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五話

 ぼうぜんとしたまま抵抗すらしなかった私は、エルシルド様に与えられた王宮内にある部屋に連れて来られた。

 真っ暗な部屋のベッドの上に降ろされ、目の前にはエルシルド様が立っている。


 私ももう子供ではない。

 つがいのいる姉メイド達から色々な話を聞いている。


 春の来たオスがメスを部屋に連れ込む理由なんて1つしかない。

 ただ、その相手が自分だということが信じられないのだ。


 どんなに想っても、私はエルシルド様のつがいにはなれない。

 オスがつがいの相手に選ぶのはより良い子孫を残す本能からか、いい血統を選ぶ。

 下級血統の私では本能から外れるし、なによりエルシルド様の一族の誰も私を認めないだろう。

 そういった色々な理由から、私は選ばれることがないことを知っている。


 でも、たった一夜の情を交わすことは出来る。


 エルシルド様の性的欲求を満たすだけの存在。

 私にはまだ春が来てないので、子を宿す可能性は低い。

 後腐れない相手として、私は選ばれる理由は十分ある。


「エレーナ……すまない……」


 ずっと申し訳なさそうな表情だったエルシルド様。

 謝られて確信が持てた。

 他のオスと情を交わしたメスがつがいに選ばれることはほとんどない。

 私がエルシルド様と一夜を過ごせば、もうつがいの相手を探すのは諦めるしかないだろう。


 欲情を抑えられない苦しみはオスにしかわからないと言う。

 苦しんでいるなら受け入れたいと思う気持ちと、それだけは出来ないという気持ちが複雑に絡み合う。


 私だってメスに生まれたからには子を産みたい。

 一族もそれを望んでいる。

 でもエルシルド様と交われば、もう子は望めないだろうし、期待して王宮に送り出してくれた一族を裏切る行為でもある。

 伸ばされた手を振り払うことはしなかったが、謝るエルシルド様に何も言うことが出来なかった。


 初めてのキスはすごく激しく情熱的だった。

 激しく求められていることが伝わるような熱いキス。


 相手がエルシルド様だということがすごく幸せで、苦しい。


 体をまさぐる手はとても急速なのに、気遣ってくれているのかひどく優しい。

 春がまだ来ない私の体はまだ成熟しておらず、凹凸に乏しく色気もない。

 それでもエルシルド様は興奮しているようだった。

 

 あっちこっち触れられ、舌で味あわれた後、まだ誰も侵入を許したことのない場所に硬い物があてがわれ、私は覚悟を決めた。

 子を授からなくても、つがいを求めず、一生エルシルド様だけを想い続けよう。

 

「エレー……ナ……」


 迷っているのか、あてがったまま進入してこようとはしないエルシルド様の声に目を開ければ、窓から差し込む月明かりで、苦しそうなエルシルド様の表情を見ることが出来た。

 自分の欲望に負け、一人の一生をつぶすかもしれない行為に罪悪感を感じてるらしいエルシルド様がいとおしい。


 私はエルシルド様の首に手を回し、ゆっくりと唇を重ねた。


 私はもう一生貴方のもの。

 他の誰のものにはならない。

 貴方が誰の物になっても、私は貴方のものだ。


 そんな思いを込めて自分からしたキスをエルシルド様がどう受け止めたのかはわからない。

 けれど、次の瞬間、下半身に激痛が走り、私はエルシルド様のものとなったのだ……。

 

 

 

 

 朝、目が覚めると、時間はまだ早いようで、夜が明けたくらいの時間だった。

 隣には覚悟していた通り、誰もいない。


 そっとシーツに手を伸ばすと、少しだけぬくもりが残っていた。

 引き裂かれるような胸の痛みに自然と涙がこぼれる。


 私はきしむ体を奮い立たせ、ベッドの横の椅子の背に掛けられていた自分の服に着替えると、エルシルド様の部屋から出た。

 情事の相手がいつまでも部屋にいたらエルシルド様は部屋に戻りずらいだろう。


 エルシルド様は一生を捧げるにふさわしい方だった。

 2度目の情事は労りと優しさで満たされていた。

 私が泣いて止めるまで喜ばせてくれたし、交わる快楽を覚えるまで体を重ねた。

 おかげであっちこっち痛むけれど、それもいずれはいい思い出になるだろう。


 寮に戻ると、ガーディアンが心配したような表情で近づいてきた。


「エレーナ、もしや?」

「いいえ、違います。マリアさん、心配させてごめんなさい」


 私の浮かべた笑顔に少しだけ安心したようだが、服の隙間から見える情事の跡に気づいて表情を険しくした。


「貴女にはまだ春がきてなかったはず」

「ええ、でも相手には春がきていたんです」

「つがいとなったのですか?」


 一番聞かれたくなかった質問に、涙がこぼれた。


「私が望んだことなんです。……あの方がつがいを選ぶ前に……一度だけでも……」

「……そうですか」


 私のようなメスは何人かいたという話は私も聞いている。

 彼女はガーディアンなのだ、私よりも色んな話を聞いているのだろう。


 彼女はいたわるように私の背中をさすってくれた後、私を気遣って部屋まで送ってくれた。

 




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