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性別転換

前略、俺はとんでもない世界に来てしまったのかも知れない。










誰か……頼む。俺を引っぱたいてくれないか?じゃないと俺の理性がもう、持たないんだ。








気がついたらそこは異世界だった。


「いてぇ」


ぼやけた視界に入り込んだのは月の光で、辺りは風の匂いがした。


「ぅう……此処、何処だ?」


木々がざわめき俺を歓迎しているかのようだ。


ん?ちょっと待てよ、今しがた俺は自室のベッドで気持ち良く寝ていたんだが………………。


夢…………か?


服装はスウェット姿のままだった。


妙にリアルな夢だなと思いつつ、森を歩きだす。


5分程歩いたところで焦げ臭い匂いがした。


暗くて分からないが………焼け焦げた森?か


匂いがまだ残っているということは火が放たれてからあまり時間は経っていないってことだ。


焦げた木々の真ん中で何やら輝くものがあった。


あれは………何だ?


近付いてみる。


ーーが、あと数歩のところで何者かに引き止められた。


「おい、動くな」


鋭い女の声が閑静な森に響いた。


振り向いてはいけない。直感で俺は感じとった。


下手すれば殺されかねない。


ザッザッと草を踏みながら俺に近付いてくる女。


「賢明な判断だ。貴様に手は出さん」


そのまま俺を素通りして光り輝く何かを手にとっていた。


「ーーーこれがあれば」


女が消え、緊迫状態が消えたことを確認すると、俺も森を抜け出そうと女が歩を進めた方へ歩き出す。


ザッザッザッザッザッ


「あの……」


女の子の声が聞こえた気がするが、幻聴だろう。


ザッザッザッザッザッ


「あの!!!!」


ん?今、確かに声がした。


「ここら辺に……その…キラキラ輝く小さな石が落ちてませんでしたか?」


石ってさっきの女が持っていったやつか?


「ああ、それなら……今しがた女が……ってーーーーー近い!!!!!」


女の子は何時の間にか俺の目前に居た。


ジーッと物珍しそうに俺を見ている。


「俺がどうかしたか?」


「!?」


どう対応すれば良いのかリアクションに困る。


「わ……わたしっ、男の人は初めて見ました。この世界に……そんな……」


この世界にって何だよ………何か意味深な言葉だ。

「男の人って話せたんですか。人語を理解出来るなんて」


この子は一体、男を何だと思ってるのだろうか?


「姫、何か事がありましたか?」


何か新しいのも出てきたし。


彼女は一瞥すると口を開いた。


「男か……?だが、ありえない。この世界から男は消滅したハズだ」


「でも、ヴァイデリシュ確かに……男…ですよね?」


頼むから俺を無視して会話を進めないで欲しい。


「マズイな。非常に……。姫君、こやつを一先ず城へ連れ帰りましょう」

どうやら城へ行く羽目になるようだ。


城ってどんなトコだろ。西洋の立派な城みたいな感じだろうか?


所詮、夢なのだからどうなっても良いだろう。


「ついて来い」


ヴァイデリシュという女に腕を捕まれ引っ張られる。


あれ……?おかしい。俺の神経が乱暴に引っ張られたことを痛いと感じている。


まさか……だが、ここは夢の世界でも何でもないってことは無いよな?


リアルな夢だ。現実味の無い、妙にリアルなただそれだけの。


俺の脳がそれを認めなかったのだから仕方がない。



「乗れ」


少し開けた場所に馬車があった。


「乗れ」と言われたけれど、半ば強引に乗せられる。


豪華な造りで金の装飾が施されている。


流石は王室御用達といった所だろうか?


全員が乗り込んだ所でヴァイデリシュとやらが「出してくれ」と頼むと馬車が動きだした。


「姫様がお美しいからといって、変な気を起こしたりするなよ?男は野蛮であったと聞くからな」


俺が姫様の隣に座ったのが不服なのか?


この世界の人間は可笑しいのか?それともコイツらが可笑しいのか?


そりゃ姫様可愛いけどな………初対面の人にそんなことしねえよ。


「いざという時はヴァイデリシュ、貴女が守って下さるじゃあありませんか」


おいおい………。突っ込み所が満載だが、俺は芸人じゃない。


「俺は襲わないからな」


「……なら信じておきますね。えーっと………」

ああ。そうか、自己紹介がまだだったな。


「俺は篠本 カガミだ。あんたは?」


「あっ、はい。私はクラーリア王国の第三継承者、ネイス・ロア・クラーリアです。こっちは臣下のヴァイデリシュです。」


姫様がヴァイデリシュとやらに手を向けながら言う。


やっぱりガチな感じのお姫様らしい。


「第三継承者と言ってもそれは先日までの話しだ。後継ぎは彼女しかおられなくなってしまったからな」


それは一体、どういうことだろうか?


「つい最近までは生きてたってことか?」


姫様が表情を曇らせる。


「姉君方は、先日お亡くなりになられました」


暗い表情の姫様。


そりゃそうだ。身内が亡くなったのだから。


「昨夜、ここで戦があったのだ。目的は後継者の抹殺だったのだろうな」


「お二人共、立派な戦士でしたから、この国を守ると出ていったきり……」


「…………辛かったな」


俺から言えるのはこんなことくらいしか無かった。


「あの場所へは、王家の証である人魚の涙《マーメイドの涙》を取りに行ってたんです。姉が何時も首にかけておりましたから」


さっき光ってたのはそれか。


「第三師部隊が駆け付けた時にはもう………な、その時に埋葬はしたんだが、人魚の涙《マーメイドの涙》は見つから無かったのだ」


……色々事情があったようだ。


「それなら、どうして明るい内に探さなかったんだ?」


「ーーー夜でないと輝きを放たないから。ですよ」


俺の問いに答えてくれたのは姫様だった。


「昼間、明るい内ではただの石ころ同然だからな。探すのは不可能だ」


「成るほどなぁ……」


俺の凡人以下の脳ではあまり理解出来なかった。


「継承者をーーー師部隊長を二人も失ったのは我が国にとってかなりの痛手だ」


「私が………私が姉君方のように強ければ……」


「姫様が、姫様が悔やむことではありませんよ。…………着いたようだな」


ヴァイデリシュが着いたというので外を覗いてみると大変立派な城が建っていた。




「まずは、お前を王の間に通そう」


土の上に降り立つとヴァイデリシュに声をかけられる。


「ついて来て下さいね?」


はぁ〜い。と言いたくなるような可愛らしいボイスだった。


石造りの道を進むと木で出来た城の扉が見える。


「姫様、お帰りなさいませ」


「お帰りなさいませ、姫様」


扉の前に立っていた女騎士が姫に挨拶を交わし扉を開ける。


まばゆい光に目を眩ませつつ、中へ入ると城内は全体が白い造りで出来ていた。


そしてもう一つ、気づいたことがある。


城内には女しか居なかった。


というか、俺はこの世界に来てから男を見ていない。


もしかしたら、本当にアイツらの言っていたようにこの世界には男が居ないのだろうか?


ヴァイデリシュはそのままズカズカと武器の並ぶ部屋へ進んで行った。


「ヴァイデリシュ?どうしたのですか?」


確か、王の間に行くとか言ってなかったか?


「ちょっと確かめたいことがあるんです。構わず、来てもらえませんか?」


ーーそう言われたら行くしかない。


「ここは武器庫か?」


「いや、違う。訓練所みたいな所だ」


ヴァイデリシュがその手に長身の剣を持ちながら返答する。


「これを振ってみてくれないか?」


これ。は剣のことだろうか?


差し出された柄の部分を掴んだ。


…………軽いな。


「これは?」


「良いから振ってみてくれ」


へいへい、そうですか。


ビュッ……………


早速一振りしてみた。


「ふむ、成る程。じゃあこの石を持ってみてくれ」


お次は石ですかぁ。


「それは………?」


「魔力石ですよ。魔力を持たない者ならば何の反応もしないハズ………んっ?」


俺が石を握った瞬間、ヴァイデリシュは信じられない。という風な顔つきになった。


石は輝きを放っている。


「……あなたは一体?」


まじまじと姫様が言う。けど、そんなこと俺に聞かれたって分かるハズがない。


「急いで王の間へ向かうぞ。直ぐに報告したいことがある」


ヴァイデリシュがまたしてもズカズカと歩み出してしまったので、俺と姫様も歩き出す。


君主を置いていくなんて、どんな神経してんだよアイツ?


姫様は慣れっこだ。みたいな表情してるし


階段を昇るヴァイデリシュにスタスタとついて行くと飛び切り豪華そうな扉が見えた。


「あれが、王の間への扉ですよカガミさん」


ーーへぇ、道理で立派な訳だ。


コンコンと2回ドアをノックしたヴァイデリシュが「失礼します」と声をかけて入っていった。


姫様も中に進んだから俺もそれに続く。


「報告があります。我が王」


ひざまずいて下を俯いてるヴァイデリシュの横に姫様が居た。


足……速っ!結局、俺だけが取り残されたし。


「只今戻りました母君」


「ヴァイデリシュ、ネイス、ご苦労だったなーーーで、報告とは?」


王様、らしき人が王座に座ってた。


まるで姫様が年をとっただけみたいな感じだな。


似ている。というか、似過ぎていると思った。


「男です。この世界には存在しないハズの男が」


王様が思惑顔になる。


「男?そうか………なら、分かっているなヴァイデリシュ」


「………はい」


ヴァイデリシュが静かに頷くと俺の方へ向きなおった。


「お前には、この国の第一師部隊長になってもらう」


言いながらヴァイデリシュは何か石ころが乗った右手を前に突き出して、左手の指を擦り合わせパチンと鳴らす。


刹那、石ころは気体に変化し始め俺の全身を纏った。


「済まないな。この世界に男は居ないハズなんだ。お前の存在はイレギュラー、女になってもらうしかない」


ヴァイデリシュの声が何処か遠くから聞こえた。


体が物凄く熱い。内面がドロドロに溶けて、再構築してるみたいだ。

ハァ……ハァ……ハァ…………


やっと収まって来たようだ。


体がベタベタと汗ばんで気持ち悪い。


「何が……起こったんだ?」


「簡単に言えば、魔術を使ったんだ。話せば長くなる。ーーだが、君は女になった」


俺が……女に?


確かに、胸には膨らみが出来ていた。


声も幾分か高くなった気がする。


身長は変わってないみたいだが。


「改めて、我が王国へようこそ元少年。名は何と申す?」


「えと……篠本 カガミです。」


「カガミか。翌日、正式に着任式を行うとしよう。今日は皆、もう休むといい」


そう言われたので、俺達は王の間を出た。


俺はどうやら明日から師部隊長様らしい。


「ーーー済まないな。急にこんなことになって」


ヴァイレデリシュは面目なさげな顔つきをしている。


「そりゃ、いきなり性別変わってよそれに師部隊長とかよく分かんねーけど、俺は男に戻れんのか?」


「戻れるさ。時期にな。だからーーそれまでは力を貸して欲しい」


そうか。俺は今、コイツに求められてる。


そして、ここは異世界だ。間違いない。


ーーでなけりゃ、あんなに熱いと感じる訳が無い。


誰かに求められるのは、何時ぶりだろう?


あの世界の俺なんてちっぽけな存在でしかない。


「おうっ。任しとけよ」


飛び切りの笑顔で笑ってみた。


自分に嘘をついてるような感覚に陥る。


本当は不安で堪らない。


俺に師部隊長なんて務まるのかーーー。と


「宜しくお願いしますねカガミさん。」


姫様に軽く頭を下げられる。


「今日はもうゆっくり休んで下さい。」


「ーーだそうだ。詳しい事は明日話そう。君は休んでくれ」


「こっちだ」と言われ彼女についていく。


姫様の部屋とは反対方向に部屋があるらしく、彼女とは別れてしまった。


また明日になれば、あの可愛らしい姫様に会えるだろう。


「ここだ。私の隣の部屋で良いだろう。丁度空き部屋だしな」


王の間からあまり離れてない所に部屋はあった。


「私も寝るとするよ。また明日なカガミ君」


ガチャリとドアノブを廻し彼女は部屋へ入ってく。


ーーーとりあえず、寝よう。


俺はシャワーを浴びるのも忘れてそのままベッドへダイブした。


意識が朦朧としてくる。


はぁ………。駄目だ、相当疲れてるな。


部屋がぐるぐる回ってるような錯覚に陥り、俺の意識はプツリと途絶えた。



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