表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

エルシド視点・6話

 予想通り、何度も繰り返される会話。

 騒ぎを聞きつけたのか、何人ものメイド達が窓からこちらを覗いている。

 これだけ野次馬が増えているのに、肝心のエレーナは何故出てこないのだろうか。

 さっきの言葉が脳裏に浮かぶ。


『それは拒絶されたのではないか?』


 そんなはずはない!

 彼女は情を交わす時、優しく受け入れてくれた。

 一夜の情事ができるような女性でもない。


「なぜ、エルシルド様は血統も身分も低いエレーナを妻と主張するのですか?」

「彼女を昨夜、妻にしたからだ」


 何度も繰り返されてきた言葉に、少しだけ疲れを感じた。


 しかし、ある意味、もうどうでもいいかもしれない。

 これほどの騒ぎになったのだ。

 明日には王宮中知れ渡っていることだろう。

 面倒な説明もいらなくなるはずだ。


「では、なぜエレーナは証明書に署名する前にこの寮に戻ってきたのです。しかも、たった1人で!」

「彼女が深く眠っていると思って証明書をもらいに行っている間、彼女は私がいなかったので誤解してこっちに戻ってきてしまっただけだ。彼女に会わせてくれればその誤解も解ける!」


 同じことを説明してるとなんとなく情けなくなってくる。

 これではマヌケな男と自分で公言しているようなものだ。


 なんとなく上の方でメイド達が煩くなったので、そちらを見れば、エレーナがこちらを見下ろしていた。


 やっと姿を見せてくれたのだ。

 エレーナを見ただけで、愛しさが溢れ出してくる。


「エレーナ!」


 彼女を呼ぶと、悲しげに笑って少しだけ身を乗り出してきた。


 なぜあんな悲しそうに笑うのだ。

 愛されなくても彼女にはいつも笑顔でいて欲しいのに……。


 公衆の面前であろうとも、この想いは誰に恥じることはない。

 オレは一呼吸して口を開いた。


「私の妻になってくれ!」


 はっきりとした求愛に、エレーナの両目が大きく見開かれる。

 確かに血統や身分を考えれば妻に求める相手ではない。

 しかし、オレは彼女だけを愛しているのだ。


 落ちてきたあの瞬間から!


「色々な障害があるのはわかっている。しかし、君を初めて見た時から君しか愛せなくなっているんだ! 悲しませたり苦しめたりするかもしれない。だが、一生君に尽くし君しか愛さないと誓う! だからどうか私の胸に飛び込んで来てくれ! 君と初めて会った時のように!」


 自分の気持ちを正直に向けると、エレーナは泣きそうな顔をしてしまった。

 苦労させることはわかりきっている。

 それでもオレは他に選べないのだ。


 エレーナは横にた友人に何か話しかけられ、何かを言っていた。

 周りにいた人間もいっせいに何か言っているようだ。


 オレの応援をしてくれての言葉ならいいのだが……。

 彼女だけは傷つけたくはない。


 エレーナは友人の言葉に頷くといきなり窓に足をかけた。

 もしかして、そこから飛び降りる気では?


 怪我でもさせては大変だと、慌ててしまう。


 少しの衝撃があり、オレは飛び降りてきたエレーナをしっかりと抱きとめていた。


 最初に出会ったのは、自分の腕の中に落ちてきたエレーナ。

 彼女は落ちてくる運命なのかもしれない。


「気持ちは決まったのですね」


 同じように受け止めようと待機していたガーディアンがエレーナに話しかけてきた。


「はい!」


 ガーディアンに振り向き、返事をするエレーナの表情はあいにく見ることが出来なかったが、返事をする声は明るく迷いのないものだった。

 そんなエレーナにガーディアンが初めて笑う。


 もしかして2人は親しい仲なのかもしれない。

 2人の間に気安い雰囲気が流れている。


「貴女の幸せをみんなで祈ってますよ」

「マリアさん、ありがとう……」


 彼女がお礼を言ってからオレはそこから彼女を連れ去った。

 正真正銘の妻とする為に…………。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ