第一章3-9 トラウマとユリアの尋問 ◆
――――キルア――――
馬車が進むにつれて小さくなっていく街を見ながら思う。
疲れた。すごく疲れた。
たった二日でこれだけ疲れたのは初めてだ。
グラールという街の人間達は本当に鬱陶しかった。
あの、キラキラした目で我を拝む姿には吐き気がしだした。
気持ちが悪い。救いを求めて縋りよってくる人間の目は、期待と信仰に染まっていて、我を見ると祈りを捧げてくる。
あと一日でもいたら我は発狂していただろう。
もう行きたくない街だ。
もう、あの町の人間には会いたくない。
馬車はすごいスピードで道を駆け抜けていく。森から平原に景色が移り変わっていた。
「あの、キルア様」
ユリアが後ろの荷台で伏せていた我に話しかけてきた。
「なんだ・・・」
頭が回らなくなってきた。最後の魔法で魔力を大量に消費したようだ。
そういえば、昨日からずっと寝ていないな・・・。
ゴルドーの屋敷では食事も摂らずにずっとユリアが迎えに来る時間ぎりぎりまで本を読んでいたからな。
「あの、キルア様って魔法が使えたんですか?」
ユリアが振り返って声音を緊張させながら聞いていた。
「そうだな。ギルドにいたジーナに魔法の本を読ませてもらって、大まかな魔法の使い方、魔力をイメージで魔法に変換するやり方を理解して、やった。
「やった、て・・・。治癒の魔法は魔法の中でもかなり難しいんですよ! 人体の構造を理解して、人間の正常な状態をイメージしないと、逆に症状を悪化させる危険もあったんですよ!」
ユリアが声を荒げ始めた・・・。こんなユリア初めて見た・・・。
というか、荷馬車のことを完全に忘れて後ろ見てるっ!
荷馬車が止まってもいないのに後ろ向いて、怒鳴ってきたっ!?
怖い。今のユリアものすごく怖い・・・!
「それに、毒まで治すなんて! あれは、治療方法がわかっていなかった猛毒なんですよ!」
「うぅ、人体の構造とか、人間の治し方とかは、お前を治すときに覚えられた。それに、死の谷の毒に犯されたお前の体を治すよりすごく、簡単だったからな」
ちょっと、ビクビクしながら答えた。
早く前を向いて!
「私で覚えた・・・。」
「ああ、お前の体と他の人間も大差なかったから、治療のイメージして魔力を手に流したら魔法に変換されて、街の人間たちを治せたんだよ」
「じゃ! じゃあ、あの魔法陣はなんなんですか! 大きな魔力と正確なイメージがあれば詠唱なしで発動できたのも分かりますが、魔法陣は知っていないと書けないじゃないですか! それもあんなに大きなっ・・・!」
「魔法陣か・・・。あれは、この本で見た絵を描いただけだぞ」
マリーに貰った慈愛の神の本を渡す。
「これは・・・。教典ですか・・・?」
「よくわからんが、その本に載っていた魔法陣を描いたらできた」
「この、魔法陣を描いた・・・!」
「ああ、ジーナに見せてもらった本に魔法陣が魔法の威力と効果を引き上げるって書いてあったから、やってみた」
「じゃ、じゃあ他の魔法は! 火とか水とかの魔法はつかえますかっ!」
「い、いや。たぶん無理だと思うけど・・・」
「なんでですか!」
「えっ? だって火とか見たことないし、そもそも水って魔法で出せるのか?」
なんだ、ユリアから怖い雰囲気が無くなっていく?
「そうだったんですか。治癒だけなんですね・・・」
さっきの詰め寄る態度から笑顔になった?
「ああ。でも、きちんとイメージすることが出来たら使えるかもしれないが」
「いえっ結構です!」
「えっと・・・ユリア?」
「キルア様は治癒以外の魔法を覚えてくれなくていいです。というか、覚えないでください!」
「えっと・・・わかった」
ユリアがやっと前を振り返ってくれた・・・。
ここが平原でよかった・・・。
まっすぐ道にそって馬は走っていたが心臓に悪い。
うぅ、今ので一気に疲れが体にまわった・・・もうダメだ休もう。
「じゃあ、俺は寝るぞ・・・」
「はい、分かりました。今度の街までは山を2つ越えなければなりませんので、早くて10日ほどかかります」
「ああ、そのあたりはユリアにまかせる。今は、休ませろ」
「はい。お休みなさいませ。キルア様」
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