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プロローグ1-8 勘違いと恩と仇と ◇ ◆ ◇

――――ユリアーナ――――



私の悲鳴に飛び上がった青年は、立ち上がり周りを見ています。


青年は全裸で、立ち上がったことにより、青年の股間が目の前にきました。


い、いやっ!!


青年はしゃがんで顔を近づけてきました! 




ブツンッ、何かが頭の中で切れた。




私は気づいたら全力の魔力を注ぎ込んだ張り手を打ち込んでしまいました・・・。


青年は、私の張り手をモロに受けて2、3m吹き飛びました。


しかし、私の全力の張り手を受けたというのに、青年はあまりダメージを負っていないようです。


普通の人間だったら首がねじ切れてもおかしくないのに・・・。この青年は只者ではありません。



私は勇気を出して青年に駆け寄り青年に声をかけました。


私は、とりあえず青年が何者なのか? そしてここはどこなのか? とっ言うのを聞きました。


青年は私の質問の、「ここはどこなのか?」という質問から答えてくれました。




青年の口から教えられた場所は、死の谷の大洞窟、黒竜の住みかだったのです。


いりくんだ造りだった大洞窟は今は吹き抜け状態だった。


今は、出口まで大きな一本道が作られていた。


たぶん、黒竜のブレスのせいだろう。よく生き残ったものね・・・。


鉱石で出来ている洞窟が完全に消滅していた。ものすごい威力だったのだろう・・・。


そういえば、黒竜がいない・・・?


黒竜はどこに行ったのだろう?


青年に慌てて尋ねた。何者なのかは後回しだ! 黒竜を倒せないなら生き残った意味が無い・・・。




驚いた・・・。驚きました・・・。


てっきり死んで来世で生まれ変わったものだと思っていたのは、とんだ勘違いだったのです。


まさかこの全裸の青年が黒竜だとは思いませんでした。てっきり、山賊か鬼畜男かと思ってました。一応、心の中で謝ります。


偉くそうで、爺くさくい口調はおかしいとは思っていましたし、何故ここに青年がいるのかも、気にはなっていました。


まさか、こんな姿が・・・人間の青年の姿が黒竜の正体だとは思っていませんでした。


確かに、この黒髪は漆黒の鱗のような色ですし、瞳は黄金に輝いています・・・。




しかも、黒竜の話を聞いているうちに、その姿の原因が自分の命を助けるために使った秘術のせいだとわかりました。


私は、黒竜を倒そうと全力で戦いました。全力で殺すために戦いました・・・。


人間の私に本気で手を抜かずに戦った黒竜は確かに私を死の一歩手前まで追いやりました・・・。


どんな、魔術師でも巫女でも、私を治すことは出来ない状態だった私の身体を、嫌いな人間の姿になるという屈辱を最強だった力を封じて、私を救ってくれました。


黒竜は自分の力を失ってまで私を助けてくださいました・・・。


しかも、私から代価を取らないと無償の慈悲を与えてくださいました。


青年に「お前に死んで欲しくなかった」と言われたとき、今までに無い感情が生れました・・・。


青年と見つめると鼓動が早くなり、心が騒ぎます。私はどうしたんでしょう・・・??。


とりあえず!


神様! 私にチャンスを下さったことに感謝します!!






――――キルア――――



なぜか見つめていたら胸の前に手を組みお祈りを始めた・・・。なんだこいつ・・・やっぱり変だな。



「おい、娘よ」


「はっ、はい。なんでしょうか?」


「そろそろ帰れ」


「えっ?」



そろそろ寝たいし、自分を殺せる可能性を持った人間を近くに置いておくほど酔狂ではない。


力の大半を失った今ではなおさらだ。


というか「えっ?」てなんだ「えっ?」てっ!!


ここは俺の寝床だぞ! 



「どうした用は済んだのだろう?」


「ですが・・・ローブを失ってしまったので毒で死んでしまいます・・・」


「なんだ、そんなことか。安心しろ、体を治したときに毒は効かないように作り変えた」


「えっ? そうなのですか?」


「せっかく大きな対価を払ったのに谷の空気で死なれては意味がないではないか」



娘は安心したようだ。まあ感謝するのだな・・・他の竜ではなく我に挑んだことを。


娘は何かを考えているようだった。どうしたのだろう? 


山の空気の問題は解決してやった。後は来た道を帰るだけであろう?


体は完全に治療は済んでいる。もう神経も魔法神経も馴染んで、怪我をする前と同じように使えるはずだ。


・・・。なんだか嫌な予感がする。



「私と一緒に王都に来てくださいませんか?」



やっぱりきた。



「嫌じゃ」



間髪いれずに拒否する。娘は押し黙ってしまった。



「我は力の大半を失っておるし、生れてこのかた大洞窟から出たことが無い。こんな状態で出てしまえば死んでしまうかも知れんから嫌じゃ」



ちゃんと理由も話す。これで諦めるじゃろう。



「あ、あの、力はどれぐらい失ってしまったのですか? 黒竜の体液には万能の治療と言われていますがその能力も無くなってしまわれたのですか・・・?」


「よく知っておるな。確かに我が血肉や体液は万能の治療薬となると父上から教えられた。今の我でもその能力は失われておらん。しかし、すぐに使用しないと効果がでない。全快の我ならば数百年と体液は万能薬の効果を発揮していただろうがな・・・まあ、仕方が無いさ」


「そう、ですか・・・」


「そう言えば、黒竜様のご両親は?」



答える義理は無かったが答えてやった。



「数三百年前に出て行ったよ。たぶん死んだのだろうな」


「そう、ですか・・・」



娘はまた考え込んだ。まったく何を考えているのやら・・・。



「我は寝る。お主の治療で疲れたからのだから出て行け。体は完全に治っているのだから大丈夫だろう」


「・・・黒竜様」


「何じゃ?」


「ごめんなさいっ・・・」



突然脳を揺さぶられた。立とうとするがものすごい力で頭の後ろ辺りに痛みを感じた。



「ぐ、ぐはっ・・・・」



最後に見たのは美しいと思っていた娘の顔が悲しみで曇った顔と泣き顔を見ながら意識を失った。





――――ユリアーナ――――



私は帰れと黒竜から言われて、初めて自分がここへ来た理由を思い出した。さっきまでの胸の鼓動も心のざわめきも急速に冷めてゆく。


そうだ・・・そうだった・・・。


私は、万能薬を王族たちを救うための万能薬の黒竜を倒しに・・・狩りに来たんだった・・・。




だけど、ここにいる黒竜は私を救ってくれた・・・。


しかも、帰れるように谷の毒で死なない体に変えてくれた。



もしかしたら頼んだら来てくれるのではないか?


頼んでみたが、やっぱりダメだった。


それはそうだ。力の大半を失った状態で外敵のいる世界に出ようとは思わないだろう・・・。




躊躇ためらったが、王族の命には代えられない。ここは、非常になるべきだ。




冷静に現状を分析して最良の手を考える。




やっぱり、倒すしかないのか? 殺さなければいけないのか? それとも無理やり連れ去るか?


しかし、全てに問題がある・・・。


まずは、いろいろ聞き出さないと・・・。




まずは万能薬の能力の有無と消費期限を尋ねてみた。


万能薬というのは本当だったようだ。万能薬の能力は失ってはいない。しかし、消費期間が短くなってしまったようだ。


殺して奪うことは出来ないようだ・・・消費期間を過ぎてしまえば意味が無いし確実ではない。


生きたまま、王都に連れて行くしかない。




しかし、この黒竜の親が帰ってきた際に、どんな災厄をもたらすか、子供を奪われ、怒りで我を失った竜がどんな行動に出るか解らないのだ。慎重に情報を聞き出す。




どうやら、親竜は死んだようだ。不謹慎だが喜んでしまった。連れ去ったとしても気づかれない。


本当は・・・本当は嫌だった。嫌だった。


命の恩人に、恩を仇で返すマネはしたくなかった。


涙が溢れそうになる。顔が悲しみで歪んでいく・・・。


黒竜が後ろを向いた! 顔を見られないうちに、振動を起こす魔法を放つ。


この魔法も・・・この体も・・・こうして動けるのは黒竜のおかげだというのに・・・私は・・・。




意識を完全に刈り取るために手刀を放った。




腕に青年を殴った時に生れた痛みが、自分の行った罪を心に刻まれる。




涙が抑えられない・・・。


ごめんなさいっ・・・ごめんなさいっ・・・黒竜様っ・・・! 恩を仇で返した報いは必ず償います。


ですから王都までっ、王族の病を治すためについて来て下さいっ・・・!


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