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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
彷徨う少女と理不尽な悪意
3/84

3-

説明回

「そういえば」

 早朝。朝食も済ませ、これから孤児院へと向かう道すがらのことである。

「ソラ……くん?の機塊ってどういうものなの?」

 カルラから唐突に尋ねられた。

「ソラでいい。なんでまた急に」

「いや、ほらリッカちゃんから『この近辺で一番強い』って聞いたから」

 昨晩の内緒話のときか。

「……言ったのか」

「とりあえず最強ってことだけ」

 間違っちゃいない。間違っちゃいないが

「魔力最大量にまかせた力押しだぞ?」

 そういって、服の内側にしまっていた蒼い羽を展開する

「それ……が……?」

 広がる4枚ずつの蒼い羽。魔力光をもらしながら日の光に輝いている。

「『明日をも知れえぬ翼』無駄に燃費が悪いばかりのガラクタだよ」

「って、この羽全部魔力結晶!?」

 カルラが、驚愕する。

「純度最低でも1枚で小さな家一軒立つじゃない」

「詳しいな」

「お父さん、偽塊関係の仕事関わってるみたいで何度かみたから」

「あー、それで」

 おもっていたよりもすんなり機塊化したことも受けいられたのか。

「お金になるかもしれないけど、危険すぎるんだよねー」

「危険?どうして」

「はずしたところで、衝撃をあたえれば簡単に爆発(・・)する。しかも、いちど試したけど差し込んだ偽塊が暴発した。それにこれはオレから魔力が噴出すのを防ぐように、栓になってる」

 うっかり壊れでもしたら魔力欠乏におちいる。

 この羽がどうやって円盤部に収納されているか自分自身かなり気にはなっているところ。

「爆発?破裂じゃなくて?」

 爆発。それも部屋のひとつが簡単に吹き飛ぶような。

「それに、ソラの場合この羽がすべてだもんね」

 そう、リッカが羽に手を伸ばしながらいう。

「燃費悪すぎて、飛ぶだけでも使う魔力の量が他の人と比べて数十倍ぐらいちがうかな」

「数十倍……」

「カルラさんの魔力量だと飛ぼうとしたら2秒ですぐ気絶するぐらい・・・?」

「2秒……」

 それも、機塊化が発現しての数字だ。ただのノーマルだったら1秒と持たないはずである。

「ま、偽塊に転用することもできない、量ばかりの魔力タンクだよ」

 本当に、使い勝手ばかり悪い。

「あれ、そもそも魔力量なんて計測器使ってないのになんでわかるの?その目のおかげ?」

「うん。曇りきった眼(アナライズ・アイ)。相手の身長とか魔力とかあれやこれやが色や形、数字なんかでみえるの」

 ちなみにちょっとしたおまけ機能つき。

「それはぜひともうちにほしいわ……あれ、ひょっとしてカップとかも」

「うん?」

 リッカ、非常にいい笑顔をしている。

 殴りたい。この笑顔。

 とでもおもったのか、無意識のうちに握り締めていた右手に気がついて、カルラは大きくため息をついた。

「なんかもう、いろいろありすぎて吹っ切れちゃった。それにしてもなんなの、その変な名前」

「機塊持ちの中ではやってるのよね。魔法みたいにね、名前をつけるの。なぜか皮肉をこめて真逆の意味を持つ言葉がはいるんだけど」

「ふーん……あれ、ソラの場合は?」

「燃費が悪すぎていつ魔力切れになるかもわからないだろ」

「ああ……ところで、こっちってスラムじゃなかったの?」

 橋をわたりきったところでやっと気がついたようで、あわてて確認をしてくる。

「孤児院がこっちのほうにあるからねー」

「……孤児院?」

「うん。普段わたしが住んでいるところ」

 伝えていなかっただろうか。

「人が多いほうがなじみやすいとおもって」

 道具も孤児院にあるわけだし。

「スラムといっても表層……居住区側はまだ安全なほうなんだよ。深部……外に行くにつれて危険度はあがるが壁を越えなければ大丈夫だ」

 それに

「何でも屋とはいったけど、オレは実際一人だ。護衛と調査同時になんてできない。」

 そして

「孤児院周辺にいるやつらは身内に優しい。天然の護衛兼トラップになる。こうして3人でのんびり歩いているのも、オレ達の身内だから手を出すなってね」

 そのぶん敵や部外者とみると容赦がないものも多い。つまり、天然の護衛兼トラップになる。

「意外とソラ達って、大物だったのね。なるほど、最強……」

 勘違いしているようだけど訂正しないでおく。

 どちらかというと孤児院関係者であることが重要な気もするが……あそこはスラムにある数少ない聖域だ。

「いきなり生活環境変わっちゃうかもだけど、ごめんね?」

「そこは、大丈夫かな。うちって貴族っていってもよくて中流どまりだったし」

 したたかそうで結構なことである。

「ついでだから、つくまでに機塊のこともうちょっと説明しようか」

 リッカがくるりとこちらを振り向いて、指を一本ずつ立てていく。

 一つ

「機塊は一人一部位一能力。両腕とか両足ってセットになってることもあるけど、右腕と左足がとか、羽と目がとかいうのはないね」

「だからハンターやってて腕以外の機塊を持つようなやつらは、その手に振動剣や魔力銃なんかの偽塊を持つことが多いな。オレの場合はただのダガーだけど」

「あと、見た目おなじようなモノなのに中はまったく違ってたりして、同じものはまずないってのも特徴かな?」

 二つ

「機塊は成長進化する。たとえばいままで『跳ぶ』ことにしか使えなかった足が『走る』ことにも使えるようになったり、火を吹く腕だったものが雷も打てるようになったり」

「飛ぶための羽が、進化させて魔力弾飛ばしたりその魔力弾を操ったりできるようになったりな。慣れていくうちにできることや方向性をうまく傾けることもできるようになる」

 三つ

「機塊が発現すると魔力量が増える。魔法使いとして覚醒するようなものかな」

 四つ

「機塊を使うと魔力を使う。偽塊と一緒だね。あと、このことから機塊持ちは他大陸の魔法使いと同じなんじゃないかっていってる人がいた。帝国出の魔法使いなんて機塊以上にみたことがないって言うし」

「じゃあ私が倒れたのって」

「うん。自立分離型の砲台だからね。無意識に、維持するのに必要以上に魔力使ってたんだとおもうよ」

 五つ

「機塊化した部位にあわせて、周辺の肉体が強化される。ふつーの体より重たいものをうごかすからね。直接的に筋肉が強くなったり、無意識に魔力で補助していたり」

 六つ

「これは一番気にしておいてほしいことなんだけど、偽塊とちがって、機塊は壊れてもちゃんとなおる。怪我が治るみたいにね。ただ機塊が大きく破壊されちゃってると直るまで元に『しまえ』なくなったり、逆に機塊化するところが大怪我をしてると展開できなかったりするの。」

「生体金属とただの金属の違い……?」

「そういうこと。とりあえずこんなとこかな?ソラ、あとなんかあったっけ?」

「こんなもんじゃなかったか?」

 角を曲がったところで、丁度よく一つの施設が目の前に見えてくる。



「ほら、あそこ!」




「ソラにぃ!」

「リッカねえおかえりー」

 子供達が駆け寄ってくる。子供たちは、右手が機塊と化し指がぞれぞれ刃物になっていたり、足がスパイクシューズのようになってたりとそのほとんどが機塊持ちであった。

「ソラにぃ、なんだよこのねーちゃん。うわきかー?」

 子供たちに遅れて一人の女性が歩いてくる

「あらお帰りなさい、二人とも。そちらはお客さん?」

「えっと、いきなりすみません。カルラ・バーズンといいます」

「セーナ・アクワイド。この孤児院の院長をしているわ」

「依頼人だ。しばらく、一週間ぐらい面倒見てもらえればと思って」

 どうにも、しゃべりにくい。この院長はあの貴婦人(マダム)と同じようで、なんか苦手だ。

「一週間って聞いてないわよ」

 そりゃそうだ。いっていない。

「まあ、とりあえずだ。はやくなる場合もある」

「セーナさん、わたし中の子達みてくるね」

「お願いするわ」

 子供たちにせかされて、先にリッカが中にはいっていった。

「さ、歓迎するわ。どうぞいらっしゃい」

「お世話に、なります?」

 くすくすと笑っている。



 □



 一度居間に通されて、あらためて起こったことを話すことになった。

 といっても出かけたら、襲われて、気がついたら機塊持ちになってて、拾われた。ただそれしかないのだけど。

「それは大変だったわねぇ」

 というのは院長であるセーナさんの感想。

「個人的に恨みを買うようなこともなかったんだよな?」

「たぶん。私の知らないところでってなるとわからないけど……」

「……ん、一度カルラの親にあう必要があるかもな。手紙なり、何か証明になるものがあればいいけど」

「わかった。手紙ね」

 と、セーナさんが

「ソラ君、『カルラさん』でしょ。年上の、それも女の子に対してもう少し言葉遣いのお勉強が必要だったかな?」

 笑顔で注意をする。目が笑ってない。

「いえ、別に気にしてないので……」

 何気に、お母さんよりもこのヒト怖いかもしれない。

「と、とりあえず、だ。手紙を書くにしても調べることがあるからすぐでなくていい。まだ機塊、不安定らしいから扱い方を覚えないとな」

 うっかり展開して、騒ぎにならないように。

「というわけでだ。まずは自分の機塊、展開できるか?しまったときの逆を意識すればできるとおもうけど」

「えっと……」

 目を閉じて、大切なのはイメージ。

 逆だから、両腕を前に出して、指先から変わっていく感じ。少しずつ肩まで上ってきて、間接に切れ目が入る。外れて、切れ目が合わさって……

 目を開ける

「……あれ?」

 できていない

「お茶のおかわり持ってきたよー」

「リッカ」

「なに?うん……あー……いちど外にでよか。あとソラちょっと……」

 なにやら内緒話をして

「なにを……それをやれと」

「うん……ソラなら大丈夫だって!」

 外に連れ出された。後ろをぞろぞろと子供たちがついてくる。

「えっと、なにを……」

「いやね、ちょっと……」

 大きくため息をついたソラではあるが、次の瞬間に膨れ上がる殺気。

 そして顔に唐突に伸ばされる腕。そこにいつのまにやらダガーが握られていて

(刺される!?)

 そこから逃れるようにカルラが両腕を突き出したときに


 轟音が響いた。


「あっぶねええええええええええええええええ」

「え、どういうこと・・・」

「すげえ!姉ちゃんもゆーざーだったのか!おいみろよへんけーしてたぞ!」

「うかんでる!」

「ちょっとこらあんたたち! ……まったく、なんで男の子ってこう言うのに弱いのかしら」

「おい!リッカ!いわれたとおりやったら死に掛けたぞ!いやマジでかなり結構!」

 目を開けたとき、目の前、ソラの立っていた後ろに向かって、地面はえぐれその先の壁に穴があいていた。

「……なにが」

「うんとね、カルラちゃんの、自立分離型の自動迎撃砲台っていえばいいのかな……少なくともいまは敵意とか危機感に反応して動くみたいなの」

 つい、目の前に飛んできた石を、条件反射で払っちゃうようなものだよー。とはいうけども。

「名前付けるとしたら、『傷つけること(ジェノサイド)あたわぬ腕(カノン)』ってところかな?当面の目標は、展開しても撃たないっていう選択肢を作れるようになることだね!」


 砲台が、いまだぱりぱりと魔力の残滓を放出していた。



 □



「ああ、一つ。重要なことを忘れてた」


「なに?」

 昼も近くなったころ、ソラが調べ物ついでに外で昼食を取るということで飛び立とうとしたときのことである。

「ここ、というかスラム地域にいるときに覚えていたほうがいいルールがある。ルールというよりは原則のようなもので、どうしようもないといえばどうしようもないが」

 覚えておくだけでいい。これのおかげでスラムの秩序といえない秩序が保たれてるともいえる。

 そういったソラが告げた、三つの、言葉。


「死神に出会うな」

 命を失うから。


「悪魔に関わるな」

 身の破滅が待っている。


「堕天使に近づくな」

 潰れるぞ。


「出会うこと自体まずないとはおもうけど、な」

「なに、それ」

「オレより強くて危ないやつらなんて、ごろごろいるってことだ」


 青い、魔力光の残滓が昼の空にとけていった。

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