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第一章3-3 スラム街での救世主 ◆

――――キルア――――



今は、人間の少女と一緒に細い路地を歩いていた。


曲がり角ごとに後ろを確認しながら、数歩前を先導するように歩いていく少女の名前はマリー。


部屋の窓に小石をあて、我を呼び出し、いきなり父親を助けろと土下座をした。手を振っていた人間だ。


最初見たときは髪が肩までしかなく凹凸も無いから、性別が分からなかったが自己紹介をしたときに娘だと言っていたから女なんだろう。


あとスラム街とか言っていたな? ここの街の名はグラールじゃなかったのか? まあ、それは後ででいいか・・・。


さっさと、用事を済ませて眠りたい・・・。



ん? なんだかだんだん空気がよどんできたぞ? 


死の谷の空気に比べればかすみ程度なのだがこの淀んだ感じの空気は懐かしい。


懐かしい、深呼吸しておこう。



「えっと、やっぱり臭いですよね・・・」


「ん? いや別に?」




マリーが歩きながら聞いてきた。




「すいません。救世主様・・・」


「なぜ、謝る? 懐かしい空気だ」


「そうですか?」


「うん」


「・・・」


「・・・」



なんだ? それだけか? 



数分して、マリーが馬小屋の前で立ち止まった。


周りにも無数の小さな馬小屋みたいな小屋が建っている。どうやらこれが、このあたりの家らしい。



「救世主様、ここです・・・お父さんを治してくださいっ・・・!!」



マリーは嗚咽を漏らしながらすがり寄ってきた。


・・・うむ。やはりこやつ女だな。保護欲というものが湧いてしまった。


男に頼られるのはあまりいい気がしないが、女に頼られるとなんでもしたくなるから不思議だ。



「わかった。任せておけ」




小屋に入ると、痩せた男が今にも壊れそうなベットに横たわっていた。


たぶん、父親だろう。


体に黒い湿疹が出ていた。


手をかざし、治癒の光を浴びせてゆく。


黒い湿疹が消え、男がゆっくり目を覚ました。



「わ、わたしは・・・いったい・・・どうして・・・」


「お父さんっ! お父さん、お父さんっ・・・!!」



マリーは父親に駆け寄り抱きしめる。



「お父さん・・・! 救世主様が・・・救世主様が治してくださったのよ・・・!」


「救世主様? いったいなんだそれは? それより本当に治ったのか・・・??」


「そうよ! もう、街の人たちのほとんどが治してもらったわ」


「まさか・・・そんな・・・ベルゼリッターの毒は高位の魔法使いでも解毒出来ないというのに・・・」



・・・うーん。もう我は帰っていいのか?




うわっと!


マリーが抱きついてきたっ!? な、なんだっ!?



「「ありがとうございますっ! ありがとうございます・・・! 救世主様っ・・・!!」」



親子そろって、お礼を言ってくる。


マリーは、嗚咽を漏らしながら鼻水と涙を流しながら、抱きついてきたのでマントがぐしゃぐしゃに汚れたが、まあ、いいだろう。マリーは女だし。



「あっ、あの! これお礼です・・・」



思い出したようにポケットから銅貨を一枚差し出してきた。



「よい。治すとは契約したが対価を求める契約はしていない。何回言えば分かるんだ。それは、お前が持っていろ」


「えっ・・・えっと・・・ほんとうにお金要らないんですか?」



なんだ? 親子が意外そうな顔をしている?



「やはり、救世主様なんですねっ!」


「その、救世主様ってのやめろ。俺はそんな名前ではない。キルアだ」


「キルア様ですねっ! キルア様っ・・・」



マリーが目をキラキラさせながら見上げてきた・・・! ベットの男まで拝んでいるっ!? 


やっぱり、人間って怖いっ!! 感情の変化が竜よりも激しい・・・!! 帰りたいよぉ・・・ユリアぁ・・・。



「じゃ、じゃあ。俺はこれで・・・」


「キルア様っ!」


「な、なんだ?」


「まだ他にも病人がいるんです・・・!!」


「・・・」



マリーがマントをしっかり握って、見上げてくる。表情は教会の中にいた連中と同じ。何か言葉を期待しているような顔だ。



「・・・・わかった。どこへでも連れて行け・・・」


「ありがとうございますっ! キルア様っ!!」


「・・・」



ユリア・・・。


帰れるのは、いつになるか、わからない・・・。


ユリア・・・起きたらすぐに迎えに来て・・・お願い・・・。


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