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肆拾陸.また会えるということでいいんですか?

 竹仁と別れた中納言が清涼殿に着くと、大トラブルが発生していた。1週間もかけてやっと昨日仕上がった書類が1枚どこかになくなってしまっていたのだ。本当ならちょっとだけ清涼殿に顔を出してその日はそれで終わりにするつもりだったのに、明日までにどうしても必要ということで、書類の山をかき分けて大騒ぎでなくなった書類を探すはめになってしまった。


 中納言「今日は疲れました。竹仁殿は待ちくたびれておられるでしょうね」


 ようやく解放された中納言は牛車に乗って屋敷へと急いだ。もう日が陰ってきていてさすがに少し待たせすぎたと反省していた。


 中納言が屋敷に着くと、竹仁を案内した従者を急いで呼び出した。


 中納言「竹仁殿は?」

 従者「奥の部屋にお通ししてお菓子をお出ししてあります」

 中納言「退屈なさっているのではないか?」

 従者「大変静かにしていらっしゃいまして、…、その」

 中納言「どうした?」

 従者「あの方のお顔を拝見するとどういう訳か胸が詰まって息苦しくなってしまい、…、ですのでお呼ばれしたときだけお世話するつもりでいたのですが、一向にお声がかからないもので…」

 中納言「では、竹仁殿をお一人で放置してしまったのか」

 従者「申し訳ございません」


 中納言は、しかし、従者の言うことも仕方ないとも内心思っていた。この従者は中納言の従者の中でも特に感受性が高く、ものの風情の分かるものであることを買って側においていたのだ。だから、竹仁のもつ妖しい美しさに当てられてしまったとしても不思議ではない。


 中納言「まあ仕方がない。お前もあの方の特殊さに気づいたということだ」


 中納言にとって、竹仁がどれほど美しいとしても、所詮は下流貴族の子息であって何の遠慮も必要なく自分の都合で振り回しても誰も咎めるものなどないはずだったのだが、中納言は竹仁に対して疎略な扱いをしてはいけないという気がしていた。生まれてからこれまでこの世の美しいものや高貴なものをさんざん見てきた中納言から見ても、いやむしろそういう目を持った中納言だからこそ、竹仁の美しさにはこの世のものを超えた神聖さを感じざるを得なかったのだ。


 中納言「竹仁殿の下へ案内してくれ」

 従者「お召替えは?」

 中納言「不要だ。これ以上お待たせするのは申し訳ない」


 従者に案内されて竹仁が待つ部屋に着いた中納言の目に入ったのは、空になった湯のみと菓子皿だった。


 中納言「竹仁殿は帰られたのか?」

 従者「…いえ、そのような報告は受けておりませんが」

 中納言「門には門番が立っている。塀を乗り越えることは無理だろうからおそらくどこかにいらっしゃるはずだ。探して参れ」

 従者「分かりました」


 足早に従者が去っていくのを見て、中納言は部屋の中に足を入れた。


 中納言「不思議なこともある」


 従者には探してこいと言ったものの、竹仁は見つからないのではないかと中納言は思っていた。もともと始めから竹仁には何か不思議な雰囲気があって、今日会えたことは奇跡の一種のような気がしていたのだ。風のように現れて煙のように消える、そんなこの世の条理からは外れた存在、中納言には竹仁がそんなもののように思えてならなかった。


 中納言「おや、これは何だろう」


 ふと足元に何かを見つけて中納言はしゃがみ込み、床でもぞもぞと動く不思議な物体をつまんで手のひらの上に載せた。


 それは頭の先から尻尾の先まで金色に輝く小さな亀だった。しかもそれは金で作られた置物ではなく、実際に生きて動いていた。


 中納言「これは…、また会えるということでいいんですか?」

知らないうちに何かまたフラグが立ったようです。


ところで亀といえば浦島太郎ですが、古くは日本書紀にその記述があります。しかし、そこでは竜宮城ではなく蓬莱山に行ったということになっているそうです。

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