第一章1-3 キルアの期待とユリアーナの賭け ◆ ◇
――――キルア――――
我は王都に向うことにした。
この娘が最強の生物である我に立ち向かった理由がそこにあるからだ。
黒竜に挑んだ娘から理由を尋ねるのは簡単だろう。
しかし、それでは意味が無い。
自分の目で実際に見なければ意味が無い。
せっかくの初めの世界だ。
自分の目で確かめたい。
力は失ったがこの娘が護衛に就くのなら道中安心出来るだろう。
書物や両親の話では感じられない。自分で体験する喜びを感じたい。
うむ、世界に出てみるか!
―――――ユリアーナ――――
私は黒竜と契約しました。
契約といっても口頭ですが、黒竜は必ず契約を果たしてくれるでしょう。
正直これは賭けでした。
黒竜が人間の姿に慣れていないうちに契約させなければいけなかったからです。
黒竜は気づいていないようですが、黒竜は私よりもかなり強いです。
私の魔力を使った全力の手刀を受けても、すぐに目覚め痛みも無いようだったからです。
常人だったら、死んでいますし、魔物でも昏倒してすぐには起きられません。
黒竜が自分がどれだけ強いかわかっていない今しかチャンスはありません。
私は部屋ドアを開けてすぐ驚きましたが、無表情を装い淡々と契約の場に、駆け引きに持ち込んでいきます。
途中、黒竜が怒鳴り声を上げて、目に見えて解るように怒りをあらわにした時は終わったと思いました。
黒竜は苛立ちながら質問してきました。
私は淡々と答えます。ヘタに怯えてしまうと自分より黒竜の方が強いと悟られる可能性があったから、質問に即答で解していきます。
黒竜にさせなければならないことは、最優先で国の王族たちを救うという契約を取り付けることです。
黒竜が争点が利益の話に移りました。チャンスとばかりにまくし立てます。
黒竜に契約を持ちかけるために自分の身をさしだすと言いました。
私の身、一つで王族が救えるものなら安いものです。
黒竜は考え始めました。
不安と恐怖で押しつぶされそうです。
この条件はいろいろと無理があったからです。
私の身といっても黒竜が救った身です。黒竜が救わなければ死んでいた身です。
本来、契約の対価にすらなりません。
最初から黒竜のモノなんですから当然です。恥知らずもいいところです。
どんな答えが黒竜の口から出てくるのかを内心ビクビクしながら待ちました。
最初からこの契約方法しかなかったのです。
脅して連れて行くのは危険すぎます。
黒竜が王都に向う途中で自分の力の使い方を覚えたら逃げられるか殺されてしまいます。たぶん両方でしょうね。
なのでワザと起きるのを見計らって交渉を始めたのです。
今ならば黒竜の選択肢は選べなくなる。これは最初から不当な契約です。
巧みに言葉を操り誘導していくのですから。
私が用意した黒竜に選択される方法は大きく3つ。
1つ目は、手足を折られたくないので大人しく従う。
2つ目は、私の身を捧げさせる契約を結び、自分から王都に向い王族を救う。
3つ目は、誇り高い竜ならもしかしたらありえない話でもない自害。
2つ目を選ばれないと王族も私も破滅だ・・・。
無表情になるように努力する。ここで不安な顔を見せては選択肢に影響する。
黒竜が考えている。
お願いします! 契約してくださいっ!!
黒竜が口をあけて言葉を紡ぎます。
耳に入り、頭が理解します。
賭けに・・・賭けに・・・勝ちました・・・。
黒竜は2つ目を選んでくださいました!!
よかったぁ・・・よかったです・・・。
思わず飛び上がって喜んでしまいました。
これで王族が救える。
涙が溢れます。黒竜を騙したというのに、命の恩人に恩を仇で返しているというのにっ、歓喜の涙が溢れてきます。
私は、私は決めました。
黒竜のモノになろうと、心に誓いました。
殺されてもおかしくないことをしているのです。当然です。
私の命は、私の心は、私の体は、黒竜の所有物です。
どんなに残酷な・・・辛い目にあわされても私は、命の続く限り、いえ、死んだとしても滅びたとしても、永遠に黒竜の所有物です。