第一章1-1 急げユリアーナ!! ◇
――――ユリアーナ――――
急がないとっ!
死の谷エドランタの一本道を魔法で身体強化しながら走り抜ける。
私は、急がないといけませんっ!
背中に背負った黒竜が起きないうちに何とかして死の谷から離れないといけない。
谷の一本道を全力で走り抜ける。
黒竜のおかげで猛毒は、ほんとに効かなくなっていた。
全身を覆っていないのに・・・素肌をが出ているのに、毒を肺に入れているのに、苦しくない。痛くない。
それに、国宝級の魔法のローブが、白から黒へ侵食されて朽ち果てていたというのに、黒竜から貰った赤い服は、毒のガスに浸かってなお変化が無い。
黒竜から貰った服は、上が赤い軍服、下は白い女物のズボンだった。
魔法がかけられているようで、サイズは自分に合わせたようにピッタリだ。
さすがは、黒竜が持っていた服だ。
国宝級のローブを軽く超える魔法が服にはかけられていた。
黒竜は人間の姿に変わっているので、運ぶこと自体にはなんの障害もなかった。
体重は軽いし、身長は170cmと自分と同じぐらい、目つきのせいで大人っぽく見えていたのだろう。
見た目は14、15歳の少年と青年とのちょうど間のような男の子だった。
私に服を渡してきた時にきちんと服を着てきてくれてよかった。
上下黒の高そうな紳士服だった。なかなか、似合っている。
さすがに裸の男を背負って村に戻ったら不味かっただろう。
今は、背中で寝ている。というか私が気絶させた。
黒竜に倒された後、治療を受けている間、寝ていたので今が何日かは、わからない。
帰る気を起こさせないために、急いで、死の谷から引き離さなければいけない。
この黒竜は世間知らずで、しかも、力の大半を失って弱くなっている。
うまいこと騙せるかもしれない。
そのためには、まず黒竜が目覚める前に村に向わないと・・・。
なんだか、自分はどんどん堕ちていくようだ。
一昔前までは、騙される側だったというのに・・・。
今は、命の恩人が力を失っていることをいいことに気絶させ昏睡させてから、王都に帰るために、人間の姿をした黒竜を背負いながら爆走している。
私は、山賊や他の賊と変わりなかった。
しかも、ものすごく卑怯なタイプの人間だ。
私は、黒竜の住処に侵入し、戦いを挑み、負けた。
全身を焼かれ消し炭になって死に掛けになっていた私。
自業自得で無謀な私を黒竜は自分の力の大半を失ってまで助けてくれた恩人。
無事に帰れるように毒の効かない体にしてくれた恩人。
私は、そんな恩人を殺そうと平気で考え、思考し、黒竜を殺さずに持ち帰ることに決めた。
私は、黒竜が油断し、後ろを向いた瞬間。無詠唱系の振動波を生みだす魔法を発動させ、自由を奪った後。つかさず意識を刈り取るために全力で手刀と後頭部に打ち込み昏倒させた後、すぐに背中に黒竜を背負い、死の谷の大洞窟から脱出したのだ。
まるで人攫い・・・いや人攫いそのものだ。
洞窟を出るとき。ちょうど朝日が昇って来た。まるで私を戒めているように感じた・・・。
どうやら、最初の関門は突破したようだ。
村が見えてきた。
昼前には村に着く。
もうすぐ、黒竜が目を覚ますだろう。
大洞窟の中で育った彼は、世界をほとんど知らない。
うまく騙して王都に連れて行かないと・・・。