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プロローグ1-1 黒竜キルア、生れて初めて人間を認める ◆

視点の変更についてはタイトルの後についているマークでかわります。

キルア=◆ ユリアーナ=◇ です

――――キルア――――



今我は感動している!!


絶対種で世界最強の化け物と称された黒竜ブラックドラゴンの我に単身で挑んでくる人間がいるからだ!




時間にすれば3時間前、ヤツは死の谷エドランタの最深部にある大洞窟。つまり、我の寝床にヤツはたった一人でやってきた。


全身を黒いフード付きの大きなローブで全身を覆った人間だった。

顔や体は見えなかったが匂いで解った。


人間には猛毒にあたるガスを噴出し続ける死の谷を潜り抜けただけでも驚くのに、ヤツは死の谷の主と称され恐れられている黒竜の我に向かってきたのだ。


ヤツは背中に背負った大振りの大剣を抜くと、人間では信じられないスピードで襲い掛かってきた。


我は、いきなりの事で気が動転してしまったいた。

まさか、襲い掛かってくるとは思わなかったからだ。


我の体はヤツと比べもにならないほど大きく、我にとって虫けらのような存在が単身でそれも剣で立ち向かって来るとは夢にも思っていなかった。


我は黒竜。


鱗は金剛石ダイアモンドよりも堅く、爪は一振りで大地を割る。口から放たれる光のブレスは国一つを一瞬で消滅させる。


たかが人間ごときが我に向かってくるとは・・・。


我の寝床をこの馬鹿の血で汚すのは嫌だったので、咆哮をあげて吹き飛ばすことにした。



「GAAAAAAA-----!」



肺からだされる空気の塊りが振動となって、洞窟中を振るわせ、暴風が吹き荒れる。


我は、これで終わったな・・・。


と、思っていた。しかし、ヤツは大剣を自分の前の地面に深く突き刺し、暴風を受けきったのだ。たかが人間ごときが、マジか・・・?


しかもヤツは、予想外の事態に呆けていた我と距離を詰め、左前足を切り落とそうと大剣を振りかぶった。




ガッキィン!!


漆黒の鱗とヤツの大剣がぶつかり衝撃波を生んだ。




漆黒の鱗を貫通することは出来なかったが、左前足に鈍い痛みが生まれた。


つかさず右の前足で人間を攻撃する。


人間は、右足を避け、しかも魔法を我が顔に向って放ってきたのだ。


しかも、魔法もなかなか威力がある。単なる魔道砲だが痛かった。


二回の攻撃だけでも、我の漆黒の鱗に半端な攻撃は効かぬ人間も分かっているだろうに・・・。


この人間は、怯えることなく勇敢に向ってくる。


我の攻撃をすべて避けながら、かすりでもしたら終わりの我の攻撃を見ながらも・・・肌で感じながらも・・・。


弱点を探すように大剣を全力で振るってくる。


フードから覗ける瞳は気高くも強い意思を感じさせる。本気で我を討ち倒す気だろう・・・。


我を倒すため、殺すために虎視眈々と皮膚や鱗の弱い部分を探す。勝利を勝ち取るために持てる全ての力を使って・・・。


フッ、フフフッ。


久々の強敵に自然と笑みが浮かんだ。


久しく感じたことのなかった痛み・・・。


忘れていた闘争心・・・。


殺すか殺されるかの緊張感・・・。


力と力をぶつける高揚感と開放感・・・。


まさか・・・まさか、脆弱な人間ごときが思い出させてくれるとは!


認めよう人間! お前は勇者だ!!



「GAAAAAAA----!!」



さっきの咆哮と明らかに違う、歓喜の咆哮が自然と喉からでた。


勇者は、我の攻撃をことごとく紙一重で避けてゆく。いいぞ。勇者! もっと楽しませてみろ!!




その3時間後。勇者はまだ生きていた。


まさか、3時間も生きていられるとは思っていなかった。


着ていたローブはあちこち破け、血みどろになりながらもまだ生きていた。


爪を振るう余波でいくつも傷を作りながらも足を止めることも無く、直撃だけは避け続けた。


正直、ここまでやるとは思っていなかった。


勇者のローブは真っ赤な血で染まり、立っているのがやっとだろうに、ローブのフードから覗ける瞳は光を失っていない。


勇者の攻撃はすばやくそして重い。漆黒の鱗が少し欠けてしまった。


勇者にもう戦う力は残されていないようだ。次で決まるだろう・・・。


ただの人間が黒竜の我とここまで戦ったのだ。


我は、敬意を払うつもりで光のブレスで止めを刺すことに決めた。


よくぞ、ここまで戦った! 楽しかったぞ!!


腹に魔力を集中させ喉で圧縮し、口から一気に吐き出す。




ゴオオオオォォォォーーーーー!!




久々に放ったブレスは爆音と共に洞窟を突き抜け、山を消し去り虚空に消えていった。


勇者は形も残らなかっただろう。光がゆっくりと収縮し消えてゆく。




驚きもさることながら感動した。


まさか、原型を留め、しかも、かすかに息があったのだ・・・!


山すら塵に変え、国おも消し去る黒竜のブレスを受けてなお、生き残っているのだ!


今の勇者は、ローブも大剣も溶けて消滅したというのに、勇者は全身消し炭になりながら生きていたのだ!


しかも、うつぶせに倒れながらも、顔がなくなりながらも我を倒そうと、殺そうとしている・・・!!


我の心に何かが生まれた・・・。


初めての感情だ・・・。


脆弱で強欲、群れることが大好きなくせに平気で仲間を裏切る卑怯な人間が大嫌いだった。


しかし・・・しかし、目の前の勇者は他の人間と違い、たった一人で勇猛果敢に我に向かってきた・・・。


一撃でも受ければ死んでしまう攻撃に対して人間が死なずに生き残るとは思わなかった。


我に正面から向かって戦いを挑んでくる孤高で勇猛な勇者の瞳。


何百年も忘れていた愉悦を思い出させてくれた、この勇者をここまま殺してしまうのはあまりにもおしい!!


かろうじで五体はついているが、皮膚はブレスの熱で溶け所々骨が見えている部分がある。しかも、魔力は既に尽き、しかも魔力を行使するための回路もズタズタになっている。生きているのが不思議なぐらいだ。


たぶん、このままでは、数分で死んでしまうだろう・・・。


どうするか・・・。どうしたものか・・・。


うーん・・・。


仕方が無い・・・。


竜族にとっては最大の屈辱だが、この者を死なせてしまうよりかはましか・・・。



「喜べ。人間。お前の死はまだ先だ。お前はまだ生きろ」



勇者に伝わるよう人語を使い、焼け炭の勇者に言う。たぶん聞こえてはいないだろう。


これは、そなたの武に対する褒美だ。

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