2-8
わがままパート2
ソラ達が事務所に戻ると、マリアとカルラはすでにいなくなっていた。ユニとクロエもいない。おそらく自分の部屋にいるのだろう。
ジョイはまだ残っており、なんともいえない空気が残っている。
待合室にいた護衛のもとにヴィヴィをおいて、ソラは一人応接室に入る。
「どうした」
「あー……なんともいえないことなんだけどねぇ」
ソラが出ている間に、一通りの情報交換はしていたらしい。そこで一つ気にかかることがあったというのだ。
「関連があるかどうかはわからないんだけどねぇ。急な失踪って、他にもあったんだよ」
闘技場の、上位ランカーの件を伝える。
「アレ以後キンダーガーデンにはいってないからねぇ。ひょっとしたら戻ってるかもしれないけれど」
考えすぎかねぇ? とジョイはつぶやく。闘技場で欠場する場合は、事前になんらかの確認がなされているらしい。しかし、ジョイが見ている限りではそのようなそぶりも無かった。
話を聞く限りではただの偶然のような気はする。
ただ、上位の、それもペアがまとめてということはどこか気にかかることがないわけでもない。
「それよりもまずは……」
待合室のドアを見て、ソラが告げる
「厄介者を追い払わないと」
□
「は? 手合わせ?」
「オレの実力というものを見たいらしい」
「そんなもんお断りすりゃいいじゃない」
「断ったら断ったで、毎日ここに来るそうだ」
「それは……迷惑以外の何者でもないわねー」
皆がみな、うんざりした声を上げる。
そのままずらずらと、総勢七名で事務所の隣の空き地に移動した。
ユニとクロエは部屋で昼寝をしている。
「うん、七人?」
ソラ、リッカ、エリー、ジョイ、ヴィヴィ、護衛さん、アツヤ。
「問題ないわね……ありすぎるわよ!?」
エリーが一人で騒ぐ。
「なんであんたまで来てるのよ」
「おレ、もおレ、も」
アツヤのことである。
どうやら、話を聞いていたようで自分も参加したいということだ。何をやるのかわかっているのだろうか?
「まあ、いちど現実を見せてあげたほうがいいんじゃない?」
というのはリッカの言葉。
日ごろの行動を見て、アツヤが何かを勘違いしているということは感じている。
そのままソラに一言断りを入れ、倉庫に入っていった。アツヤのためになにか適当な棒でも探しに言ったのだろう。
ちなみにヴィヴィにも確認したところ
「かまわん」
の一言で参加が決まってしまった。ついでに彼女も彼のような迷子は聞いたことがないそうだ。
「何者なんだろうねぇ?」
広場に着き、一人屈伸をはじめているアツヤをみてジョイがつぶやく。
戻ってきたリッカがやれやれという顔で棒切れを渡していた。
誰がやる?
アタシは魔法だし……
人に教えるのは苦手なんだよねぇ。
三人が顔を見合わせ、ヴィヴィに顔を向ける。
「うん? なんならアカネを貸そうか?」
「ヴィー、いいのですか?」
「素人みたいだしな。どうやらあやつらは人に指導するのは苦手なようだしな」
ヴィヴィが護衛を指し、言い出してくれて助かったという顔をする三人。
それではと、空き地の中央に進み出た護衛アカネではあるが、右手の手袋をはずす様子もない。
軽く構え、いつでもこいと合図をした。
アツヤが構え、走り出す。
「てぃヤアァァアアァア」
あ、だめだ
腰が入ってないねぇ
あれならアタシでも……
わたしでも五、六回ぐらいは殺れてるね。
ほう、これは……さすがにわたしでも勝てるぞ。
アツヤが振りかぶる。よけられて、足をひかっけられ、顔面から突っ込んだ。見ていた五人はそろって心の中でうわぁという声を上げる。
「あ、すみません。手加減はしたのですが……」
「イ、イえもんだいなっスィん具」
そのままバタリと倒れ伏すアツヤ。
…………
さらにご丁寧に気絶までしているようだ。
「さて、やりますか」
何もなかったかのように、アカネがソラを見ながら右手の手袋をはずす。
その右手は、案の定というべくか生体金属の塊でできており、つまりは機塊で、普通の手よりは一回り大きかった。
遠くから見れば、皮をはいだ手のようにも見えたかもしれない。
赤黒い手とは対照的に、指の一本一本を覆うように突き立っている白い爪のような刃は、相手を殴りつけても、掴んで握りしめたとしてもずたずたにするだろう。
暗く赤いその右手を握りしめ、半身になって構える。
「『未だ白き手』お見苦しいものをお見せして申し訳ありませんが……」
機塊のことを指しているのだろうか。そのまとう空気をかえ
「できれば全力でお願いします」
告げる。
全力、か。
アカネと相対する地点へダガーを抜きつつ進みながら、アツヤがジョイに引きずられていく姿を見送りつつ、ソラは考える。
それはどの程度のことを指しているのか。
たとえば、『堕天使の翼』を開放したとして、そこで全力を出せば恐らく辺り一帯が壊滅する。それこそ『グラウンド・ゼロ』の半径五十メルテの比ではない、はずだ。あの時は相手に合わせて力を使っていた気がする。いまだと、どこまで、どのようなことができるかはっきり把握しきっていない。今度一度外に出て確認してみる必要があるかもしれない。把握できていれば、ユニを無理なく助けられたかもしれない。
なら仮に、羽を一枚だけにしたらどうなるか。
あれは他の能力を完全に制限した移動特化用だ。特化といっても、ほかの飛行者と比べれば中の下か中ぐらいがいいところだろう。そのぶん多少モノを持ってもなんら影響がないのは救いかもしれない。
じゃあ、レベル∞? いやそもそも六以上は扱い方が根本的にかわる。
なら、四枚? そもそも使わないという手もあるのだ。まあ、ヴィヴィが機塊をみたいといった以上使わざるをえないが。さて。
「よろしいのですか?」
ふと、アカネが声を掛けてきた。
「うん?」
「見たところ防護服を着ているようではないですが」
「ああ、あれは使えない」
「はい?」
「気にしなくていい」
「たいした自身ですね」
「いや、別に」
服の中にしまっていた羽を、展開する。左右四枚ずつの羽から、粒子が零れ落ちる。
「かわった機塊ですね。いえ、どこからでもどうぞ」
一拍おいて、ソラが羽ばたいた。
速いですね。
アカネは、心の中でつぶやく。
確かに速い。けれどそれだけだ。
機足者の様な瞬間移動のような異常な速度でもなく、他の飛行者のように空間を支配するようなものでもない。
いや、飛んですらいない。走っている。
その翼が生み出す推力で、単純に速さを稼いでいる。
ふざけているのか、単純に飛べない翼なのか、わからない。推力を生み出せるというのであれば、飛べそうなものではあるが。
ソラが目の前にせまり、振りかぶった。
当然のように左腕でいなそうとしたときに、迫る腕が加速する
「これは……!」
即座に身をかわし、体制を立て直そうとするもののソラがその隙を見逃すことなどなく、ラッシュを始める。
飛行者の、いや機背者特有のバネとその翼の生み出す勢いで速度をあげている。
左手だけでは防ぎきれず、右手でも防ぎ始める。いや、いくつかは防ぎきれず、自分の着ている防護服からその衝撃が伝えられている。
なんとか反撃をしようと右手を構えたときに、ソラが大きく引いた
「――!?」
右手は空振りし、引いた反動を利用して再びソラが迫ってくる。
いや、迫ろうとした。
「甘いですね」
伸ばされた右腕から不可視の斬撃が飛ぶ。それは
「カマイタチ」
「正解、です」
即座に身を回転させよけたソラの背後で、カマイタチが壁に当たった音が響く。
「生憎同僚には恵まれていましてね。大体のタイプの機塊持ちへの対抗策は身につけてますよ」
たとえば、飛行者や機足者は攻撃をかわす際におおきく引くことが多い。その機動力を生かしたヒットアンドアウェイを多用する。ならば引いたところに届く攻撃を飛ばせばいいだけだ。
機塊の性能ではなく、技術によってのみそれを生み出すためにどれだけの修練を重ねたというのか。
「そう。それなら……」
再びソラが迫る。
「またですか」
先ほどとおなじラッシュを始めたソラに若干落胆しかけ、しかし
「速い」
ソラの速度が、徐々に上がっていく。
防護服に伝わる衝撃が増し、さらにダガーとの間に火花が散り始めた。
そしてついに、ダガーの切先が喉元に届く。
いや、防護服の障壁によって、その切先は数センチ手前で止まっていた。押し返そうとする障壁が、可視化するほどの勢いとなっている。
目の前でとまるソラに、右手を振るおうとしたとき、アカネは腹に何かを感じた。
「足!?」
どうやったのか、防護服の魔力はまだ尽きていない。現に目の前でダガーの切っ先が止まっている。だというのに、ソラの足が防護服の障壁を潜り抜け自分の腹部に届いているのだ。
けり倒すというよりも押し出すかのように、強くけり抜かれ、蹴り飛ばされる。
地面に四肢を張り、なんとか勢いを抑えたアカネが顔をあげると、目の前には無数の光弾が迫っていた。
「――!?」
両腕をクロスさせ、思わず防御体制になった体に降り注ぐ魔力弾。しかもそれは直接体に当たることなく、防護服の衝撃をかすめるかのようにして次々と打ち出されてくる。
あたらない。あたらないとは分かっているが動けない。
動けぬまま、ついに防護服の魔力がつき防護服はただの軍服となった。
「知り合いに障壁持ちがいて、抜き方は教えてもらっている」
一つは耐久度を越える物量で攻める。もう一つは
「相手の認識できない攻撃で抜ける」
先ほどのパターンであれば、ダガーに集中させ足を当てた。
相手が、傷になるダメージだけを防ぐようなプロであるが故の攻略法だ。
「ははっ! 最上級の防護服だぞ! やるではないか」
たまらず声を上げるヴィヴィ。だがアカネにはどこか遠くに聞こえる。
「侮っていました。一介の、在野の、ただの機塊持ち。それもただの少年だと思ってましたが……いい師に恵まれていたようですね」
右手を開き、力をこめる。すると、指に添う形で五つのシリンダーが飛び出した。
「少しだけ、私も本気を出します」
アカネはそう言って、右手の爪を左腕に突き刺す。同時に、親指と人差し指の二つのシリンダーが、今度は逆に回転しながら埋まっていく。
どくんと、心臓が脈打つ。全身に力がみなぎる。
どくんと、心臓が脈打つ。周囲の動きが遅くなる。
アカネの気配が膨れ上がる。
地面を、踏み抜いた。
地面が大きくえぐれる音と共に、ソラの目の前に右腕を振りかぶっているアカネが現れる。
「――!?」
今度驚愕したのは、ソラ。即座に両手に持ったダガーで防ごうとしたが、アカネにはすべて『視えていた』
ゆっくりと、それこそカタツムリが這うかの様な速度で、ソラの両腕が上がっていく。
一瞬で打撃点を把握し、それにあわせられるだけの技量は見事なものだ。だが、いまの自分にはあまりにも遅すぎる。
腕が交差するより早く、右腕を押し込み、胸元を殴りつけた。この感触ならアバラの二、三本はいってるだろう。
ソラが宙に浮き、吹き飛ばされていく。いまの自分なら、楽にソラに追いつける。
アカネが二歩目を踏み出そうとしたときに、一人の少女が目の前に割り込んできた。
長い髪を振り回し、くるくると踊りだす。
観覧者はあっけに取られるだけだった。
アカネが消えたと思ったら、ソラが吹き飛び、ソラのいた地点にクロエがいきなり現れていたのだから。
事務所の窓からのぞいていたクロエが、飛び降りてきたとは誰も思うまい。
「ちょっとクロエ! なにやってるのよ!?」
エリーがあわてて口を出すが
「けんかはラ~めラよー」
クロエは歌うように、踊るようにして動こうとしない。
「そうだな、とりあえず勝負はついているんだ。アカネ、やりすぎだ」
「あ……すみません……」
突然あらわれたクロエに毒気をぬかれたのか、それとも入っていたスイッチが切れたのか、もとの様子にもどったアカネが主に謝る。
「わたしはいい。それよりあいつを見てやれ」
そう部下に言い放ったヴィヴィの視線の先には、リッカ達に助け出されているソラがいた。
□
「ああ、もう! 二週間は戦闘禁止! 飛ぶのもだめね。エリー、魔法でどこまで治療できる?」
「ソラには効きがわるいのよ。応急処置ぐらいにはなるけど」
「ほんと何のための魔法なんだか……」
「なによ!?」
「けんかはラめラよー」
ひとまずということで応接室に戻りソラをソファに寝かす。女性陣がやかましい中ジョイがひとり
「んじゃ俺はギプスみたいなのないか探してくるかねぇ」
といって部屋を出て行く。
「いい。そこまで騒ぐほどの傷じゃない」
ソラはひとり起き上がろうとするが、リッカがそれを止めた。
「まったくよくない! いい? ソラだったからいいものの普通の人だったら下手すりゃ死んでたかもしれないんだよ!?」
「あ、いや本当にすまない。つい興がのってしまって……」
「ついですむなら憲兵も猟団もいりません」
弁解するアカネにぴしゃりと言い放つリッカ。
そんな二人を見ていてヴィヴィがとんでもないことをいいだす。
「部下の過ちは主の過ちだ。よし、治るまでの間わたしが手伝いをしてやろうじゃないか」
「ちょっと、ヴィー!?」
アカネがあわてて主を止めようとするが、すでに決定事項であるかのように、大きくうなずいているヴィヴィ。
リッカもエリーも止めようとするが聞いてもらえず、クロエはソラの頭の側に陣取ってその顔を覗き込んでいた。
そこに、部屋にもどってきたジョイがポツリとつぶやく。
「あれ、誰か足りなくね?」
白衣観音経唱えたからって特別な力は出ませんよ(あるかどうかも怪しいけど
再び自己記録更新。ありがとうございます
……携帯からのアクセスがすごいけどナンデ?




