2-4
やっとあえた!
朝の弛緩した空気はいつのまにやら孤児院を抜け出して、またもどってきた少女によって沈黙に支配された。
全員食事も終えてさあ今日という日に取り掛かろうというときである。
孤児院の門から、ぼさぼさの髪をした少女が一人、なにやらずるずると引きずってやってくるではないか。
言わずもがな、少女とはクロエのことで、くるくるふらふらぶんぶんと手に持ったあるものを振り回してもいた。
「る~らる~」
と鼻歌を歌って上機嫌のようではあるが……
窓からその様子を見ていた面々はしばらく固まったあと、それぞれが騒ぎ出し、また孤児院の外に飛び出そうとする。
「ちょっとクロエあんたなにやってんのよ!?」
さすがセーナとクロエを除いて最年長というべきか、中でもいちはやく我に返ったエリーがあわててクロエの元へと飛び出す。
「うら?」
きょとんとした顔で首をかしげるクロエを無視して、エリーはすかさずその手に持ったものを奪い取った。
というか、その手からはたき離した。
どさりと落ちる足のようなもの。
それは黒いズボンのようなものに包まれており、隣にもう一本足のようなものがある。
その両足のようなものをたどっていけば胴体のようなものがあって、その両側からはしっかりと腕のようなものが生えていた。
また上半身のようなものは黒い服のようなものに包まれている。背中側は引きずられてぼろぼろだろう。
胴体のようなものの上には頭のようなものがあって、黒い髪のようなものが生えていた。肌のようなものはオレンジ色とでもいいのか、少なくともエリーの記憶のなかでは見たことがないものである。
人間のようなものであり、少年のようなものだった。
いやまさしく一人の人間であった。
「じゃなくて、クロエ! ああ、もう!」
そしてエリーはざっと擦り傷などをしらべ、簡単な治療魔法を施す。
「うーん、一応『視た』ところだととくに目立った怪我も骨折もないみたいだけど……」
リッカが遅れてやってきた。
「どうしたのよこれ?」
とエリーがクロエに確認するものの、クロエはくるくると踊って聞いていない。
そして近くで『視た』リッカが診断を下す。
「この様子だとただ気絶してるだけって感じかな? というかこれ、本当に人間かなー?」
「どういうことよそれ」
リッカを追う様にして、他の子供たちもこの“人間のようなもの”にまとわりつき始める。
さらにクロエも一緒に突っつき始めた。
「なんというか、“魔力がない”」
「は? そりゃ気絶してれば魔力は感知できないけど」
「そうじゃなくて、魔力の器っていえばいいのかな? 赤ちゃんでも持ってるようなものが、このヒトまったくというか一切といっていいほどないの。マモノの擬態ってわけでもなさそうだし」
普通の人がこんなに魔力の少ない状態だと生きているほうが不思議なんだけどねー?
リッカの言葉に従えば、人間誰しもある程度の魔力は持っているそうだ。機塊をもっているか、魔法を使えるかということは別にして。
説明をしながら、何度も『見直して』いるリッカ。ただ、その結果はまったく変わらないようである。
「となると、特異能力者?」
「さあ?」
エリーが思いついた言葉を出すものの、リッカの反応は芳しくない。その言葉を知らないということもあるが。
「ほらみんな。はやく入って」
子供達をおいやりながら、セーナがソラと共にやってくる。ソラの傍らには当たり前のようにユニがくっついていた。
セーナは、クロエと寝かされているものをみて即座に状況を判断したのだろう。
「クロエ、それ、どこで拾ってきたの?」
両手を腰に当ててクロエに目線を合わせる。青筋が浮かんでいるような顔が険しい。
「うーん、あっち?」
聞かれたクロエはそのようなセーナの表情を気にした様子でもなくとある方向をさす。
それなりに遠くであろうということはニュアンスで大体わかるが……
「……どこで、拾ってきたの?」
「あっち?」
あらためてセーナが聞きなおすと指している方向が先ほどとまったく違った。
分かりきっていたことだけど……と嘆きながら頭を抱えるセーナ。
「捨ててきなさい」
「えー」
「いやあんたえーじゃないでしょえーじゃ」
クロエの返答に突っ込まずにはいられないエリー。
ただでさえクロエはいろいろなものを拾ってくる。
捨て猫。ネズミの死骸。壊れた偽塊。砕けたガラス片。変な形の石。ほかにもいろいろ。どれも即座に捨てさせてはいるものの、彼女の部屋にはなにやらわけのわからないものが未だに大量にある。
以前拾ってきたものはゴキのタマゴで、後日それが孵化したものだから孤児院が阿鼻叫喚の地獄絵図ともなった。さすがに本人の機塊でもって駆除させたが……
さすがに丸一日セーナからお説教をくらい、さらにユニの『角』によってしばらくの間まともに動けなくされてからというもの、多少は収まりはしたけれど、それでも拾ってくることはあったけど、ここまで大きなモノを拾ってくることは無かった。というか人間を拾ってくるようなことなど今までも無かったが……
「そラもいっぱい拾ってるし……」
クロエがソラを引き合いに出して弁明する。
ソラが拾ってきたもの。ユニ、クロエ、ジャック、エリー。
「いうほど拾っていないような……」
ただ、人限定ではある。それはそれでなにかと問題があるような気がしないでもない。
それでもソラとはちがってクロエが拾ってきたもので起きた騒ぎは、ゴキの騒ぎだけじゃなかった。絶対になにがしかの問題が降りかかってくる。
そのような過去があるが故の、セーナの『捨ててきなさい』という言葉だった。普段であれば来るものは大体拒まずの方針である。
「ラめ?」
「うーん、まあ今後はソラ君の管理だからソラ君にお願いすることね」
「え、オレ?」
再び首を傾げたクロエに対して決定をすべてソラに投げ渡し孤児院の中にもどっていくセーナ。
その背中を見送るしかないソラ。
セーナの言葉を聞いて「そラ~」と声を上げるクロエ。
そんな二人の様子を見比べるリッカとエリー。
ソラの顔を見上げるユニ。
ソラは拒否したかった。返して来いといいたかった。なんとなく背中の羽がぞわぞわと危機を伝えてきている気がして。
ただ、悲しいかな。
「*……*……」
クロエの拾ってきた“人間のようなもの”はついにうめき声と共に、目を覚ましてしまったのだ。
□
目を開けるとそこは天国だった。
本当に死んでいるのかと思った。
いやだってそうだろ? 目が覚めて体をおこしてみたら自分の周りを五人の美少女が取り囲んでいるだなんて状況、誰だってそう思うだろ?
順番にみていくと、まず左手側に金髪でちょっと釣り目な女の子。目のせいか少し気が強そうだ。ローブにいくつかチェーンや宝石なんかのアクセサリがついていて、まるで魔法使いのよう。三角帽子と箒をわたしてぜひともお願いしてみたい。とおもったらなんだかヒールで踏まれている自分の姿が思い浮かんだ。俺はMじゃないんだけど……
その右隣に小さな女の子。小学生ぐらい? 長い銀髪で大きな緑の眼がかわいい。額に金属片がついているけどあれはアクセサリなのか? 小動物的なかわいさを感じる。将来的にはかなり美人さんになりそうな気がして今後が楽しみだ。
銀髪の女の子と手をつなぐようにして真ん中にいるのは砂色? な髪のこ。中世的な顔と透き通るような蒼い目がこれまた印象的だ。ゴーグルを首から提げていたり男物っぽいジャケットを着たりしていて高身長もあいまってボーイッシュ。なんかこう、無表情なのにすっごく不満ですみたいなオーラが漂ってきているのですがナンデ?
彼女と対照的なのがさらにその隣の子。長いそのくせっけは不思議な色合いをしていた。どこかあどけない印章もうけるけどひょっとしたらおなじ年のような気がする。ほかの子たちとは一人違ってニコニコしていてなんかあったかい気分になれる。なんだか一番友達になれそうだ。
最後に右側にいる子が一番衝撃的で、左目周辺が金属になっていた。目のあるところにはカメラのレンズのようなものがはまっている。つまり彼女もサイボーグというわけか。左目からはなんだかいろいろと『視られている』ような気がしてなんか怖い。それともそこからレーザーでも出るのだろうか。
……うん? ってことはまだあのクソゲー世界なのか畜生。
ちなみにサイズは銀髪少女=ゴーグルさん<サイボーグ少女<<越えられない壁<<つり目さん<くせっけさんだった。何のサイズかはわかるよな?
さらに身長は銀髪少女<サイボーグ少女=くせっけさん<つり目さん<ゴーグルさん。うーむ……
「***……*******************」
つり目さんがなにか喋ってため息をついた。なんでうんざりとしてるの?
「**、****?」
「**********……*****************」
サイボーグの子がゴーグルさんに何かを尋ねて、ゴーグルさんが何かを答えている。
まあここはあれでしょ。言葉は通じなくても挨拶というものは肝心だよね。うん。というわけで
「とりあえず仲良くしようぜ! おれは鈴木敦也っていうんだないすとぅみーちゅーっていうかそうかこの世界は恋愛アドベンチャーゲームということかヒャッハー!」
思わず叫んでしまったら、サイボーグの子とつり目の子が目を見張った。
銀髪の少女はゴーグルさんの後ろに隠れる。
「わ、わるいいきなり叫んだら驚くよな? こう、あれだ。右も左もしらない俺だけどぜひとも仲良くしてほしい! というわけでよろしくたのむ!」
同時に右手を差し出して握手を求めたけど反応がない。
……俺なにかまちがった?
「ぐっもーにんぐーてんたーくぼんじゅーるぼんじょるのこんにちわ……えっと、とりあえず、ここどこですか?」
□
右手を差し出して固まっている黒い少年を視界にとらえたまま、最初に口を開いたのはソラだった。
「エリー」
「なによ?」
「今の言葉に聞き覚えは?」
取り合えずという形でエリーに尋ねる。他大陸から来ている彼女であれば、ひょっとしたら知っているかもしれないという淡い期待を抱いたからであるが
「まったくないわ。獣人の人達が使っている言葉に近い気がしないでもないけど、たぶん別系統の言葉ね」
腕を組んだままきっぱりといわれてしまい目論見が外れる。
「ちなみになんか急に立ち上がって変な踊りはじめているけどああいった文化は?」
リッカの指摘に従って黒い服の少年を見直すと、頭を抱えて体を曲げたり伸ばしたりうずくまったり、さらにはくるくると足踏みしながら回転したりしていた。
なんともいえない空気がながれる。
エリーの目が細められて表情に迫力が増す。
「……たしかに前は龍皇国にいたけどあんな変な踊り踊る人達はいなかったわよ。見たことがないだけかもしれないけれどね」
見た感じ、肌はきれいだし服も汚れてはいるものの質がいい。つまりそれなりの上流階級の人間か?
手に剣ダコのようなものもない。筋肉も鍛えられている様子はない。つまり非戦闘系職業についているような人物。
「迷子探しの張り紙もないよねー?」
「止まり木に行ったときも外国の探し人だなんて聞かなかったな」
なにより言葉が通じないというのが最大の問題だ。エリーがいくつか知っている言語を使い分けて話してはみたものの、通じている様子もないし相手が使う言葉も分からないときた。
まったく通じていない会話がおわったとたん、両手をあげて飛び跳ね走り回り再びつぶやきながら不思議な踊りをおどりだす黒い少年。
「言葉がわかるよーにはなんないの?」
横から口を出してきたのはクロエ。だが
「翻訳魔法のこと? あれ、対応させる言葉を術者が理解してないと意味ないのよね。それに便利ではあっても勉強の機会が薄れるから私は覚えてないわ」
つまり、手詰まり。
「魔女に聞けばひょっとしたら分かるかもだけど、連絡が取れてないのよね」
「ああ、クロエ! 一緒に踊らない!」
一緒に踊りだしたクロエを、あわててリッカが止めに入る。
もしかして……クロエと同レベルの人間……?
正直困る。なにがというわけじゃないけど困る。クロエが二人になるだなんていやな未来しか見えない。
なにも見なかったことにしてさっさとここから去りたい。
三人が目線だけで会話を行って、同時にため息をついた。
周りの空気がさらに沈む。
さらに、くいくい。とソラの服を引っ張るユニ。
「ん、なんだ、ユニ?」
ユニはソラの気を引くと、いちど残念そうな人をみるようなめで黒い服の少年をみたあとに孤児院を指差す。
帰ろうといっている様子である。
「そうね。そっとしておいて上げましょ。ほら、クロエ行くわよ!」
「はーい」
クロエは声を掛けられて、名残惜しそうに少年を見ていたものの即座にエリーに従った。
あとには奇妙な踊りを踊る少年がひとり残される。
そしてしばらくして一つの叫び声のようなものをあげながら、少年はソラたちを追っていった。
「*? ****! ******!! ********!!!」
GGY
自分でも想像していなかった化学反応が起きてこまってます……




