11-
つかの間の休息
少女が言う
「ひとりでさびしくないの?」
少年が言う
「おまえ、いもうとになにをした!」
少女が言う
「これで、おなじだね」
男が言う
「コッチにこい」
偽塊が喋る
「イッショニアソボウ」
機塊が喋る
「オマエハアクマダ」
てんしさまがおりてきて
わたしはすくいだされた
両腕がとてもおもたくて
おしつぶされる
たおれたおとこにあながあいて
たくさんのひとたちがつぶれていて
あたりいちめんちのうみ
ねこをさがさなくてはならない
□ □ □
朝日がわずかに顔をだし、街並みを静かに照らし始める。
冷たいコンクリートの道なき道を、気の早い郵便配達員たちが駆け巡りあさのニュースを届け回っている音が響く。
道端では泥酔した男が凍死しかねないというのにいまだにのんきにいびきをかいていた。その妻は、あのひとはまたかと思いながらも未だに夢の中。
どこかで赤ん坊の泣く声が聞こえて、鶏の時の声とともに合唱している。道端の水溜りは静かに空を映していた。
猫がゴミ箱をひっくり返して犬が吼え、いまだ眠たげな飼い主がしかりつけるというお決まりのコントが密かに繰り広げられている。
未だに暖炉を使ってる家の煙突からは煙が出始め、少しずつ街は目覚めようとしていた。
そしてここでも一人の少年が目を覚ます。
鳥たちがさえずり、窓からはわずかに朝日が差している。
顔に当たる朝の空気が冷たく、そろそろ暖房の一つでもいれるべきかと、ソラはおもう。
まだ街がおきだして少しだけ猥雑な時間。まるで昨日のあの騒ぎが無かったかのように。
まあ、あそこからだいぶ離れているせいかもしれないが、ゆっくりまどろむにはいい時間だ。
ところが、体が重い。というか、両腕が重い。
さすがに魔力を使いすぎたかとおもうものの、ストック分がかろうじて半分をちょっと越えた程度。
普段の行動には一切問題がない。むしろ、新しい魔力結晶の精製で、普段体内でくすぶっている魔力を入れ替えるのにちょうどいいぐらいだ。
全身を使った戦闘というのも久しぶりではあったものの、疲労もとくにないまま寝付いたのは覚えている。
成長痛にまつわるものとも考えたけれど、あれは重みじゃなくて痛みだったはず。
はて、ではなにがとおもい何気なく左腕を見るとリッカが抱きついていた。
しばらく考える。
……うん、まだ成長の余地はあるんだあきらめるな。
右腕をみれば、ユニが抱きついていた。
さりげなく喉や目に角が突き刺さりそうで怖い。
そこまでやっと確認して、昨日のことを思い出す。
結局昨日あのあと、ソラ、リッカ、ユニのチームとジョイ、カルラのチームに分かれ、別々に事務所に帰り着いた。
追っ手は無かった。監視のようなものも、無かったと思う。
帰り着き、簡単な食事とシャワーを済ませたあと、帰ったときのチームで部屋を分かれることになった。
部屋は大量にあまっていたものの、面白そうなことはしっかり見届けなくてはいけない。
約一名の反論は無視。もう一名は沈黙。リッカは元から同意見。ユニはもともと自分の味方。
賛成3反対1保留1。うん。問題はない。
闘争になれないお姫様を慰める騎士の役目をあげたのだ。約一名のひとには感謝してほしいぐらいだ。
それにしても、久しぶりに夢が混ざった
ユニを拾って間もないころ、干渉能力を介して感情がもれてきたり同じ夢をみたりしたことがあった。
抑え方をおぼえて夢がつながるということも減ったとはいうけれど、昨日のアレでトラウマが刺激されたのかもしれない。
まあ、だからなのか、こうして昔みたいにべったり引っ付いているということなのだろうとはおもう。
ジョイやカルラのように、復元していれば特に影響もないらしいが自分の場合はたたんでいるだけ。
火のすぐそばにいるといえばいいのか、危険といえば危険かもしれない。
やはり疲れているのかもしれない。
普段であれば無意識に中和されているもののはずだから。魔法使い達の言い方をすれば抵抗だったか?
ふっ……と、ため息をついて天井を見上げる。
女の子二人が抱きついて無防備に眠っているというのに、何もしないのはさすがに問題かもしれないが、こうしてがっちり腕を絡めとられていると逆に動こうにも動けないものでもある。
そして、確認することがあった。
左にある顔をうかがう。
硬質な左目はあいかわらず開いているのか閉じているのかわからない。
よく見ているとレンズの中がくるくる回るそうだ。人が眼球を動かしているみたいに。
本人はちゃんと目を閉じている感覚があるとはいってたけれども
「……リッカ、おきてるだろ」
「……ばれてた?」
なんとなくそんな気がしただけだ
ぱちりと、右目が開く。
「そろそろおきたいんだけど?」
「私は別にこのまま襲ってもらっても?」
抱きしめる力が強くなる。
隣にユニがいるでしょう。
「ユニちゃんなら問題ないよ?『二号さんになる』ってまえいってたから」
「問題おおありだろ」
リッカさん、どこかのダイナミックなエセ天使さんみたいなこと言わないでください。教育に悪いです。
干渉能力をつかってそれとなく伝えたのだろうけれど、というかどこでそんな言葉を、と思いユニを見ると見つめられていた。
じいいいいいいいいっと。
数秒みつめあっていると、こっくりとうなずかれた。さらに頬を染めるな!
くすくすと、リッカが笑ってる。
「いいかんじに、壊れてるよねぇ。ソラも、私も」
自分で言うか。
まあ、ユニもなかなかいろんなもの見てきてるからなぁ
「ま、ソラのそばにいるのが一番落ち着くみたいだし。羽を治すのも一日かかるでしょ?」
もうすこし寝よう?
そういいながら、リッカは腕を再び抱きしめる。
ユニもごそごそと上にのしかかってきて、そのまま再び寝付く。
「はぁ……」
ため息をつき、二度寝を決める。
ユニの頭を撫でながら、ゆっくりと目を閉じた。
そういえばリッカさん、ドウシテアナタハハダカナンデショウカ?
「おい、ソラ、昨日は全然眠れなかったじゃねぇかどうしてくれるんだ」
「昨夜はおたのしみだったようで?」
よく見れば目に隈ができているきがする。
「ちーーーがーーーーうーーーーーー!」
再び起きて、引っ付き虫達を引き剥がし、リビングに入ったとたんジョイに拉致された。
部屋の隅で首を抱え込まれ、ぼそぼそと耳元で話される。
離れたい。
「あ、おはようございます」
部屋の中央にはすでにカルラが席についていた。水でも飲んでいたのだろう。手元にまだぬれているコップを持っている。
「どうも」
と挨拶をかえすがいまだに腕を放してもらえない。朝食の準備があるのだけど。
「なに? なんなの? お前らは何をさせたかったわけ?」
「何って、ナニ?」
「お前らの感覚をコッチに持ち込むなといってんだ!」
しかも相手は貴族である。イタして問題にでもされたら平民であるジョイに勝ち目はない。
「気になってたんじゃないのか?」
カルラもまんざらではないようだし。人の善意を無碍にされるのも遺憾である。
「気になってたよ結構やばいところまできてるよというかやばかったよ!」
「ベットの譲り合いというイベントが楽しめたのだからいいだろ」
「ああ、やったよ『私がソファで』『いやいや俺が床で』ってだから!」
「そこで一緒に寝ようといえないのがジョイ」
「どうせ俺はヘタレだよ」
「ジョイ」
「なんだよ」
「キャラが崩れている」
「だれのせいだと!」
そろそろ疲れたから黙らせた。
うるさいのは無視してコンロに向かい、火をつける。
フライパンを暖めている間に冷蔵庫からハムとタマゴを4人分取りだしたところで、「俺の分は!?」5人分を取りだしたところでユニとリッカがそろってやってきた。
「ジョイさん、昨日はお楽しみでしたね」
リッカの一言で崩れ落ちたジョイを、ユニがつっつきはじめる。
「えっと、“お楽しみ”って?」
「ん、こっちのこと。パン焼いとくねー」
お嬢様には余計な知識を入れないように適当にごまかしつつ、勝手しったるなんとやら。リッカが隣に立ち5人分のパンを焼き始める。
料理をする姿が珍しいのかカルラが声を掛けてきた。
「二人とも手馴れてるのね」
「やっぱりお屋敷ではメイドさんが?」
「お屋敷って……メイドというかお手伝いのばあやがね」
フライパンに油をひき、切り分けたハムを焼く。ほどよくこげたところにタマゴを落とし、塩と胡椒。
「いいよねー、やってもらえて。うちだとだいたい私か先生がほとんどだから」
当番制のはずなんだけどなー。とリッカがぼやく。
「自分では料理を?」
「たまに休みの日にクッキーを作るぐらいかな?」
焼きあがって皿に移して
「ユニ」
いまだにジョイをつっついていたユニを呼ぶ。
「はい、こっちも」
パンも暖め終わったようで、リッカが持ってきた。
皆が席に着き、思い思いに食べ始めたところで
「あれ、えっと」
カルラが疑問の声を上げる。
「うん?」
「食べ始めの合図はダレが?」
この場合だとソラかジョイさんが。
「あー……」
みんなで顔を見合わせる。
「ほとんど一人だし、特に気には……」
3年間ほぼ一人で食事していたこともあって忘れていた。
「うちは先生がやるけど外だと……」
ねー? と、リッカとユニが顔をあわせる。
「うちだと親父がやるけど、いなければやんないねぇ」
「そう、なの?」
「学園でもやんないよな?」
「あれは昼だから……」
それなりのルールがあるようだ。
「そういや聖府の教圏だと毎回お祈りするらしいねぇ」
天使や悪魔と違って、カミサマなんているとも知れないものによく祈れるよねぇ
「場所が変われば文化も違うということでしょう。あそこの建造物はこことは違ってかなり荘厳って聞いてますね。将来は行きたいとおもうけど」
ここから西にある別大陸のことだったか。あまり頻繁に行くこともできない。
「南の諸島連合は島ごとに文化どころか食事まで違うってねぇ。ある島では正しいことが別の島ではやってはいけないことだとか、そんなんでよく調和がとれるとおもうのだけど」
さすがインテリ二人組み。話すことが広い。
閑話休題
「ところで今後のことについてだけど、まず、1日部屋に篭る」
唐突に切り出したソラに
「「は?」」
約2名、目が点になった。
「えっと、じつはどこか大怪我していたとか?」
「できるだけ早く、万全の状態にしておきたい。さすがに5枚は、動けないわけじゃないけど戦力が落ちる」
「そりゃ今じゃ何もできないってのはわかるが……1日で治るもんじゃない、よねぇ?」
ソラならひょっとしたらありうるかもしれない。
と、疑わしげに確認するジョイにさも当たり前のようにうなずくソラ。
「……もういい。俺はおまえが108の能力持ってたとしてももう驚かない」
「いや、さすがにそんなにはないけど……」
それでもまだありそうな答え方をする。
「それと、ダニエル・バーズン氏への根回しと首謀者らしき人のところへお話しにいくつもりだ。明日以降になるけど」
どこか物騒な物言いにも聞こえた気がする。
「状況によっては家に帰してそのまま保護という手もあるけど……」
まだ敵がいるかもしれないという可能性と、敵を殺した犯人がわかっていない事実がある。
撃ち殺してそのまま姿を隠したという現状、味方とは思わないほうが懸命だ。
さらに、一番考えたくないのはそのまま追い出されること。
最悪でも家名を守るために手助けはしてくれそうであるが。。
でも
だからこそ、娘が機塊持ちであると知ったときの反応がわからない。
「ワンクッションおいたほうがよさそうだよねぇ」
他人にはよくても身内には……という場合だってありうる。
「ま、カルラちゃんのお手紙が間に合うなら、ソラが引き篭もってるあいだにでもいって来るさ」
相手が相手だから、できるだけ早く手を打っておきたいしねぇ
「ついでに女の子達をおうちに帰しておくよ」
ジョイは自室に向かったソラに声を掛けながらも、昨日のうちにソラから伝えられた情報を思い出していた。
□ □ □
ちょうど昨日、すでに日が落ちきったころであった。
ハルフォード事務所のドアを叩く男が一人。止まり木でソラから仕事の依頼を請けた男である。
「よう。遅くなってすまねえな。これでも結構急いだんだが」
外に出てきたソラに、その骨のような羽を閉じながら男は告げる。
「夕方はかなり派手にやってたなぁ。猟団でも結構話題になってたみたいだぞ」
「猟団……?」
「おう。コウモリの知り合いがいるんでな。やばいところまで関係してやがった」
ああ、軍所属の飛行者からなら、確かに楽に情報も入るか。
「バーズン家自体にはたいした問題がない。若干汚いこともやってはいるがほかの貴族たちもやっているような、談合とか極普通のことだ。
が、バーズン家のもつ利権に対して、当主と同期のフロトスとかいうヤツがほしがっているという情報があった。
技術の転用で軍部の強化ができるんだと。これだけならたいしたことじゃあないんだが……」
いちど男が一度口をつむぐ。
ソラが無言で続きを促す。
「気になって調べてみると、バーズン家の地位をそのまま自分のものにしようと最近頻繁に画策していたらしい。うまく蹴落として、後釜を狙おうってな。
そしてここ数日、フロトスの屋敷に風体のよくない男達が出入りしているっていう情報があった。これもまあ、ありがちっちゃありがちだが。
それどころか軍部の大物を見かけたって話がな」
軍、か。
「コウモリがいうには、その大物ってやつが手配書も指示していたうえに、同じくここ数日ふらりとどっかに出かけている様子なんだとよ」
そいつの名前は
「帝国軍中将“狂人”デトス・ヒルトマン」
それはここ数年で、軍部で頭角を現してきている男の名前であった。
お約束のイベントフラグをスルーするジョイさんでした。




