第一章3-7 キルア様のわがまま ◆ ◇
――――キルア――――
「おおーーー!」
「どうですか? 救世主様? 私の自慢の書斎でございます」
「すごいっ、すごいぞ! こんなに本が・・・!」
ゴルドーの書斎は本が大量にあった。壁紙が本棚になってるほどだ。
「どうぞ、好きなだけお読みください。気に入った本があれば差し上げますよ」
「ほんとかっ!?」
「はい」
さっそく、本棚から本を一冊出して読み始める。
――――ユリアーナ――――
キルア様が本に夢中になっている間にとりあえずキルア様が救世主と呼ばれている訳をゴルドーさんから聞きました。
「・・・」
もう、言葉も出ません。絶句です。
治らないとされているベゼルリッターの毒を消しただけでも驚くのに、私の何倍ものお金を稼いだ理由にも驚きです。
街の人たちは誤解してます。
あの方は、慈愛の神の化身なんかじゃなくて、黒竜です。
対価を貰わないと約束したから、貰わなかっただけで、対価を約束していたら、対価を必ず請求したでしょう。
でも、こんなこと説明できません・・・。
ゴルドーさんとビジターさんのキルア様を語るときの顔がやばいです。
もう、教徒ですよ。完全にキルア様を神の化身だと勘違いしています。
もし、キルア様のことを悪く言えば私が殺されかねません。
面倒なことにならないうちに街を出たほうがいいでしょうね。
「明日の朝にはこの街を出ようと思います」
「なっ、なぜですか!?」
うわっ、ゴルドーさん目が血走ってます! こ、怖い・・・。
「急いで王都に向かわなければいけませんので」
「王都・・・王都と言うとっ王族のご病気を治しに行かれるのですか?」
「はい。キルア様には王都に行っていただいて王族の方々を治してもらわなければいけませんので」
「さずが、我らの救世主様っ! そんな旅の途中で我々などをっ・・・」
ゴルドーさんとビジターさんが号泣しながら手を組んでキルア様を拝み始めました。
キルア様はそんな二人を見ようともせずに本を読んでます。なんでしょうこの温度差。
「ですのでっ、急がないと行けないんで私たちはこれで! ほらキルア様行きますよっ!」
「やだ」
「はぁ?」
「まだ読み始めたばかりだ」
「えーと・・・」
キルア様がこんなに本が好きだったなんて知りませんでした。まあ本を読ませてなかっただけですが。
こちらに顔も向けずに拒絶されました。
「出発の準備があるんですから本は後にしましょう」
「やだ。今読む」
「・・・」
即答、即答されました・・・。
「あのー、ユリアーナさん?」
「何ですか。ゴルドーさん今忙しいんですけどっ」
「準備でしたらビジターにさせましょうか?」
ゴルドーさんはそう言ってきますが・・・。
「いえ、剣なども買わないといけないんで自分でやりますよ」
「なら、ビジターと一緒に準備すればいいじゃないか」
キルア様。さっきまで本に夢中だったくせに・・・。
「明日の朝。迎えに来てくれ」
「おお! それがいいですね。さすがは救世主様」
なにが、さすが。さすがなんですかゴルドーさん。ビジターさんも何度もうなずいて・・・。
「・・・わかりました。じゃあ、明日の朝迎えにきます」




