって言うなら別に文句は言わないさ。ただ、君達はここにきて遊んでいるだけにしか見えない」
遊んでいないというなら、せめてまともに家事ができてからにしてほしい。ここは嫁入り修行の場所じゃない。
「ソラが気になるならパーティーの招待状でも出して呼び寄せればいいだろう? 本人が行くかどうかわからないけど」
いや、彼女の性格を考えればソラはいかない。
「オヤジさんがいない分、ここの主はソラなんだ。その主の意志を無視して、さらにはほかの住人の意志すら無視して、君は何をしたいんだ?」
一昨日の『散歩』と『手合わせ』を了承したじゃないかというかもしれない。でもそれは、下手に断れば周囲の護衛たちを刺客として、武力行使を行ってくる可能性もあったからだと、いやいや従ったに過ぎない。彼女にはその気が無くても、十分に、脅迫だ。
「ねえ、ヴィヴィちゃんは何者なんだい?」
「……ただのヴィヴィだ」
「そのただのヴィヴィちゃんに何ができるのかっていってるんだよ」
口にしだしたらどんどん腹が立ってきた。
「貴様何を」
護衛さんが怒りをあらわにするがそんなの関係ない。
「身分を明かさない。猟団は連れてくる。家事全般は災害レベル。わがままし放題。自分で『ただの』といっているのに随分やりたい放題じゃあないか?」
にらみつけてやる。
「俺達は、ときどき法律すれすれのことだってやる。この間あった事件だってソラがつかまっててもおかしくは無かったんだ」
普段やってることは探偵まがいであることは自覚している。でも、必要があれば人を殺す事だってあるし、殺される事だってあるかもしれない。
「まあ、俺は生まれも育ちも平民の街、下町だ。ソラたちとは価値観がちがうだろうし、基準もきっと違う。それにおれたちゃオヤジさん達と比べりゃまだまだひよっこだ。くぐってきた修羅場の数だってそりゃ少ないさ。気にいって甘く見られ、手を出したくなっても仕方がないかもしれない。まあ、でも……」
一瞬で左腕を展開、ヴィヴィの額に銃口をつきたてる。
あまりにもとっさのことで、護衛さんは動けない。
「俺達にだってプライドはある。貴族の道楽で、貴族の基準で、俺達を振り回すなっていってるんだよ」
俺と動けないヴィヴィちゃんは、しばらくの間銃越しにそのまま見つめあった。
…………ちょっとやりすぎた?
□
「うんと、ソラ、この状況は……」
「うん? ジョイが来たから」
ぐっと腕に力をこめる
「……ユニもいるし」
「大丈夫。みていない」
ユニをみれば両手で顔をおおってる。しっかり指の間を空けていることも確認済み。なんら問題はない。
「で、なんで?」
「動くなっていうから」
「そりゃ動くなとはいったけど、激しい運動はダメってだけで……」
「だから、問題ない」
単純に言葉のあやを取っただけ。こういうことでもしないと時間は取れないのだし。
誤魔化しながらそのまま顔をうずめて、首筋に吸い付く。
「ちょっと! あのねえ」
リッカは顔をおさえて離そうとしてくる。
なら次の言い訳を。
「仰向けに寝るには羽があたって痛いし、普通にうつ伏せだと胸がいたい」
「だからってヒトを抱き枕にしなくていいでしょ」
「この方が早く治る」
「治らない!」
実際痛みはひいてる気がするのだけど、これを気のせいだというのか。
とりあえず話題をそらして気を散らせることにする。
「それで、あっち状況は?」
「まったくもう……台所も洗濯物もぐちゃぐちゃ。誰かさんが離してくれればなんとも無かったんだけどねー?」
「ま、たまの休みだとおもって」
「なんで今じゃないといけないの……ん、ジョイさんがなんか怒ってるみたいだけど?」
あっちを『視た』時に、何か変化があったらしい。
「うん?」
「左手突きつけてなんかいってる」
「あー……昔オレもジョイも貴族の相手して痛い目にあってるから」
「なにがあったの?」
「……」
あの時は本当にひどい目にあった。言葉にできないほどつらい目に……
「なに遠い目して……ひゃんっ」
「黙秘権を行使する」
「小難しいこといいながらどこ触ってるの」
「……リッカの体?」
ドコとはいわない。
「だから! ユニもいるから!」
「いなければいいというわけ?」
「そうじゃな……ユニもなんかいって!」
話を振られたユニは、黒板になにか書いてこちらに掲げた。
“わたしは、だいじょうぶだよ”
「まともな思考を持った人はいないの!?」
「人のベッドにハダカで入ってきたくせに」
「いやだってあのときはソラしかいなかったしユニも入ってくるとは思わなかったしそもそもヒトのこと引き剥がして簀巻きにしたでしょうが」
うん?それなら
「大体、リッカだって人のアレみたことあるわけだろ?」
「いやだってあれは外がうるさいと思って『視た』らたまたま見えちゃったというかなんというか」
「なら問題ない」
孤児院でも、だいたい卒業前の二人がこっそりのつもりでカップルになっていて、それを覗いている子供達もいるというぐらいだし。
「ないわけあるか! そしてさらっと人の服脱がそうとするな!」
「じゃあ一息ついたらどこかそとで」
「あ、うん……あれ?」
手を離したものだから驚いた拍子にオーケーをもらえた。
「外にいた人達が離れていくんだけど」
「うん? ……ジョイがなにかやったかな?」
「護衛さんもいない。あのヴィヴィってこは残ってるみたいだけど」
「ふーん?」
「ふーんってソラ起き上がってどこ行くの?」
「ジョイに、確認」
「だからって今すぐじゃなくてもいいじゃない」
“リッカねえもきゅうけい”
そういって、ユニが替わりにリッカに抱きつきに行く。
「そういうことだ」
人を『視る』からこそ、『視られる』ことに余計敏感になっているというのは、もうだいぶ前から気付いてはいた。あのヴィヴィがきてから監視している人物が入れ替わり、余計厳しくなったといっていたから、尚のこと気が休まらなかっただろうし、休めるときに休むべきだとはおもう。
去り際に、唇を軽く奪っていったら赤くなっていたけれど、そこは気づかなかったことにしておく。
ジョイってどうしてこうなんだか……
昔のネタ帳(別名:黒歴史ノート)がありました。
ソラ、カルラ、ジョイ、オヤジさん、リッカの五人の元の名前と簡単な解説しかなかったけど……
各人の機塊や特長はかわらなかってないというのに、リッカ、君の腕や足どうしたの!?。




