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¥PRICE¥  作者: 羽依音
入学篇
4/105

01

 ふわふわして、朦朧(もうろう)とする意識の中、身体を揺さぶられた。


 「颯真君、到着しました。起きて下さい」


 「オイオイ……。今回は、量多すぎたんじゃねーの?」


 「かもね……。あーあ、またドクターにネチネチ言われちゃうなぁ……」


 「お疲れ様です!!」


 「お疲れ。商品は?」


 「まだ、薬が効いてるみたいで……」


 「今回は、量が多かったのか。まだテスト段階だからなぁ……。新しい睡眠薬。

 本部に戻っていいぞ。緑会と部隊への連絡は?」


 「完了しています」


 ━━睡眠薬……? 緑会……? 部隊……?

 ……ダメだ。ポツポツと会話は、耳に入ってくるけど……。

 だるいし、ボーっとする……。


 虚ろな目で見えたのは、黒のスーツの後ろ姿だった。

 カラカラって音が聞こえて、足元に視線を落とした時、自分が車椅子で運ばれている事が分かった。


 「颯真君、まだボーっとする? 動くのきつそうだね。そのままでいいよ」


 「……はい。ちょっと動くのきついですね……」


 「水どうぞ」


 「……はい。いただきます……」


 一口飲んだ瞬間、頭が急に冴えた。

口の中がビリビリする感じがして、俺は激しく咳き込んだ。


 明るい部屋。白いオシャレな長いテーブル。

 黒の高級そうなカウチソファーに、3人の男が座ってた。

 お迎えのスーツ組より、ちょっと年齢上な感じがした。

予想した年齢は、20代後半ぐらい。


 「まだ、ボーっとする?」


 「……いえ。もう大丈夫です」


 「じゃあ、ここに座って、お話し聞いてね。失礼します」


 「ご苦労様。初めまして、緑田 颯真君。人事部責任者の、森恩(モリオン)です」


 喋っているのは、真ん中に座っている人。

 9:1に分けた前髪を左から右に大胆オールバック。

 銀フレームの眼鏡をした黒髪。

 責任者、納得って感じの容姿と髪型。


 「まずは説明しないとね。ようこそ。最後の楽¥へ」


 さいごのらくえん……?

 え……? 何ここ……? リゾート地かなんか……?


 「ちなみに、楽園の園は¥マークね。ここは高等学校です。人身売買専用の。

 キミと同じ、売られた子が、卒業まで楽しく過ごす場所。

 颯真君は……1年か。卒業式は、一般的な学校と同じで3月。

 ここは、ひな祭りが卒業式。式の終了後、颯真君は、ご主人様とご対面になるから」


「…………」


 意識はハッキリしているのに、返す言葉も出なかった。

 本当に、売られたんだ……。夢じゃない事が分かった……。

 人身売買なんて、外国とか都市伝説の中だけだと思ってたよ……。


「とりあえず、気になっているのは、何で自分が売られたかだよね?

 うん。それから説明しようか」




 とりあえず、それは重要な部分だから、しっかり聞いた。

 父さんは、部下がミスして損失した500万の責任を取らされた。

 ミスした部下は、一番信頼してた男。

 家に父さんがよく連れて来てた寺門って奴。

 寺門は、父さんのお人好しの性格を上手く利用して責任をなすりつけた。


 父さんに、同情はしなかった。むしろ、ザマアミロだった。

 とりあえず、銀行から200万借金したものの、残り300万足りない。

 父さんは、一家心中まで考えたらしい。

 そんな死亡フラグの父さんに、手を差し伸べたのが200万を融資した銀行員。

 どうやら、ここの人身売買組織は、色々な職場に潜入しているみたいだ。


 どうなってんだよ。この国……。

 マジで腐ってるよ……。それともこれが、アングラな世界って奴?


 父さんが俺を売った理由の話の後、森恩は人身売買システムを淡々と説明していたけど、どうせ売られるのはもう分かったから適当に聞いてた。

 諦めた。どうにもならない。逃げるのは、絶対無理だし。

 俺は今日から卒業するまで、全然楽しくない高校生活を過ごすんだ……。




 「じゃあ、名前を決めようか。とりあえず、コレに希望の名前書いてくれる?」


 「名前ですか……?」


 「そう。もう、緑田 颯真は居ない。

 とりあえず、ここでの名前ね。学校だからさ、名前ないと困るでしょ?」


 「苗字も必要ですか?」


 「本名以外なら何でもいいよ。特に条件はないから。

 苗字だけの子も居るし、名前だけの子や、キラキラネームっていうの? そういう子もいるね。

 どうしても本名を使いたいなら、漢字を変えてね」


 「…………」


 急に言われてもなあ……。何かあるかな? 付けたい名前……。

 オンランゲームで使ってた名前。SNSで使ってた名前。

 どれも適当に付けた奴だしな……。その時の、思い付きで……。


 他に何がある……?

 芸能人、アニメキャラ、ゲームキャラ、食べ物、歴史上の人物……。

 とりあえず、パッと脳内に浮かんだ名前を5つ書いた。

 森恩の左隣のウェーブたなびくロン毛が、名前を書いた紙を見ながらノートパソコンで検索を開始した。


 「第1希望以外なら大丈夫ですね」


 「だって。どうする?」


 「あっ……じゃあ第2希望で……」


 「これは、士季(シキ)で合ってる?」


 「はい」


 「じゃあ、今日からキミは、士季ね」


 「別に、鍾士季(しょうしき)も大丈夫だよ? 鍾会(しょうかい)もイケる」


 「何? お前、分かるの?」


 「はい。三国志だよね」


 「はい……。正解です……。じゃあ、士季でいいです……」


 何だよ!! ウェーブたなびくロン毛!! お前やるじゃん!!

 ちょっと、語りたいとか思ったしっ!!

 名前が決まると、次は携帯を選ばされた。今まで使ってた奴は、爆睡中に没収したそうです。


 勿論、その携帯は処分。親や親戚。元学校の友達。

 外部への連絡は一切禁止って言われた。




 携帯を決めると、3人は部屋から出て行った。

 入れ替わりで入って来たのは、また3人組の男。

 黒のレザーキャスケットと、チェーン付きの丸眼鏡の奴が、カウンセラーだと笑顔で言ったけど、俺は、やり手の詐欺師にか見えなかった。


 「蜘蛛(クモ)です。いくつか質問するから答えてね」


 「蜘蛛さん!?」


 「うん。蜘蛛好きなんだ。胸と腕にタトゥー入れるぐらい。━━見る?」


 「いえっ……。遠慮しておきます……」


 「じゃあ、始めるね……」


 蜘蛛の質問は、答えを知っている質問だった。

 正直に、答え知ってますって言った方がいいのか、あえて知らないふりして答えた方がいいのか迷ったけれど、俺は正直に言う事にした。


 「あの……。答え知ってるんですがどうすればいいですか……??」


 「えっ!? マジで? ネットでも、あんまり出てない奴チョイスしてるんだけどなー。……何で知ってんの?」


 「たまに、その手の特集っぽい番組あるじゃないですか?

 嫌いじゃないんで……。番組を観た後、色々調べちゃって。

 ……知ってます。サイコパス診断…………」


 「じゃあ、士季クンはいいや。終了~」


 「ちなみに、何の為のサイコパス診断なんですか……?」


 「……それは、正解を知らずに答えた子にしか教えないよ。じゃあ、学¥生活楽しんでね」


 「はい……。多分、全く楽しめませんけどね」


 何なんだよっ!? サイコパスだったら、売買に影響あるのかっ!?

 あるよね……。ご主人様を、殺して逃亡しないようにかな……。


 知らないふりをして答えていたら、どうなっていたんだろ……?

 そこは、ちょっと気になるかな……。

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