03
3人が部屋から出て行った後、外で待機していたっぽい奴が入って来た。
ショートレイヤーのピンパーマ。髪色は、白と青のグラデーション。
服装は黒のつなぎ。左腕に、和柄の緑の腕章を付けてた。
「はじめまして。緑会友の会、二年のブルーハワイです。寮まで送りますね」
名前聞いた瞬間、また鼻水出そうになったけど、髪の色見て納得した俺がいた。
本当に。名前って何でもいいんだな……。
「あの、友の会って……?」
「あれ? 聞いてないですか? ……まあ、前期の方々が卒業したばっかりだし仕方ないか……。
左腕に、この腕章を付けているのは、友の会の生徒です」
早い話が緑会の方々のサポート役。
後、風紀委員的な役割もしているらしい。
緑会友の会の印は、緑に白の吉原つなぎ文様の腕章。
美容会友の会の目印は、左胸に赤い薔薇のコサージュって、ブルーハワイ先輩が教えてくれた。
「キミも頑張ればスカウトされるかもしれませんよ?」
「はあ……」
━━申し訳ないです。全く興味ありません。
「この建物は、何かの施設ですか?」
「学¥の第二棟ですよ」
「えっ……? ここも、学校ですかっ!?」
「一応、そうなりますね。第二棟は、20階建てです。
1階はカフェで、その上は部室や店舗や施設ですね」
「…………」
カフェ以外にも店舗入ってんだ……。
部室ねぇ……。何か、面白そうな部活あったら入ってもいいかも……。
絶望的になるより、気分転換した方がいいもんな。メンタル的にも……。
エレベーターが一階に着くと、透明なガラス窓から、オシャレなカフェの店内が見えた。
今日は、祭日。入口は、シャッターが閉まってた。
学¥の敷地内は、洋風の街灯が設置してあって、地面は芝生。
外は、すっかり夜。月と星空が綺麗なのに……。虚しい気持ちになるな……。
第二棟の隣に、大きな建物が見える。きっと、アレが学¥……。
地元の高校は、小中学校から仲良い奴らと一緒だったけど……。
クラスに馴染めるかな……。憂鬱……。
外には数人の警備員が配置されている。脱走不可能。
それについて、森恩が説明してたな。
仲良くなったクラスメートにでも聞けばいいと思って、聞き流しちゃったけど。
学¥の裏が寮。50階建ての、高層マンション。
街灯のおかげで、マンションの色も確認出来た。
1年は白。2年はオレンジ。3年はピンク。
3年が卒業したら、来年の1年が使うらしい。
49階に、大浴場があって24時間いつでも利用出来る。
25階は、食堂とコンビニ。
食堂は朝6時から夜22時まで、コンビニは、24時間営業。
第二棟の二階に、美容院とペットサロンがある事を教えてくれた。
ペット可なんですねって聞くと、サロンが預かりもやってるみたいで、子犬とか子猫も飼えるって教えてくれた。
ペットショップは、ショッピングモールにあるそうです。
料金が発生するけど、躾もやってくれるらしい。
ブルーハワイ先輩は、フレンチブルドックを飼ってて写メを見せてくれた。
とっても、ムチムチした白黒のザラメ君。去勢済み。
散歩の時、引きずられる先輩を想像して、思わず笑いそうになった。
「俺は、今日から、食堂を利用出来るんですか?」
「出来ますよ。今……21時30分か……。部屋に行く前に、食堂行った方がいいと思います。
食堂の利用費は、行った回数に関係なく、月末に5千円引かれるので。
後、寮費と光熱費合わせて1万5千円と携帯代も月末に引かれます。
あっ!! 火曜日は何時に起きますか?」
「えっ!? 何時に起きれば間に合いますか??」
「8時20分に、朝のHRなので……。8時に、エントランスで待ってて下さい。
俺と同じ制服の、友の会のメンバーが迎えに来ます」
「分かりました……」
つなぎが制服っ!? いいなー!! 二年生!!
「色々あって疲れたでしょう? 今日は、大浴場行って早めに休むといいですよ。
部屋にも、風呂は有るからご心配なく。
じゃあ、新生活楽しんで下さいね。おやすみなさい」
「ありがとうございました……。おやすみなさい……」
ブルーハワイ先輩に言われた通り、俺は食堂に向かった。
高層マンションで1人暮らしか……。
本当に1人暮らし……? 実は、団体生活ですってオチはねぇよな……?
気が合わなルームメートだったら、困る……。絶対、無理っ!!
宇治金時さん、カードキーって言ってたしな……。
いや、 4LDKって可能性も……!!
「聞いときゃよかった……。ブルーハワイ先輩に……」
食堂は、グレーと黒のチェス柄のカーペットの廊下。
エレベーターの正面が、コンビニだった。名前は、キャンディマート。
金髪と黒髪の男の店員が、レジで喋っているのが見えた。
食堂は、吹き抜けの造り。
パルテノン神殿みたいな柱に、緑の葉っぱが巻き付いている。
木製の丸テーブルと籐の椅子。
どうやらバイキングみたいだけど……。食い物が全くないんですが、どうしよう……。
「あっ、来た来た!! 士季君だよねー?」
「はい…………」
「今日、来たんだって? いらっしゃいー」
「もしかして、待っててくれたんですか……?」
「だいたい、皆21時前には食べ終わっちゃうからねー。
何食べるー? 何でも作れるよ」
「ありがとうございます……!!」
黒に白の龍柄のバンダナを巻いて、明るい茶髪の髪を白のクリップで無理くりまとめてた。
年齢20前後っぽいお兄さん……。
自然に、首から下げてる社員証に目がいった。
「ああっ!! お兄さんだったんだ!! 俺の、第一希望ネームの使用者……」
「えっ? ああ、キミもコレにしたかったんだ。
子上。ごめんね、使用済みで。好きなの? 司馬昭」
「いや、好き度は普通なんですけど……」
「何だそれっ!? 感じ悪~……」
「いや、急に名前決めろって言われて焦っちゃって……。
あ・か・さ・しって、一番最初に浮かんだのが司馬昭だったんです」
「あ行、か行、さ行から、た行にいかないで、しに移行したんだ」
「だから、焦ってまして……。お兄さんは、何で子上に?」
「んっ? ああ、三国志好きなのもあるけど……。やってたゲームで、持ちキャラだったから……」
「ああっ!! 俺も好きですよ。そのゲームっ!! ストレス解消になりますよねっ!!」
俺は、子上殿に天津丼をオーダーした。子上殿と、 アクションゲームトークで盛り上がって、やっと素の自分に戻れた……。
サラダと春雨のスープも作ってくれて、味はめちゃくちゃ美味くて感動……!!
「美味しいっ!! 子上殿、料理お上手ですね……。すごい……」
「あははっ。いや、普通レベルだって。中華に合わないけど、どーぞ」
「…………」
食器を返却口に持って行こうとしたら、子上殿はある物を持って来てくれた。
お椀サイズの苺ショートのバースデーケーキ。
「今日、誕生日でしょう? ハッピーバースデー♪」
「…………ッッ!!」
本日、二度目のバースデーケーキ。
一回目は、メイドカフェ。二回目は、食堂。
『一生恨んでくれてかまわない……!!!!』
━━俺が欲しかったのは、そんな言葉じゃないよ。父さん……。
最後の別れなら、言ってほしかった……。
『颯真、誕生日おめでとう』って…………。
二度と呼ばれる事のない、父さんと母さんが付けた名前を、最後に呼んでほしかった……!!
声を殺して泣く俺の頭を、子上殿は優しく撫でてくれて、『頑張れ……』って言ってくれた。
ねぇ、子上殿……。何を頑張ればいいの……?
絶望的なこの場所で、何を頑張れっていうんだよ……!!
でも、あたなが優しい人なのは分かったよ……。ありがとう……。
商品として、割り切れるように頑張るよ……。
それが、ここでの生き方だから……。