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前話とあわせて格ゲーのBGMを聞きながら頑張りました。
「で、どうする?」
ソラはハンマー男に向き直り、尋ねる。
「どーするったって、てめえだって羽がかたっぽぶっ壊れてんだろ。こっちはほぼ無傷なんだ。命乞いをするのはてめぇじゃねえのか?」
「ああ……」
次の瞬間、半ばから砕けていた羽が元の形を取り戻す。
「……ちっ。バケモンかよ」
普通、砕けた魔力結晶は即座に直すことができない。水晶のように時間がかかるものだ。
いやそもそも
「飛べる芸術機だとばっかりおもっていたがどうも違うようだな?」
「燃費がわるいだけのガラクタだよ」
「芸術機特有の芳醇な魔力を無理やり飛行能力に転化させたか。ただの置物をそこまで変化させるたぁ末恐ろしいガキだな」
「……で、どうする?」
同じ質問を、ソラが重ねる。
「ハンッ!ヤるに決まってんだろ。どっちにしろこっちには後がねえんだ!」
最初に動いたのはハンマー男だった。
前傾姿勢から、一気に近づきすくい上げるようにして振り上げる。
半身になってよけたソラを追うように続けて打ち下ろす
「おらよっ!」
そして、手元の引き金をひく。
振動
さらに地面がえぐれ、気絶したり倒れていたりする男たちが巻き込まれて吹き飛ばされていたがまあ生きているだろう。
だが
「おいっ!てめえ逃げるなんて卑怯じゃねえか!」
空を飛ぶ翼がある以上、ソラに地震は効かない。
「逃げるも何も……」
あわせる必要がない。
ソラの羽が輝きを増し、魔力の粒子が零れ落ちた。一瞬の後にソラを高速の世界につれていく。
男めがけて猛禽類のように上から襲い掛かる。狙うは首筋。
かわされる。
しかし、地面に着地した反動を勢いに乗せ、左手を振るう。
そのまま右手を、足を、次々に繰り出して攻め立てるが
「しゃらくせえ!」
強引にハンマーの柄で振り払われ距離をあけざるをえない。
男がハンマーを振りかぶった。
「レベル2」
円盤部が音を立て、魔力結晶の羽が2枚になる。
同時に羽から生まれた魔力弾がでたらめにハンマー男を襲った。
「効かねぇ!」
男の着ている防護服によって、そのダメージは決定的なものにならない。
男の反撃が始まった。
ハンマーを振り下ろし、振り上げ、振り回し、体を入れ替え、柄による牽制と追撃も忘れない。まるで暴風のようであった。
いちど距離が開いてしまったために、ソラはなかなか間合いをつめることができず徒に魔力弾をばら撒くしかない。
「効くかよぉ!」
男が着ている防護服は、かなり魔力容量と性能の高いものなのだろう。
すでに何十もの魔力弾に晒されているというのにどれも決定打になりえず、魔力切れが起こる気配もない。
「レベル3」
ソラの羽が合計6枚になった。
すると、ただ直進しかしていなかった魔力弾》が男に向かって収束していく。
男から外れたものも、弧を描き追尾するようになった。
「器用なことしやがるが、坊主、まだあめえよ!」
男がハンマーの出力を上げ、ぐるぐると回転する。
魔力弾がすべて打ち落とされた。
「……なら」
飛び上がり距離を離す。
レベル4
突き出した右手の先に集う魔力の輝き。
「溜めて、撃つ」
光のすじは帯となり濁流となって男を襲った。
「それでもまだまだだ」
豪快なスイングによって霧散する。
濁流の影に隠れ近づいていたソラが、がら空きの胴体に差し込もうとしたダガーを蹴り飛ばされた。
カルラはおもう。
血が出ている。
自分のものではなくて、自分を襲ってきた男たちから。
一人、矢面に立っているソラの顔にも、わずかだけど擦り傷ができている。飛行者ジャケットにも傷が多い。
そしてさっき、命が奪われた。
ほんの一瞬で物陰に見えなくなったけど。
もどかしい。と、カルラは焦る。
見ているだけしか、できない。
いままで戦いとは関係ないところにいたのだ。
学園の授業で多少の武芸はやらされたことはあるものの、あくまでも運動の域をこえないもので学年が上がると同時にその授業は取らなくなった。
でも
今この場において、自分には一つの武器がある。
『傷つけることあたわぬ腕』
孤児院の壁を吹き飛ばせるだけの威力があるこの腕なら、ソラの助けになる?
まだ完璧に動かせるわけじゃないけれど、何かのきっかけになるかもしれない。
少しとはいえ、訓練もうまくなっているんだ。
だけど、自分が人をうてる?
壁を打ち抜くだけの砲撃を食らって、人が無事でいられるとは思えない。
ひょっとしたら人を殺すことに……
「大丈夫?」
両腕が握りこまれた。
「あ……」
ユニちゃんも、心配そうにこっちを見てる。
「だいじょーぶ、だよ。ソラならアレぐらい余裕余裕」
「いや、でも」
どう見ても劣勢としかおもえない。
「ま、みてるといいよ?」
リッカがそう告げて、ユニちゃんも『ぐ』と親指をつきたてた。
「で、どうするよ?」
男がニヤニヤしながらソラに詰め寄る。
武器はなく、飛行からの攻撃はともすれば自傷になりかねない。
魔力弾は防がれる。
格闘技をしかけるにしても、おそらく近づかれるような隙を、もう見せはしない。
空がとった行動は
「レベル5」
ソラの羽がさらに増える。
両腕を覆うようにアームが伸び、円盤部がちょうど手甲のようになった。
羽の1枚が前に突き出てちょうど刃になっており、残り4枚ずつの羽は反対側をむいて折りたたまれていた。
パタやカタールと呼ばれる武器に似た形状だ。
「は……自爆も辞さねえってのか?狂ってやがる」
元来、魔力結晶はどれも堅くそれこそハンマーで叩くかのような衝撃を与えなければ砕けることも爆発することもない。宝石のようなものだ。
それが落ちた衝撃で簡単に砕け、人一人再起不能にするような、爆弾と同意義の刃が左右5枚あわせて10枚。不用意に衝撃を与えて連鎖爆発までしようものなら諸共吹き飛ぶ。
「なにあれ……」
路地裏から見守っていたカルラがおもわずつぶやく。
「ソラはねー……ともかく魔力が有り余ってたからいろいろな使い方ができたっていうか、いろいろな使い方をしないとどうにもならなかったの」
「……その結果がアレ?」
「うん。展開する羽の枚数で扱う能力と魔力の制限を、ね。ソラの多機能性はいままで『視て』きたなかでも一番! あれで体力補強にも魔力まわしてるから……うん。息もあがってないね」
「やっぱり慣れたくないねぇ。人の命を奪うのは……それにしてもアレはまずくないか?」
ジョイがいつのまにやら路地裏まで来ていた。よく見るとところどころに弾丸がかすったあとがある。
「あ、おつかれさま、です?」
「お、おう、どうも……」
「ん、闘技場の人達みたいな対人特化じゃないし」
「いや、そうじゃなくて」
「「爆発。のこと」」
ジョイとカルラが声を合わせると
「うん、だから大丈夫。だよ?」
割りにあわねぇ
金持ちの仕組んだただのゲームじゃなかったのか?
狩人役にみつからず、やられず、獲物を殺せばいいって話だけじゃなかったのか!?
こいつも狩人なのか?いやちがう。依頼人といってたからただの護衛か何でも屋だろう。
それをたかがガキと侮ったら、自爆を気にもしない狂ったヤツだった。
獲物を殺せば、獲物を殺すだけで、過去の罪を全部消してもらえて、金までもらえるって話だったというのに。
失敗したら前の3人のようにただ、死ぬ。
でもこいつを殺れたとしても、五体満足でいられる気がしねえ!
「ぐ、ぬおおおおおおお」
雄たけびをあげ自らを鼓舞し、ハンマーを振り回す。
引き金はもう、引きっぱなしだ。地面にぶつけなくともあたればそれだけでダメージを与えられる。
隙を見せず、最小の動きで最大のダメージを!
だが文字通り宙を舞い、踊るような動きをするソラを捉えることはできず、羽に当たることを怖れ無意識にトリガーから指をはなしてしまう。
ソラはソラで構わず、かわしながらも両手を繰り出し攻め立てていく。ハンマーの柄に、防護服の端にその刃があたり、次々と欠けていった。
そして、とうとう左手の羽の一枚が中ほどから折れた。
あわてて逃げ出そうにも、あまりにも唐突過ぎた。
折れた羽は回転し、破片を散らし、地に触れ、砕け散る。
「!?」
だが、爆発しない。
ソラは、まだ未使用だった羽と交換し、さらに攻め立てる。
「機爆弾かよ!?」
逃げ出したい。
これまで、いったいどれだけの破片がばらまかれた?
右の羽もついに砕ける。シフト
いったい、どこまでの範囲に破片がばら撒かれた?
防御にかざしたハンマーの柄に、時に地面に、自ら刃羽をあて砕いていく。
どこから嵌められた?
逃がさぬように、魔力弾の雨が降り注ぐ。
防護服の魔力が切れた。最新式だというのに。
逃がさない。
あたり一面、ヤツに有利なばかりの爆弾地帯。
そして、ついに10枚の羽をきれいに砕ききったソラは大きく飛び退って
起爆
「く……ふ……は……」
ハンマー男がかろうじて生きていたのは、運がよかったのか、たまたまだったのか。
それでも全周囲から浴びせられたその衝撃は、ハンマー男の意識を刈り取るには十分だった。
「え、えげつないねぇ」
茫然とした顔で、ジョイがつぶやく。
「うん、まあソラって昔っから極端だから」
手加減とか全力とかね。というのはリッカ
「えっと、機塊持ちの戦いって全部こんなのなの?」
機塊が犯罪の象徴扱いされたのがわかった気がする。と妙に納得してしまっているのはカルラで
「いや、ソラがおかしいだけだって。俺のみてたでしょ!? カルラちゃんの機塊も破壊力特化だけどさ! てかそれより」
ジョイが路地裏から出てきてソラに向かう。ジョイの技術もおかしいとおもうが。
「5枚目なんて聞いてないぞ!?」
「そりゃいってないから」
答えながら、蹴り飛ばされていたダガーを拾い、しまう。
「てめ……それより、コッチももってったらどうだ?かなり便利だろ?」
そう示したのはならず者がもっていた振動短剣。
「重い。それに壊れる」
「壊れるって……」
「ソラからもれる魔力が勝手に吸収されたり影響与えたりして偽塊が誤作動起こすの。だからソラは偽塊を身につけてないでしょ?」
「あー、道理でコトあるごとに送ったランプやオルゴールが壊れてたわけだ……早くそれを言えよ!」
「あの、もって帰っちゃっていいの? というより送ったって?」
「金で雇われて人の命を奪うようなやつらだから、問題ない。で、こいつが……」
「だーーーーっ! いーーーーーうーーーーーーなーーーーーーー!!」
突然、銃声が響いた。
とっさにソラはリッカとユニを、ジョイはカルラをかばい物陰に隠れる。
ハンマー男の胸に、穴が開いていた。
続けて二発の銃声。生き残っていた男たちの頭に、胸に風穴が開く。
「なにが!?」
「リッカ」
「ごめん、まぎれててわからない」
「ともかくとっととずらかるかねぇ。憲兵がきたらまた面倒なことになるんだろ」
じっと、戦場を見つめていたユニを促してその場を離れる。
遅れて数分、やっと憲兵たちが現場に到着した。
やっと折り返し地点