第二章1-6 報告しましたが ◇
――――ユリアーナ――――
荷馬車をそこらにいた兵士に預け、城内に入る。
キルア様達には後に付き添ってもらって客間を目指す。
なんとかここまでは、順調に行きました。
あの門番の兵士には悪いことをしましたが、他の貴族連中に見つかる前に素早く済ませないといけまさんからね。
野心を持った貴族に邪魔される前に、王族の方々の治療を終わらせないと、いけませんから急がないと。
迷路のように造られた城内を進み、客間へ向う。
すれ違ったメイドに客間に2人分のお茶の用意をするように頼む。
うん。ここまでは順調・・・。
貴族などとすれ違ってないです。
もし見つかれば、絶対に後の2人について尋問を受けますからね。
それだけ怪しい格好ですし、マントを脱いだらナターシャの肌の色と耳の長さから、ダークエルフとバレて騒ぎになります。
ここでバレるのはマズイ、バラすなら謁見で堂々とバラさないと・・・。
ううー・・・後の二人・・・城内に興味があるのは当然でしょうが、そんなにキョロキョロしないでください・・・すごく怪しいです!
早く、客間に閉じ込めないとっ。
「キルア様、ナターシャこの部屋でしばらく待っていてください。私は国王に話を通してきますので」
「ん? そうかなら待つ間にその辺を見て回ってもいいか?」
「キルア様。それはダメです。この部屋からは出ないようにしてください」
「でも、退屈なのだが・・・?」
「大丈夫ですよ。さっき、お菓子を用意するようにメイドに頼みましたのでお菓子でも食べていてください」
「お菓子か・・・うーん・・・わかった。城内の案内は後で必ずしてくれよ?」
「はい。わかりました。ナターシャもこの部屋から出ないでくださいね。あとマントもまだとらないでくださいね」
ナターシャは、返事を返してくれませんでしたが頷いて了解をしてくれました。
さて、急いで国王のところへ向かいますか。
王族の住む王宮に向かい国王の部屋の扉をノックする。
ここまで、王宮の警備をしていた騎士達に戻ってきたのかと驚かれた。
騎士達の中には驚いたものが多数だったが、中には数名、憎らしそうな焦るような表情した騎士達が走り去る者がいた。
急がないと・・・。
たぶん、走り去った中の数名の騎士が王族の衰退を願う貴族達と繋がっている。
もしかしたら、私が万能薬を採りに行ったという情報が流れているのかもしれない。
私が帰ってきたのが貴族連中に伝われば、王族の病気を治させまいと妨害工作を行うだろうし、素早く事を進めないと。
「入れ」
国王の部屋から返事が聞こえた。
「失礼します」
ドアを静かに開け、一礼して部屋の中に入り、扉をゆっくりと閉める。
「王国騎士団副団長ユリアーナ・セイール。ただいま帰還しました!」
「おお! ユリアーナ! 帰ってきたのか」
初老で赤髪の男性が机から立ち上がり駆け寄ってきた。
昔は、力強かった眼光や健康的な肌も力を失ってしまっているこの男性こそがアルマース王国の現国王様です。
「はい。無断で王都から離れてしまい責務を疎かにしました。申し訳ありませんでした」
「よい。事情は、主治医から聞いている。我々のために黒竜を退治に向ったのであろう」
「はい。申し訳ありません・・・」
「黒竜を諦めて戻ってきたとしても誰も責めぬよ。いままで帰りづらかったのだろう」
「あのっ・・・」
「他の方法を探そう。黒竜を倒せるものは誰一人としていないだろうし、それに黒竜に下手に手を出して国が民が危険にさらされるかも知れんからな・・・」
「こ、国王様・・・」
「大丈夫だ。私も妻もレイティアもまだ大丈夫だ・・・まだ最後まで諦めずに治療法を探すよ」
「こっ、国王様っ」
「どうした? ユリアーナ?」
「えっと・・・黒竜退治に行きました・・・」
「それは、聞いたが?」
「黒竜と戦いました・・・」
「は?」
「死に谷を越えて黒竜に遭ったんです」
「なっ、なにを言う? 黒竜と戦っただと?」
「はい。戦って殺されかけました」
「殺され・・・かけた?」
「はい。死にそうになった私を黒竜が慈悲をかけて救ってくださいました」
「黒竜に助けられた?」
「はい」
「だが、死の谷の毒はどうした? エレノアがお前にやったローブは?」
「はい。ローブは黒竜の咆哮を受けて消滅しました。申し訳ありません」
「だったら、帰りはどうしたのだ? あのローブなしで死の谷からは・・・」
「はい。黒竜が私を治療してくれた際に毒の効かない体に作り変えてくださったので大丈夫でした」
「・・・その黒竜はどうしたのだ?」
「今は客間にいらっしゃいます」
「・・・・」
国王様が突然泣かれたっ!? しかも、号泣っ!?
「ユリアーナよっ・・・。うっううっ・・・死の谷の毒は頭をもおかしくさせるのかっ」
「・・・」
かなり、勘違いされているようですね・・・まあ、信じられないで話だとは思いますが・・・。
「あのー。別に頭はおかしくありませんが・・・?」
「いいのだ! 大丈夫だっ、今すぐに名医を呼んでやるから!」
・・・どうしましようか・・・?
「ユリアーナ! 帰ってきたのか!?」
部屋のドアが大きな音をならし開き、鮮やかな紅色の髪を揺らしながら、眼帯で顔を覆った美人が入ってきた。
「エレノア様っ!」
「よかった・・・無事だったか・・・心配したんだぞ」
そう言って、エレノア様が抱きしめてきてくれた。嬉しいような恥ずかしいやらで顔が赤くな・・・いやっ、力強いですっ! いっ、息が出来ませんっ!
気づいてエレノア様っ! 苦しいっ、苦しいです!
じたばたと手足を動かし抱擁から逃れようとするが、逃げられない・・・ああっ意識が・・・。
「エレノアよ・・・離してやれ・・・」
「あっ、はい。お父様」
「ハァ、ハァ、助かりました・・・。国王様ありが・・・」
「エレノアよ。ユリアーナは死の谷の毒で頭が・・・頭がっ・・・」
「そうなのですか!?」
「・・・」
・・・・・エレノア様まで涙を流して泣いてしまわれました。
一介の騎士風情に涙を流して悲しんでくれるのは嬉しいんですがなんか嫌ですね・・・。
「あのっ! 私はおかしくなっていませんよ?」
「いいのだユリアーナっ、大丈夫だ。 おい! 誰かいないのか!」
国王様が部屋の前で待機していた騎士を呼びつけた。
国王様は騎士に急いで医者を呼ぶように頼んだ・・・。
「あの~・・・」
「ユリアーナ大丈夫だよっ、もうすぐ医者が来るからね」
エレノア様まで・・・。
「っいい加減にしてくださいっ! 私がさっき言ったことは本当です!」
「しかし、黒竜が城の中にいるとは・・・お前を助けただけでも信じられないのに」
「私を救うために黒竜は力の大半を対価にしたために、人間の姿になってしまわれたのです。私は救われた後。黒竜からこの服を貰い、不意打ちで眠らせて拉致した後に無理やり契約を結んで、この王都まで連れてきたんですよ!」
「不意打ちして」
「拉致して」
「無理やり契約・・・」
親子仲がいいんでしょうね交互に言っています。
まったく、心配してくれるのは嬉しいんですが話を聞いてくれませんからね。
「ユリアーナ・・・それは真か?」
「ユリアーナ・・・本当?」
2人ともどうしたんでしょう表情が消えてます。
「本当ですけど?」
「「・・・」」
あれ? 私なにかいけないことでも言った?
・・・。
・・・・。
・・・・・そう言えばたくさん言いましたね・・・。




