第一章3-2 救世主と呼ばれて・・・休めない・・・ ◆
――――キルア――――
ユリアが無事でよかった。ほんとうによかった。
大きなベッドで眠るユリアを見ながら、本当に生きててくれてよかったと思う。
ダフネという医者に勧められて、ユリアをきちんとしたベットに移すことにした。
しかし、我は宿なしでベッドがないと話すと、人間たちはこぞって自分の家に泊まってくださいと言い出した。
そのあまりの期待? 尊敬? の眼差しに怯えていると、街一番の宿屋の主人という人間が神父と共に我に宿を使ってくださいと頭を下げてきた。
宿屋だったら、ユリアと泊まったことがあったので、その申し出を受けることにした。
ユリアを抱き上げて、急いで宿屋に向おうと歩き出す。
お金をすっかり忘れていたが、教会で最初に治してもらいに来た男が後ろからついて持ってきてくれた。
宿屋の主人は、今まで見たことの無い豪華な部屋を貸してくれた。
広い部屋に、大きな椅子に、大きな机、大きなベッド、何もかもが今までの宿屋と違って、大きかった。
見たことの無い家具もたくさんあった。
ユリアをベッドに寝かせ宿屋の主人にお金を払おうと、男からお金の入った大袋を受け取り、「何枚払えばいいんだ」と聞いたら、いきなり涙を滝のように流し、両手を掴み、「めっそうも無いっ!! あなた様から金を貰えるものですかっ!!」と言って、金を受け取らなかった・・・。
払えないと、思っているのか? 失礼なヤツだなコイツ。
今は、とにかくユリアを休ませることが優先なので、他の人間には部屋から出て行ってもらった。
そういえば、お金を運んでくれた男がかえり際に我に向ってこんなことを言っていたな。
「娘を救っていただいた恩は忘れません! 私は生涯、あなた様の僕でございます。何かあれば、なんでもお申し付けください」
なんて、言って出て行った。
・・・うむ。我は男は好かんようだ。
僕になると言われても嬉しくなかったし、正直、鬱陶しかった。
はあ、そろそろ我も休むか・・・いい加減疲れた・・・。
コンッ!コンッ!
窓に何かを当てている音がした。
なんだ? なんの音だ?
部屋の窓に向って、窓を開け下を見下ろす。人間が手を振っていた。
我を呼んでいるのか? うーん、どうしようかのう?
一人で出歩くのは怖いし。夜は危ないとユリアに教えられている・・・。
悩んでいると、人間は必死に、手を大きく振り始めた。
うーん・・・。眠たいんじゃがな・・・。仕方が無いか・・・。たぶん、治療してくれってお願いしているんだろうな。
治療すると契約したのは我だし・・・。
黒竜の我が契約を蔑ろにすることは竜の威厳にも関わる・・・。
仕方が無いので、宿屋の外に出る。
出て行くときに、宿屋の主人にきちんとユリアが起きたら、「少し出かける」言っておいてくれと頼んだから大丈夫だろう。
まあ、宿屋の一階に降りたときに、宿屋の主人が我の部屋がある方法に向って拝んでいたのは怖かったが・・・。
宿屋を出て、手を振っていた人間のところへ向う。
ちょうど、大通りの裏側だった。
まだ、大きく手を振り続けていた人間が、近くに来ていた我に気づいて駆け足で駆け寄ってくる。
「救世主様っ! 来ていただけたんですね!!」
「うん。なんのようだ?」
「私のお父さんを・・・私のお父さんを助けてください!!」
石畳の地面に座り、両手をつき、頭を下げる・・・つまり土下座してきた。
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