エルシド視点・5話
寮には彼女達を守るガーディアンが警備を担当していた。
いくら男子立ち入り禁止にしても、忍び込もうとする輩はいる。
そういった者からガーディアンは彼女達を守っているのだ。
警備しているガーディアンの1人を捕まえてエレーナを呼び出すように頼むと、そのとたんガーディアンの表情が硬くなった。
「お受けできません」
「受けられない? それは何故だ?」
「戻ってきた彼女は泣いていました。私の職務は彼女達を守る事、彼女達に害なす者はすべて排除します」
彼女の言うとおり、ガーディアンと言う職業は女性を守る為にある職業だ。
どんな相手であれ、職務上であれば権利は重視される。
昔、オスは発情期になると、つがいにする相手でなくても目の前にいるメスを無理に襲いまくっていたせいで、片親の子が生まれ、人口が急激に膨れ上がった。
無理に襲われるメス達の声もあり、ガーディアンという職業が生まれたのだ。
彼女達はメスをオスから守る事。
つまりガーディアンはオレが彼女を傷つけたと言っているのだ。
それは事実ではあるが、真実ではない。
オレは彼女をつがいの相手と決めている。
子を成せば、当然自分の子としてお披露目をするつもりだ。
「ほんの少しの誤解が生じただけだ。それは私のミスのせいではあるがその誤解を解きに来た。エレーナに会わせてくれ」
「誤解? 蒼の騎士団副団長の貴方とエレーナとでは身分も血統も違う。その貴方を相手にエレーナが傷つかないとは思えません」
「エレーナを妻とするのに血統や身分は必要ない」
オレの言葉に初めてガーディアンの表情が崩れる。
それだけ驚くことを言ったのだ。
普通、オレの身分ならエレーナは遊び相手だろう。
妻にするなど、まずありえないことなのだ。
ガーディアンが驚くのは当然の反応だった。
しかし、ガーディアンはすぐに冷静を取り戻す。
難関と言われるガーディアンになれただけはある。
ガーディアンは一呼吸置いて口を開いた。
「エレーナを妻にと言うならば、証明書を見せて頂きたい」
証明書。
それこそが一番大事なところなのだ。
オスは発情期に入ると自分の欲求を満たすことを本能が求める。
つがいの相手はたった1人だが、それ以外のメスと情を交わすことが普通だ。
しかし、自分の子であろうと、つがい相手が生んだ子しか世話はしない。
つがいとの子以外には冷たいものなのだ。
子は自分のすべてを引き継ぐ。
地位や財産などを含めて。
それゆえに証明書が必要となる。
証明書に記載されし者こそが自分の妻であり、その者の生んだ子は自分のすべてを継ぐ子供だという証明だ。
子は両方の容姿を引き継いで生まれる。
容姿を見れば誰との子か一目瞭然。
血の交わりはそれほど如実に真実を暴くものなのだ。
しかし、証明書はない。
用紙を取りに行っている間にエレーナは部屋を出て行ってしまった。
一方的に記載したとしても、提出には両名がそろって教会に出向かなければならない。
記入しただけの証明書など、何の意味もなさないのだ。
「証明書はこれから書くはずだった」
「はず? ……ですか?」
「用紙を用意してなかったので、受け取りに行く間にエレーナがこっちへ戻ってしまったのだ」
オレの言葉にガーディアンは少しだけ気の毒そうな表情を浮べる。
声にならないガーディアンの声がオレには聞こえた。
『それは拒絶されたのではないか?』……と。
「きちんと話をしてなかったかったせいで、誤解されただけだ」
「…………」
何故、メイド寮の前でいつまでもガーディアンにこんなことを説明しなければならないのだ。
そんなことより、早くエレーナを呼び出してくれればいいものを!
「とにかく、早くエレーナを呼んでくれ」
「……エルシルド様の一方的な言い分だけでは呼び出せません」
同じ会話を繰り返しそうな言葉に、少し頭が痛む。




