エルシド視点・4話
急いで来たのか、少しだけ呼吸を弾ませたエレーナがこちらへ向かってくる。
「お待たせしました!」
「わざわざすまない……」
出てきたエレーナは見慣れた地味なメイド姿ではなく、ごく普通のワンピース姿だった。
かわいらしい花柄はエレーナによく似合っている。
その右手には何か箱らしいものを持っていた。
「……エレーナ、それは?」
「え?」
持っているものを指摘すれば、彼女はオレに向かってその箱を持ち上げる。
「ああ、お怪我をされているようでしたので、応急手当てさせていただこうと思って持ってきました」
「…そうか」
傷口を洗っていたところを見られていたのだろう。
手当てしようと救急箱を持ってきてくれたのだ。
これから酷いことをしようとしている自分には彼女のそういった心使いが心にしみた。
エレーナが手馴れた様子で手当てをしているところをゆっくりと観察する。
小さな手がオレに触れる。
彼女とたった2人だけの時間。
こんなふうに会話すらしたことはない。
立場上、気軽に話しかけられることも出来ず、ただ一方的に見つめるだけの関係。
もっと違う立場だったら、こんなふうに会話も出来ただろうか?
人間はないものねだりすると言うが、それはオレにも言えるようだ。
もっと身分が近ければ、彼女に好かれることが出来たかもしれない。
そう思わずにはいられなかった。
「あの……忘れ物受け取ってもいいですか?」
手当てが終わった彼女は少しだけ言いずらそうに手を出しだしてくる。
手に持っていたハンカチを受け取りたいのだろう。
しかし、このハンカチは自分のものだ。
彼女を誘い出す為の罠。
それでもオレは彼女にしわくちゃになってしまったハンカチを差し出した。
エレーナは渡されたハンカチを受け取り、そっとそれを広げる。
「あれ?」
ハンカチに刺繍されている紋章を見て手を止める。
この紋章はエレーナでも知っているはずだ。
オレは彼女の両脇に手を差し入れ持ち上げると、そのまま肩に乗せて担ぎ自分の部屋へ走り出した。
突然のことに驚いているのか彼女は暴れない。
王宮内にある自分の部屋へ彼女を連れ込み、ベッドの上に降ろす。
彼女は少し口をあけて驚いた表情のまま固まっていた。
「エレーナ……すまない……」
柔らかな唇に自分の唇を合わせ、後は感情のままむさぼるように彼女と体を重ねる。
今まで我慢していた分、彼女の柔らかい体に触れ、理性はすぐにとんでいった。
初めてのエレーナの体には負担になるとわかっていても、何度も体を重ねた。
そして、やっと満足出来た時には、エレーナは意識を失っていた。
外はもう夜が明けるのか、少しだけ空が明るい。
彼女は体を重ねても抵抗しなかった。
それどころか愛してもいない男を受け入れてくれたのだ。
情熱をぶつけ満足した体をベッドから起こし、寒くないように上掛けをエレーナに掛ける。
熟睡しきっている表情は優しく、愛おしい。
服に袖を通す。
夜が明ければ教会で婚姻証明書を発行してくれる。
後は彼女を説得してそれにサインしてもらうだけだ。
そうすれば彼女はオレの正式な妻となる。
オレは部屋に彼女を残し、教会へと向かった。
証明書をもらって急いで部屋に戻ると、ベッドの上に彼女はいなかった。
寮へと戻ってしまったのだ。
証明書にサインしてもらわなければ、彼女を妻に出来ない。
身を翻すように彼女の寮へ向かう。