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¥PRICE¥  作者: 羽依音
入学篇
9/105

06

 レストランに到着すると、三人は、エレベーターから少し離れた場所にある席を確保していた。

 レストランの外に設置されてる席で、このレストランもバイキング式。

 昨日は中華だったから、今日は和食に決めて入口に向かおうと立ち上がった時だった。


「ふざけないで……!!」


 女の怒鳴り声が響いた。俺達の席の後ろは、死角ゾーン。

 俺は三人と同時に目を合わせて、横目で死角ゾーンをチラ見した。


 「何だ……?」


 「さあ……? 別れ話とか……?」


 「こんな所で、別れ話するかな……?」


 「……だよね、小岩井。俺もそう思う……」


 ヒソヒソやっていると、別の女の声がした。


 「おい、声がデカイ。こっちは、お前に配慮しているんだが?」


 「菖蒲(アヤメ)さんの時といい……。 あなた、一体何様のつもり? 話を聞いてあげて損したわ!!」


 カツカツとヒールの音を響かせながら、声の主Aが死角ゾーンから出て来た。




 とりあえず目に映ったのは、赤のロングスカートだった。


━━美容会の方だっ!!

 とりあえず礼をした。三人も、ちゃんと礼をしていた。


 「おい、ヒアルっ!!」


 声の主Bも姿を現した。黒のワンピースセーラー服。黒って事は、2年生かな?

 ブルーハワイ先輩と柏餅先輩、黒のつなぎだったし。

 この人、美容会の人呼び捨てにしたよね……? 大丈夫なの……?

 Bさんは、ヒアルさんの腕を掴んでエレベーターに向かうのを止めていた。

 ぞろぞろと、死角ゾーンから人が出て来て2人の近くに固まった。


 「離しなさいよっ!! あなたの、要望に応じる気はないのっ!!」


 「分かった、分かった。私が、勝ったら菖蒲の時の要望は破棄していい。どうだ?」


 「はぁ……? 何ですって……!?」


 「赤い靴を履けない方が困るんだよ。

 まあ、菖蒲の時の要望は、アイツへの嫌がらせだからな。

 ああ、すまん。お前は菖蒲の信者だったな。教祖様を悪く言ってしまった」




 いざこざは俺達の席のすぐ側で起きている……。

 横切って、飯を選びに行く勇気なんてない俺は、奈之井ーのフライドポテトをつまみながらガン見していた。

 とりあえず、Bさんは赤い靴が履きたいんだな。

 Bさんの、足元に視線を落とすと……。


 「…………」


 黒の網タイツに、キティッパかよ……。ヤンキーなの? Bさん……。

 エレベーターが開いて、タイミングいいのか悪いのか緑会の方々が出て来た。

 大丈夫かな……。てゆうか、登校初日にいざこざに出くわしてますけど、柏餅先輩……。監視カメラ、ダミーじゃねぇよな?


 「何してんの~? 豪華キャストが集まっちゃって~」


 「烏龍……」


 赤のつば広帽子を被った、ローズピンク色のセンターパートのロングストレートの方が、ヒソヒソと抹茶烏龍さんに説明してた。

 つば広帽子の方は、赤のパンツスーツを着ていてハリウッド女優みたいだな。


 「今回の要望の、獲得条件は何なの?」


 「ジャンケンだ」


 「はぁっ!? お前、マジかそれ……」


 「ああ。勝っても私が赤い靴履くだけだし、負けてもヒアルの評価は下がらないだろ? ジャンケンなら。

 それとも……」


 Bさんは、ヒアルさんの耳元で何か喋った。

 ヒアルさんは、スカートをぎゅっと握り締めてBさんを睨み付けていた。

 何言ったんだよ……。

 女のいざこざは、見てる分には面白いけど関わりたくないな……。


 「いいじゃんヒアル。やってあげたら?」


 「馬場炉亜……!! あなた、本気で言ってるの……?

 この女を、これ以上調子に乗らせていいわけないでしょうっ!!」


 「だって、勝ったら菖蒲さん時の要望を破棄するんでしょう?

 ヒアル言ってたじゃん。礼されるのは私達だけでいいのに、Sが礼されるのは胸糞悪いって。

 だったら、負けてもいいじゃん」


 「へえ……。馬場炉亜は、話が分かる奴だな。

 そうだ、ヒアル。特別に、私が負けた時の罰も追加してやろうか?」


 「一応、聞いてあげるわ。……何?」


 「この場で私に平手打ち。1ヶ月お前の下女になってやる。

 どうだ? 胸糞悪い私を平手打ち出来て、下女に出来る。

 お前にとっていい条件じゃないか?」


 いざこざが見える席に座っている生徒達は、誰も喋らず様子をガン見していた。


 抹茶烏龍さんは、超面白れぇじゃんそれ!!ってはしゃいで、ヒアルさんにやろうよ~!!って推してた。

 ヒアルさんは、唇に手を押し当てて悩んでいた。


 「いいじゃない。勝っても負けても、あなたにとって好条件よ?」


 アップルグリーン色の、ゆるねじりハーフアップの方がヒアルさんの肩に手を置いて微笑んだ。

 左目の下に泣きボクロ。

 服装は、白のフリル襟ブラウスに黒のロングスカート。妖艶で、色っぽい声の人だ。


 「要望してくるのは、Sぐらいだって。

 赤の服着るわけじゃないんだしさー。靴だからいいんじゃない?」


 背が低い、ストロベリー色のゆるふわウェーブロングヘアー。

 大ぶりの赤いカチューシャを付けた、赤×白ロリィタの美容会メンバーの方も推している。


 「……分かったわ。やってあげる。

 あなたが勝ったら、赤い靴を履く権利を与える代わりに生徒から礼される権利は破棄。

 負けたら、この場であなたに平手打ちして1ヶ月私の下女になる。……これでいいんでしょう?」


 「ああ、その通りだ」


 「何回勝負するの?」


 「一回でいい」


 「よーし!! じゃあ、やろう、やろう!!

 ……赤い靴を履く権利ジャンケン開始~!!

 最初はグー!! ジャンケーン…………」





 抹茶烏龍さんのかけ声で始まったジャンケンに、生徒の視線は集中していた。

 入口は、出たくても出れない生徒でごった返していて、押し合いながら2人のジャンケンを見ていた。

 俺の席からは、Sさんは後ろ姿しか見えなくて、ヒアルさんも囲まれていて見えない。


 ━━どっちが勝ったんだ……?


 いつの間にか、ポテト食べるのもどうでもよくなるくらい、赤い靴を履く権利勝負観戦に夢中になっていた俺だった。


 Sさんが、前かがみになって抱えていた白い箱をフロアに置いた。

 キティッパを脱いで、箱の中から取り出した靴に履き替えていた。


 ━━スゲェ……!! 勝ったんだ……!! この人、やるじゃんっ!! かっこいい……!!


 クルッと振り返ったSさんは、鮮やかなオレンジ色の髪で、ふわっとカールさせた高い位置の左右お団子ヘア。

 ライトブルーの左目。右目には黒い眼帯。眼帯の柄は、赤い血しぶき……。

 ああ、なるほど……。ホラーテイストなデザインがお好みなんですね……。

 

 ずっとSさんの隣に居た人は、地毛で三つ編みカチューシャを作っているセミロングストレートの赤髪。

 黒タイツに、黒の編み上げブーツを履いていた。


 「ヒアル、今日中に許可書を本部に提出しておけよ?

 ジャンケンで勝負して負けましたって、ちゃんとお前の字でな。

 コピーして、友の会の奴を使って私に届けて。今日中にな」


 「分かったわよ……!!」


 「あっ、ヒアルー!! ご飯はー?」


 「いらないっ!!  私、今日は早退するからっ!! じゃあねっ!!」


 「えっ!? あんた、今日から美術のモデルって言てなかった?」


 「どうでもいいわよっ!! 知らないっ!!」


 激しくお怒りのヒアルさんに対して、Sさんは、赤髪の風魔(ふうま)さんに今日は奢ると言ってレストランの中に入って行った。

 入口でごった返してた生徒達は慌ただしく後ろに下がって、二人は人の花道を進んで行った。


 安っぽくない、真っ赤なヒールを履いたSさんはすごく嬉しそうで、見ていた俺も心なしか嬉しくなった。


 女子の権力者、美容会の方に堂々と要望を言って、暴言も吐くSさん。

とりあえず彼女は、今の所俺が出会った人の中で、ぶっちぎりのインパクト大賞だ。

……惹かれるって、こういう事なのかな? 色々と凄い謎の二年生。


 ━━俺は、もっと彼女の事を知りたくなった。


 腐った場所だけど、なかなか面白い場所じゃん……。

 割り切って、商品になる事なんて無理だな……。嬉しいとか、悲しいとか、そういう感情までなくなりそうで嫌だしね。

 また、会えたらいいな……。Sさんに……。

 会えたら、その靴似合ってますって伝えよう。かっこよかったですって……。

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