表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/62

第二章1-9 休む場所を探しに ◆

――――キルア――――



「なあ、ナターシャどこか休める場所はないか?」


「とりあえず、この場所から離れましょうか」


「ああ、それもそうだな」



とりあえず、この場所では休めない。


周りは、ナターシャが魔法で凍らせた騎士達だらけで、寒いしベッドも無いからな。



「そういえば、この人間達は死んだのか?」


「いいえ。一応生きていますよ」


「そうか・・・」


「殺しますか?」


「殺すな。人間たちの中にユリアの仲間がいるかも知れんからな」


「・・・はい。分かりました」


「とりあえず、魔法を解け」


「いいんですか? また襲われるかもしれませんよ?」


「う~ん・・・。だが、今のままでは身動きも取れないぞ?」



周りを完全に囲まれたから、このままでは動けない。



「それもそうですね。分かりました。魔法を解きます」



ナターシャは、解除の詠唱を始め、再び謁見の間を魔力で覆う。


すると、謁見の間を埋め尽くしていた氷の彫像が解けた。


魔法が解かれ氷の中から開放された騎士達は、全員がその場に崩れ落ち床に伏せた。



「終わりましたよ。今は気絶してますが、あと2,3時間で起きるでしょうね」


「じゃあ、今のうちにどこかで休むか・・・」


「城から・・・国から出ることはしないんですか?」



正面に立ったナターシャが両肩に手をおき、少し屈んで目線を合わせ、真剣な表情で聞いてきたが、その答えは初めから決まっている。



「まだ、ユリアとの契約が終わっていないからそれは出来ない」


「でもっ! 呼び出しておいてこの仕打ちは無いでしょう! 本当にユリアは王族の治療が目的なんですか!? 契約は建前であなたを殺そうとしたんじゃないんですか!? 私はそうとしか思えませんっ!」



ナターシャが大声で詰め寄ってきた・・・ここまで、感情を荒げたナターシャを見るのは初めてだ・・・。



「現にユリアは私たちを見捨てて逃げたんですよ! キルア様が騎士達に武器を向けられたというのに・・・キルア様の僕だと言うのに・・・」


「ナターシャ・・・」


「なんでなんですか!? なんでそこまでユリアを信用出来るんですか!?」


「だが、ナターシャ。ユリアと我は契約を交わしているんだぞ?」


「ですがっ! 契約と言っても口約束なんですよ! 裏切られるとは思わないんですか!?」


「裏切り・・・か。正直言うとそれは考えていなかったな・・・」


「人間が約束を守ることはあまり無いんですよ・・・人間は平気で約束を破るんですよ?」



ナターシャの声音が嗚咽を含んだモノになってきた。


ナターシャの頭に手を伸ばし慰めるように優しく撫ぜる。



「ユリアは我が生まれて初めて認めた人間だ。それに、契約をしたときのユリアの目は本気のように思えた。我はそれを信じて見る事にした」


「でも、ユリアはあなたの僕なのに僕らしくありません」


「そりゃあ、まだ契約を完遂していないし仕方が無いんじゃないか?」


「・・・契約を完遂すれば、ユリアが完全な僕になると信じているんですか?」


「ああ。そういう契約だしな」


「・・・わかりました。今は納得しておきます」



ナターシャが肩から手を下ろし姿勢を正した。


ナターシャの目には涙が溜まり、落ちそうになっていたので、手を伸ばし指先で優しく涙をとる。



「心配してくれてありがとう」



自然と口が言葉を紡いだ。


今までの生で親以外にここまで心配してくれたのはナターシャが初めてだった。


我を心配し、涙を流してくれるナターシャが愛おしい。


少しでも今の我の気持が伝わるように、ナターシャを抱きしめる。



「キっキルア様!?」


「ありがとう」


「キルア様・・・」



気持が伝わるように長いこと抱きしめていたが、そろそろ限界だ・・・。


そう言えば、どこかで休むために、魔法を解除してもらったのに、話がだいぶ反れてしまった。


腕から力を抜き、抱擁ほうようを解く。



「ナターシャ・・・休みたい・・・早くどこかで休もう」


「・・・あっ! はっ、はい!」



ナターシャは、たった今、気がついたようにビクッと体をはねらせて返事をした。



「どこで休むか・・・」


「はい。そうですね・・・とりあえずユリアが出て行った王座の後ろの通路から出ましょう。ユリアに逢えるかも知れませんし、入り口から出ると騎士にまた襲われる可能性がありますから」


「それは、どちらも同じではないのか?」


「いえ。この謁見の間に入ってきた騎士達は全員が私たちが来た通路を使っていますがユリア達が出て行った通路からは誰も入ってきていませんから大丈夫でしょう」


「そうか・・・なら、行くとするか」


「はい。キルア様」



床に倒れている騎士達を起こさないように間を縫うように通路に向う。


通路は入ってすぐに左右に分かれていた。



「キルア様。どちらに向われますか?」


「まかせる・・・」


「では・・・右に行きましょうか」


「わかった。右だな」


「はい。あまり人の気配がしないところが右なので」



気配が読めるのか・・・少し驚いたが、今はいいか。


黙って右の通路を進み、ベッドのある部屋を探す・・・というか、部屋を探す。


この通路には部屋があまり無いようだ。暫く進んでいるが部屋の扉が無い。


ああ・・・早く休みたい・・・。


おっ、通路の先に部屋の扉を見つけた。



「ナターシャ。部屋があるぞ」


「はい。そのようですね」



早足で進み部屋の扉の前まで行きドアノブを回そうと手をかけようとしたらナターシャに止められた。



「キルア様。危険かも知れないので私が開けます。キルア様は扉から少し離れていてください」


「わかった・・・」



ここで、従わないのも面倒なので素直に従い扉から離れる。


ナターシャは、音を立てないように静かに扉を開け、部屋の中を観察する。



「どうやら、部屋の人間は留守のようです。それと、ベッドがありました」


「おお、そうかなら使わせてもらおう」


「わかりました」



ナターシャが警戒をしながら、部屋の中に入り、我も続いて部屋の中に入る。


部屋の中は、とても広くて、大きなベッドがあった。しかも、部屋の中に扉があった。



「大きな部屋だな・・・」


「はい・・・この部屋の他にまだ部屋がありますね・・・」



それに、部屋の中はぬいぐるみという動物などを模した飾りが所々、飾ってあり、部屋も全体的に明るい色合いで、そう・・・まるで子供の部屋だった。



「子供の部屋だな・・・」


「はい。子供の部屋ですね」


「まあ、いいか・・・部屋の持ち主には悪いがベッドを使わせてもらおう」


「はい。そうですね」



ベッドに近づき服を脱ごうと手をかけようとら、ナターシャにまた止められた。



「キルア様。今は服を着て休んでください」


「服を着たまま寝るのはあまり好きではないんだが」


「ですが、まだ完全に安全が保障されていませんので服を脱いで休むと、いざという時に対応出来ませんから」


「わかった。服は着て休む・・・」



これも、心配してくれて言ってくれるんだから素直に従おう。


靴だけを脱いで、ベッドに寝転がる。



「おお・・・」



思わず声が出てしまうほど寝心地がよかった。


清潔で柔らかいシーツとベッド、花の香りがかすかに香り眠りを誘う。



「最高だ・・・」


「ゆっくりお休みくださいキルア様」



ナターシャがベットのそばに立ち、ベッドの上の我に手を伸ばし、優しく頭を撫ぜてくれる・・・。



「ナターシャ、お前は休まないのか?」


「私は見張りをしますからキルア様はゆっくりお休みください」


「・・・ダメだ。お前もベッドで休め」


「ですが・・・」


「お前も一緒に休まないと我も休めない。だからお前も休んでくれ」


「・・・はい。では一緒に休みますか」


「ああ」



ナターシャも靴を脱いでベッドに登った。



「服は脱がないのか?」


「はい。いざと言うときに対応できませんから」



少し残念だが、まあ、今は服の上からでも言いか。


ナターシャを引き寄せ胸に顔を埋める。


服からはナターシャのいい匂いがして心が落ち着き睡魔を呼び寄せる。



「まったく、キルア様は甘えん坊ですね・・・」



ナターシャが背中を撫ぜてくれる・・・どんどん意識が遠のき夢の世界へと向う・・・。



「そう言えば、マントを置いてきてしまいましたね・・・」


「そう・・・だな・・・」







評価や感想をもらえると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ