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プロローグ1-5 決戦! 大洞窟の黒竜 ◇

――――ユリアーナ――――



やっと・・・やっとここまでたどり着いた!!




私は今、黒竜の住むという大洞窟までやってきた!


目の前の洞窟は大洞窟と呼ばれるだけ遠くからでも分かるような大きな大穴だった。


洞窟の中から生き物の呼吸音が入り口まで響いている。


いったいどれぐらいの大きさなのだろう・・・?


だが、黒竜は確かにいた。これは僥倖ぎょうこうだ。

いなかったり、存在していなかったわけではない。体液さえ取れれば逃げればいい。


ローブは真っ黒になり腐食し始めている・・・。ローブの下の素肌もヒリヒリとした痛みが生れている。


呼吸や大声は肺の中を毒に犯させないように最低限に留める。


時間が無い・・・。迷っている暇はない!!


いつまで戦えるか解らない。毒がまわりきる前までに黒竜を見つけないと・・・。


背中の大剣は竜殺しの魔剣ドラゴンスレイヤーと言われるほどのだ。


黒竜に対してどこまで通用するか解らない・・・。何振りで倒せるかわからない。


自分の持てる全てをかけて倒そう。そうでないと一瞬で殺されるだろう。




洞窟の中に足を進めて行く。何が起きてもいいように背中の大剣に手をかける。


しばらく歩くと、黒い岩石が洞窟を塞いでいた。




なんだ、これは・・・? なんなんだ?


近づいてゆくと大岩が動き始めた。


轟音を震わせながら大岩が変形する。


大岩は黒竜だった。


黒竜の黄金の瞳が私を見ている・・・。


怖い。逃げたい・・・。足がすくむ・・・。


でもっ! でもここで逃げたり死んでしまったら、それこそ王家の忠義に反する!!


行くしかない! 行かないと!!




覚悟を決め、背中の大剣を振りぬく。 




黒竜が動いた! 空気が黒竜の喉に吸い込まれていく!


ブレスかっ!!


とっさに大剣を地面に突き刺し防御する。


轟音が鳴り響き洞窟が振動する。まるで嵐だった。巻き上げられた岩が大剣に当たり腕に衝撃が走った。


腕の筋肉が悲鳴をあげる。魔法で強化しているのにもかかわらずに、だ。


長い嵐がやんだ。なんとか耐え切れたがかなりの魔力を消費してしまった。耳の鼓膜は破れてしまったようだ。耳が聞こえない。


普通の剣では耐え切れなかっただろう。さすが宝剣だ。




しかし、たんなる咆哮でこの威力・・・っ!!


最初からブレスを使われていたら死んでいた・・・。


これは不味い・・・。ブレスを使わせてはいけない。ブレスなど使われてしまえば

逃げる間もなく殺されてしまう・・・。


覚悟を決めろユリアーナっ!! 覚悟を決めろ!!!




黒竜は咆哮をあげただけで襲い掛かってこない。


おそらく驚いているのか、敵と認識されていないかだ。


しかし、そんなことは関係ない!!


これはチャンスだ!!




身体強化をかけ、黒竜の懐に飛び込んでいく。




まずは左足を狙う。黒竜の形状からして四足歩行だろう。


足を切り落とせば一気に叩き込める。


大剣を思い切り全力で振るう。身体強化を最大に高める!


腕の血管がブチブチと切れるのが伝わる。かまわない叩き切る!


振りかぶる。たぶん私の人生の中で最大の攻撃力を持った攻撃だ!!




ガッキィン!!!!


黒竜の漆黒の鱗と大剣が衝撃で火花を散らした。




黒竜の腕には数センチの欠片が欠けただけだった。。


黒竜の鱗は大剣を防ぐだけではなく、ユリアーナにダメージを負わせた。




腕がバラバラなった・・・。骨が砕け腕の形を維持できない・・・。


なんとか魔力で形を留める。激痛が走るが痛がる余裕など無かった。


すぐそばに右前足が迫ってくる。鋭い爪だ。かすっただけでも死んでしまう。




なんとかしないと・・・! なんとかしないと・・・!!


すぐに出せて防げる魔法っ!!


『グランドチェーン』


毒の瘴気しょうきで言葉に出せないので心の中で唱える。




地面が持ち上がり鎖状に変化して黒竜の右足とユリアーナの間に割り込む。



『いまだっ!』




鎖が間にはいったことで、ユリアーナへの直撃へのスピードをわずかに遅らせた。




どうすればいい!? あの一撃が効かないとなると剣での攻撃は無駄だ。


あの漆黒の鎧は断ち切れないだろう・・・鎧、鎧か!


今の黒竜は攻撃を外したことでバランスが崩れている!!


今しかない!! 全力で顔に当ててやる!!




一気に飛び上がり顔の前に躍り出る。




黒竜と目が合った。まるで飲み込まれそうな深く孤高の瞳だった。


まさに最強の生物。伝説の黒竜・・・強者だけが持つ威圧。


倒さないと、倒さないと、倒さないと!!!


全力で腕に魔力を集める!


衝撃波だったら鎧に伝わるはずだ! 全力で放った!! 確かな手ごたえがあった!!!




うそでしょ・・・。なんで・・・・なんで無傷なのよぉ・・・。


黒竜は大したダメージも無いだけではなく、戦闘体勢に移った・・・。


勝てない、勝てないよぉ・・・。


涙がこぼれる。視界が涙でゆがむ。




私・・・ここで死ぬのかなぁ・・・。


黒竜に殺されるのかなぁ・・・。


・・・。


疲労がたまりボロボロになった体が、激痛に狂いそうになる意識が・・・。


思い出させてゆく。


なぜここにいるのか。なんのために来たのかを思い出させてゆく。




ベッドに眠り続ける王妃。心労で枯れてしまいそうな国王。


第一子の姫、エレノアの女性としての機能を失い、婚約者からも見捨てられたときの表情。そのために、妹たちに重

圧を与えてしまう悲しみ。


第二子の姫、レイティアの病でやつれていく姿。


第三子の姫、ノアールが幼いながらも国のために頑張る姿。



みんな、みんなが孤児である自分を差別せずに家族のように接してくれた。主従の関係ながらもそこには確かな愛情があった。




私は、負けられない! 私は・・・私は、生きなければならない!!!


覚悟しろ!覚悟しろ! 黒竜よ! 私の家族のために死んでもらうぞ!!!


命を燃やす!


命を魔力に変える!! 身体を魔力で無理やり動かす!!!




黒竜の攻撃を全てかわしながら黒竜の全身に大剣を振るっていく。




三時間ほどだろうか・・・。


所々、記憶がとんでいるから正確ではないけど・・・。


結局のところ私は、黒竜に傷をつけることなく、魔力が切れた・・・。


体は黒竜の攻撃の余波で傷つき、魔力の強制行使で回路も修復不可能・・・。


魔法のローブもほとんど破けてしまった。


今は、大剣に寄りかかって、やっと立っている。


黒竜が止めを刺そうと膨大な魔力を溜めていく・・・。


竜は誇り高いとは聞いていたが確かなようだ・・・。


今の私は爪すらも避けれないというのに、わざわざブレスを使おうとしている。


光の粒子が黒竜の口から出てくる。


綺麗な光だ・・・。




私は、私は馬鹿だな・・・。


これ光を受ければ死んでしまうのに・・・。


黒竜のブレスは全てを消滅させるというのに・・・。


私はまだ諦めていない・・・。


受けて立とうと大剣を構える。


諦めてたまるもんか・・・! 私はアルマース王国の騎士!! ユリアーナ・セイールだっ!!!




私は光に包まれた――――。


もはや、痛みすらない・・・。


手足の感覚も、力も入らない・・・。


意識が薄れていく・・・。


消滅は間逃れたようだが、五感が働かなくなっている。


目も見えない。臭いもしない。耳も聞こえない。触感もない。味覚もない。


顔があるのかさえわからない・・・。


私は死ぬのだろう・・・。


私は、私は・・・私は約束を守れなかった・・・クソッ! クソォ!


ごめんなさい・・・ごめんなさい王妃様・・・レイティア様・・・救えませんでした・・・。救うことが出来ませんでした・・・・。




体が死に向かって近づいていたどんどん冷たく暗い闇に引き込まれてゆく。




突然温かくなった。


私は死んだのだろうがこの心地よい温もりは何だろう?


天国にでも行かせてくれるんですか・・・?


神様。私にはその資格は無いんです。


私は・・・。


私は温かさに包まれるように意識を失った。


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