表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
¥PRICE¥  作者: 羽依音
入学篇
7/105

04

 ━━月曜日は、振り替え休日。

 何もやる気が起きなくて、ひたすらダラダラ過ごした。


 漫画を読み返して、寝て、また読み返す。

 一人暮らしって、こんなに気楽なのか……。

 キッチンはあるけど、食堂があるから炊事する必要はないしな……。

 秋ぐらいに、電気ポット買おうかな。冬に備えて……。

 明日から、学校かあ……。行きたくないな……。

 『キミは、何で売られたのー?』とかが、定番の会話なのかな……。すげぇやだ……。喋りたくねぇな……。


 ━━朝、覚まし時計のアラームで無事起床。

 実家から運んでくれた、引き出し付きベッドは組み立ててくれてたし、カーテンも付けてくれてありがたかったのですが……。

 寝室用のカーテンを、リビングの窓に付けるのは嫌がらせなのか、少しでも光を遮光する為の、小さな親切なのか考えてしまった。


 集団生活ではなく、ちゃんと一人部屋で安心した。

 1LDKでTV、冷蔵庫、エアコン、ドラム式洗濯機と乾燥機有り。

 トイレはウォシュレット。床暖房もある。

 外観も部屋の内装もコジャレてるし、デザイナーズ物件ってやつだね。


 ━━しかし、すでに7時30分!! まったり、準備してしまった!!


 「靴はっ!? やっべぇっ!! 制服、ハンガーに掛けるの忘れてたしっ!!」


 段ボールには、梱包されてる物の名前が書いてくれてあった。

 ご親切にありがとうございます。助かりましたっ!!

 洗面所の鏡に映る自分の目は軽く腫れていた。あれだけ泣いたの久々だしね。仕方ない。


 髪関係って書いてある段ボールのガムテープを乱暴に剥がして、ワックスを取り出してセット開始。

 明るい茶髪。右側に流した前髪。長さは、ミディアムでソフトカール。


━━今日から、俺は士季だ。緑田 颯真はもう居ない……。


 制服は、青のブレザー。白シャツに黒に紺色ドットのネクタイ。

 黒のショート丈サルエルパンツ。

 とりあえず今日の靴は、茶色のショートブーツにしよう。

 エレベーター前には、色々な着こなしの同級生達。

 挨拶はなし。無言でエレベーターに乗った。


 エントランスは、自動販売機と観葉植物と警備員が3人。

 警備員=おっさんって、俺はイメージしてしまうけど、ここは若い兄ちゃん。

 つーか、ここで働いてる人若い人多いよな……。子上殿もそうだし……。


 観葉植物の前に、黒つなぎの友の会の人が立ってた。

 黒髪で、抹茶色のターバンをヘアバンドにしてデコ出しの先輩。

 同級生達が、警備員より友の会の先輩に挨拶しているのが何か笑えた。


 「おはようございます。士季です……」


 「おはよ。俺は、柏餅(かしわもち)。校舎こっち」


 ━━ブルーハワイ先輩は、敬語だったのに……。

 つーか、友の会に選ばれる基準は何なの……? 食い物の名前……?

 柏餅先輩、ガラ悪そうなんだけど役員になれるんだ……。


 ブルーハワイ先輩より、背高いな……。宇治金時さんと同じくらい?

 昨日、気付かなかったけど、前ポケットと後ろポケットがドクロ柄だ!!

 柏餅先輩の足元は、黒のクロックス。

 ブルーハワイ先輩は、白の編み上げブーツだったな。

 でも、似合ってますよ!! 柏餅先輩!!




 校舎に移動中、俺と先輩は無言……。

 ベラベラ喋る感じじゃないっぽいしな……。柏餅先輩……。

 空気が重くて耐えれなかったので、ペットを飼っているのか聞いてみた。


 柏餅先輩は、ポケットからスマホを出して写メを見せてくれた。

 雰囲気怖いけど、いかつい顔と体系じゃない先輩。普通にイケメンだし。

 ぶっちゃけ、先輩の方がフレンチブル似合いそうなのに、ワンちゃんは、イタリアングレーハウンドだった。

 スレート・グレーの雌で、名前は、かりんとう。

 俺は猫派だけど、犬ならイタグレが好みなのでかりんとうちゃんを褒めまくった。


 『俺の彼女』って笑ってくれた先輩。

 俺のビビりモードは解除されて、ブルーハワイ先輩のザラメ君の話に。

 先輩は、『デブ犬だったろ?』って言って、思わず笑った。

 俺の予想通り、散歩は引きずられてるみたいで、友の会のメンバー内でザラメ君の散歩は見る価値のある笑いの巣窟らしい。

 そして、ブルーハワイ先輩は、敬語を使うのは初対面の時だけって分かった。


 校舎は、何ていうか高級ホテルみたいな感じだった。海外の五つ星ホテル的な。

 校舎の近くに煉瓦造りの建物が見えたので、柏餅先輩に聞いてみた。


 「あれは、講堂だよ。全校集会とかあそこでやる」


 「そうなんですか……。体育館じゃないんですね……」


 「オース!! カッシー」


 「オース」


 「そいつ、何やらかしたのー?」


 「コイツは新入生ー。職員室に案内中だよ」


 「…………」


 つなぎのせいだろうけど、二年の男子の先輩が集まっていると怖えぇー!!

 自動ドアが開くと、下駄箱じゃなくてインフォメーション。

 黒髪のお団子ヘアーで、ホテルのフロントに居そうなお姉さんが、おはようございますって生徒に挨拶をしていた。


 「下駄箱……じゃなくてインフォメーションなんですね」


 「うん、体育用の靴は教室のロッカーに置いてるから」


 「そうなんですか……。今日、体育あったらどうしよう……」


 「ああ、大丈夫大丈夫。レンタルショップあるから。

 一階にレンタル専用店あるからさ。もちろん、有料」


 「ああっ!! キャッシュカードの番号……」


 「忘れてたのかよ……。インフォメーションでやりゃあいいよ。生徒手帳見せれば、作れるから」


 「生徒手帳!? 貰ってません……」


 「ブレザーの内ポケットに入ってるよ。一年の職員室は一階な。

 ああ、教えとくわ。ここの、先公に期待すんなよ。

 勉強の相談は受けてくれるけど、基本は生徒にノータッチだから」


 「えっ……?」


 「俺らは商品だからな。体罰もねぇし、ド叱られる事もねぇ。

 滅多にねぇけど、生徒のいざこざに立ち合うのは友の会だから」


 「いじめとかですか……?」


 「いじめねぇ……。やりたくても出来ねぇよ。

 見えねぇか? うじゃうじゃある監視カメラ」


 「…………ッッ!?」


 柏餅先輩が指差した方向には、言った通り監視カメラがあった。

 俺の視界に入る範囲で、5台の監視カメラが見えた。


 「行動は、常に監視されてるんで。平和だぜ?」


 「…………」


 ━━ある意味、この学¥は異世界のような気がした。

 普通の学校じゃ有り得ないよ……。

 守られてる安心と、絶対逃げられない恐怖が同時に存在する学校なんて…。

 やべぇな……。ちょっと背筋が寒くなったし……。

 認めたくないけど、 人身売買は本当にある……。

 割り切らなきゃいけないのに、ここから逃げたいと素直に思うのは、俺がまだ人間だという感情を捨てていないって事だよな……?


 どうやったら、割り切れるんだろ……? 自分を商品って認めるなんて、当分の間無理そうだ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ