04
━━月曜日は、振り替え休日。
何もやる気が起きなくて、ひたすらダラダラ過ごした。
漫画を読み返して、寝て、また読み返す。
一人暮らしって、こんなに気楽なのか……。
キッチンはあるけど、食堂があるから炊事する必要はないしな……。
秋ぐらいに、電気ポット買おうかな。冬に備えて……。
明日から、学校かあ……。行きたくないな……。
『キミは、何で売られたのー?』とかが、定番の会話なのかな……。すげぇやだ……。喋りたくねぇな……。
━━朝、覚まし時計のアラームで無事起床。
実家から運んでくれた、引き出し付きベッドは組み立ててくれてたし、カーテンも付けてくれてありがたかったのですが……。
寝室用のカーテンを、リビングの窓に付けるのは嫌がらせなのか、少しでも光を遮光する為の、小さな親切なのか考えてしまった。
集団生活ではなく、ちゃんと一人部屋で安心した。
1LDKでTV、冷蔵庫、エアコン、ドラム式洗濯機と乾燥機有り。
トイレはウォシュレット。床暖房もある。
外観も部屋の内装もコジャレてるし、デザイナーズ物件ってやつだね。
━━しかし、すでに7時30分!! まったり、準備してしまった!!
「靴はっ!? やっべぇっ!! 制服、ハンガーに掛けるの忘れてたしっ!!」
段ボールには、梱包されてる物の名前が書いてくれてあった。
ご親切にありがとうございます。助かりましたっ!!
洗面所の鏡に映る自分の目は軽く腫れていた。あれだけ泣いたの久々だしね。仕方ない。
髪関係って書いてある段ボールのガムテープを乱暴に剥がして、ワックスを取り出してセット開始。
明るい茶髪。右側に流した前髪。長さは、ミディアムでソフトカール。
━━今日から、俺は士季だ。緑田 颯真はもう居ない……。
制服は、青のブレザー。白シャツに黒に紺色ドットのネクタイ。
黒のショート丈サルエルパンツ。
とりあえず今日の靴は、茶色のショートブーツにしよう。
エレベーター前には、色々な着こなしの同級生達。
挨拶はなし。無言でエレベーターに乗った。
エントランスは、自動販売機と観葉植物と警備員が3人。
警備員=おっさんって、俺はイメージしてしまうけど、ここは若い兄ちゃん。
つーか、ここで働いてる人若い人多いよな……。子上殿もそうだし……。
観葉植物の前に、黒つなぎの友の会の人が立ってた。
黒髪で、抹茶色のターバンをヘアバンドにしてデコ出しの先輩。
同級生達が、警備員より友の会の先輩に挨拶しているのが何か笑えた。
「おはようございます。士季です……」
「おはよ。俺は、柏餅。校舎こっち」
━━ブルーハワイ先輩は、敬語だったのに……。
つーか、友の会に選ばれる基準は何なの……? 食い物の名前……?
柏餅先輩、ガラ悪そうなんだけど役員になれるんだ……。
ブルーハワイ先輩より、背高いな……。宇治金時さんと同じくらい?
昨日、気付かなかったけど、前ポケットと後ろポケットがドクロ柄だ!!
柏餅先輩の足元は、黒のクロックス。
ブルーハワイ先輩は、白の編み上げブーツだったな。
でも、似合ってますよ!! 柏餅先輩!!
校舎に移動中、俺と先輩は無言……。
ベラベラ喋る感じじゃないっぽいしな……。柏餅先輩……。
空気が重くて耐えれなかったので、ペットを飼っているのか聞いてみた。
柏餅先輩は、ポケットからスマホを出して写メを見せてくれた。
雰囲気怖いけど、いかつい顔と体系じゃない先輩。普通にイケメンだし。
ぶっちゃけ、先輩の方がフレンチブル似合いそうなのに、ワンちゃんは、イタリアングレーハウンドだった。
スレート・グレーの雌で、名前は、かりんとう。
俺は猫派だけど、犬ならイタグレが好みなのでかりんとうちゃんを褒めまくった。
『俺の彼女』って笑ってくれた先輩。
俺のビビりモードは解除されて、ブルーハワイ先輩のザラメ君の話に。
先輩は、『デブ犬だったろ?』って言って、思わず笑った。
俺の予想通り、散歩は引きずられてるみたいで、友の会のメンバー内でザラメ君の散歩は見る価値のある笑いの巣窟らしい。
そして、ブルーハワイ先輩は、敬語を使うのは初対面の時だけって分かった。
校舎は、何ていうか高級ホテルみたいな感じだった。海外の五つ星ホテル的な。
校舎の近くに煉瓦造りの建物が見えたので、柏餅先輩に聞いてみた。
「あれは、講堂だよ。全校集会とかあそこでやる」
「そうなんですか……。体育館じゃないんですね……」
「オース!! カッシー」
「オース」
「そいつ、何やらかしたのー?」
「コイツは新入生ー。職員室に案内中だよ」
「…………」
つなぎのせいだろうけど、二年の男子の先輩が集まっていると怖えぇー!!
自動ドアが開くと、下駄箱じゃなくてインフォメーション。
黒髪のお団子ヘアーで、ホテルのフロントに居そうなお姉さんが、おはようございますって生徒に挨拶をしていた。
「下駄箱……じゃなくてインフォメーションなんですね」
「うん、体育用の靴は教室のロッカーに置いてるから」
「そうなんですか……。今日、体育あったらどうしよう……」
「ああ、大丈夫大丈夫。レンタルショップあるから。
一階にレンタル専用店あるからさ。もちろん、有料」
「ああっ!! キャッシュカードの番号……」
「忘れてたのかよ……。インフォメーションでやりゃあいいよ。生徒手帳見せれば、作れるから」
「生徒手帳!? 貰ってません……」
「ブレザーの内ポケットに入ってるよ。一年の職員室は一階な。
ああ、教えとくわ。ここの、先公に期待すんなよ。
勉強の相談は受けてくれるけど、基本は生徒にノータッチだから」
「えっ……?」
「俺らは商品だからな。体罰もねぇし、ド叱られる事もねぇ。
滅多にねぇけど、生徒のいざこざに立ち合うのは友の会だから」
「いじめとかですか……?」
「いじめねぇ……。やりたくても出来ねぇよ。
見えねぇか? うじゃうじゃある監視カメラ」
「…………ッッ!?」
柏餅先輩が指差した方向には、言った通り監視カメラがあった。
俺の視界に入る範囲で、5台の監視カメラが見えた。
「行動は、常に監視されてるんで。平和だぜ?」
「…………」
━━ある意味、この学¥は異世界のような気がした。
普通の学校じゃ有り得ないよ……。
守られてる安心と、絶対逃げられない恐怖が同時に存在する学校なんて…。
やべぇな……。ちょっと背筋が寒くなったし……。
認めたくないけど、 人身売買は本当にある……。
割り切らなきゃいけないのに、ここから逃げたいと素直に思うのは、俺がまだ人間だという感情を捨てていないって事だよな……?
どうやったら、割り切れるんだろ……? 自分を商品って認めるなんて、当分の間無理そうだ……。