第一章2-3 はやまったかな? ◆
――――キルア――――
ジーナにおごって貰った料理を食べ終えた。
「ありがとう。美味しかったよ」
きちんとお礼を言う。
「それは、よかったわ。他に何か欲しいものはない?」
「うーん・・・」
腹は膨れたし、これ以上食べ物をせびるのは、あまりにもずうずうしいだろう。
欲しいもの・・・欲しいもの、欲しいもの・・・そうだ!
「本が読みたい!」
「本? 文字が読めるの?」
「ああ、習った」
「そうなの?」
昔は、母上が人化の術を使って文字を教えてくれたり本を読んでくれていたが、両親がいなくなってからは本があっても自分では読めなかった。
竜の手では本を開けなかったからだ。開く前に潰れてしまうし、仮に開いて文字が読めてもページが捲れない。
お気に入りの本を読もうとして、爪先を触れさせただけで、本が紙くずになって読めなくなったときは、すごく悲しかったのを覚えている。
「なんでもいいから、本が読みたい!」
今の自分は人間の姿をしている。本を掴めるし、指でページを捲れる。
「本・・・。本ね・・・うーん。じゃあ、これ読んでみる?」
ジーナは、白い革の大きめの鞄から黒色の厚い古びた本を取り出した。
「魔力を魔法かえる基礎?」
「ええ。私、本はそれしか持っていないのよ。ちょっと難しいと思うけど。私も今日は暇だし夜までなら好きに読んでいいわよ」
「ありがとう! ジーナ! 大切に読むよ!」
やった本だ! 文字が読める! ジーナはどこまで優しいんだろう!
あれから3時間経った。まだユリアは帰ってこない。
本はなかなか面白かったがもう読み終えてしまった。
「どう、おもしろかった?」
ジーナがぶどう酒を飲みながら聞いてきた。
紫色の水はぶどうをもとに酒にした飲み物らしい。「ジーナが飲んでみる?」と聞いてきたがこれ以上は何も貰えない。貰っては黒竜の品格に響く。
「おもしろかった。魔力はエネルギー。魔法は運用方法。使い方は正確なイメージ。っということは理解した」
「・・・。あなたってすごいのね」
「ん? すごいのはジーナだろ? 美味しいもの知ってるし、おもしろい本も持っているんだから。はい、この本返すよ。ありがとう」
「子供なのにそれの本を理解できただけでもすごいわよ・・・」
「ん? そうか?」
バタンッ!!
ギルドの入り口のドアが鳴った。
ユリアが帰ってきたのかと視線を送ると人間の老人だろうか? 倒れていた。
「どうしたんだ!?」とギルドの人間が駆け寄って人だかりを作る。
「行ってみましょう」
ジーナが提案してきたので従った。ジーナには恩があるし。
人だかりの間から老人の様子を覗う。
老人の体に黒い湿疹が浮かび、苦しそうに息をしていた。
人だかりの人間の会話を聞いてみる。
「こりゃあ、ベルゼリッターの毒だな・・・」
「きのどくに・・・発症しちまったら助からねぇのに・・・」
「どうするよ? このままここに置いといたら俺たちにも感染するかも知らねえぞ・・・!」
「くそっ! これで何人目だっ!!?」
「もう、街の人間の三分の一はこの毒にやられちまってる」
「この街は滅びてしまうのか・・・」
人間たちは怒りながら悲しんでいるようだった。
ジーナの顔も、怒りと悲しみで顔を曇らせていた。
「ジーナ」
「なに? キルア?」
「こいつを治せば笑顔になるか?」
「えっ? 今なんて?」
老人に近づき手をかざす。
周りの人間が止めてくるが関係ない。今はジーナだ。
魔力はエネルギー。魔法は運用方法。使い方は正確なイメージだ。
力を失っていても俺は竜だ。
人間ぐらい治してみせる!
手から光が生まれる。魔法が発動したようだ。
老人の体を光が包み、老人から黒い湿疹が消える。
老人の呼吸が穏やかなものに変わり、目を覚ました。
「わ、わしは・・・??」
うむ。治ったようだな。
老人を放って、ジーナのもとに戻る。
「ジーナ。嬉しいか? 少しは恩をかえせたか?」
「えっ? ええ・・・」
どうしたんだろう? ジーナの表情が固まっている。
「おっ! おねがいします!! うちの娘を助けてください!!」
うわっ!! なにか知らぬが他の人間達が詰め寄ってきたっ。
「ど、どうしたのだ??」
「お願いします! なんでもするので治してください!!」
人だかりが大きくなってきた・・・。
大勢の人間が俺を取り囲み頭を下げてくる。本当にどうしたのだ!?
正直怖い・・・!
「わ、わかった! わかったよっ!!」
自棄になって叫んでしまった・・・。
「「「ああ、救世主様っ!!」」」
村人が拝んできた・・・。
ジーナがどんどん人だかりから押し出されてゆく・・・。
まだ、笑顔を見せてもらってないのに・・・。
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