第一章4-4 山を越えた先の街 ◆
――――キルア――――
あれから、3日が過ぎた。
今は、1つ目の山を馬車で下ったところだ。
相変わらず、昼間は我が荷馬車の操縦をして、ユリアが夜の不寝番を担当しながら山を進んでいる。
幸いこの3日間も、一度も魔物に襲われなかった。
たぶん、夜の間ずっとユリアから出される殺気というのか? ビリビリとした威圧を荷馬車の荷台から放っているおかげだろう。
番犬としてユリアは、充分な働きをしてくれる。
「キルア様、もうすぐ2つ目の山に入ります。山賊がいるかもしれませんので、よく注意してから進んでください」
「ああ、わかっている。人間がいたり、敵意を感じたらすぐに知らせればいいのだろう」
「はい。申し訳ありませんがよろしくお願いします」
「任せておけ、だが戦いは」
「はい。山賊程度、私一人で充分です」
言い終わる前にユリアは胸を張って言ってきた。よほど自信があるのだろうな。頼もしいものだ。
しかし、それから2つ目の山に入って、4日が経つが一度も、魔物や盗賊に遭遇しない。
これにはユリアも困惑しているようだった。
ユリアが言うには、前にこの山道を使ったときは3日間で2回も襲われたと言っていたが、ユリアの話を聞いていると何故、山賊が現れないのか大体予想できた。
ユリアは、山賊を撃退したが命を奪うことはしなかった。
しかし、山賊たちを死の一歩手前までは痛めつけたそうだから、山賊はユリアが怖いのだろう。
なにしろ、ユリアは二度と武器が持てないようにと、襲ってきた山賊の両腕を叩き折っていたそうだから、二度とユリアを襲うまねはしないだろう。
魔物が襲ってこないのも、襲ってきた魔物にユリアが何か酷いことをしたんだろう・・・。
もうすぐ、2つ目の山も下り終えるが結局、山賊も魔物も出てこなかった。
まあ、幸運と考えることにしよう。
「ユリア、これから行く街はなんて名前なんだ?」
「はい。これから行く街は、エクタールという名前の街で、主に農業が盛んなアルマース王国で一番の生産都市なんですよ」
「農業というと、パンの素になる麦とか、家畜という肉のもとになる生き物を育てることを指す言葉だったな」
「はい。エクタールの近くにある広い平原を利用して、大きな麦畑や牧場を作ったんです。その食料をエクタールで生産して、王都や他の街へ食料を送る重要な街なんですよ」
「本当は、そんなことよりも、また騒がれないかが心配なんだが・・・」
「あれは、キルア様が騒がれる行動をしたから悪いんですよ。魔法と言うのは誰にでも使えるわけではないのですから」
「そうなのか?」
「はい。キルア様、また人間に囲まれたくなかったら、魔法は使わない、覚えないことが大切です。魔法を覚えるとしても治癒以外は覚えないほうがいいですよ」
「今さらだと思うが・・・?」
「いえっ、キルア様はグラールで有名になったんですから、治癒の光を使えることが知れたらまた人間たちに囲まれますよ!」
途中から、言葉の端々に矛盾や疑問を感じないわけではないが、ユリアの顔はかなり必死なので指摘するのはやめておこう・・・。
「そういえば、キルア様は、顔を隠しておいたほうがよさそうですね。まだ、グラールからキルア様の情報は伝わっていないと思いますが、気をつけたほうがいいですから」
「そうだな、もう人間に拝まれるのは勘弁して欲しいしな」
「頭の黒髪は目立つので、外ではずっとフードを被っていてくださいね」
「ああ、わかった。基本これから魔法を使わない。街では顔をずっと隠す。これでいいだろう」
「はい。窮屈かもしれませんがお願いしますね」
本当に面倒だが、前の街のように人間たちに群がられても面倒だ。ここは、我慢しておこう。
「ほら、キルア様、もうすぐ森を抜けますよ。この調子だと今日の夕方にはエクタールに着きますね」
ユリアが森の先を指差すと、そこからは光が差し込んできていた。
もうすぐ、人間の街か・・・。
気が重い、行きたくない、人間を見たくないが仕方が無い。
ユリアと契約を守らないといけないし。
今度は、宿屋にずっと引き篭りたいな。
またあとでで更新しますね。
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