参百伍拾壱.ミンキースミ
大人っぽくなりたい。それは外見が幼女のままちっとも成長する様子を見せない墨にとって確かに大事な問題なのだろう。
しかし、なんということだ。墨は幼女だから猫耳尻尾が可愛いんじゃないか。これが大人っぽくなったら、単なるコスプレにしか見えなくなるよ。
俺「あのね、墨。大人になっても、人生、いいことなんて何もないんだよ」
俺は是が非にもここは墨を説得して心を変えてもらわないといけないと決心した。
天照『だめだよ、姫ちゃん。これはあたしと墨ちゃんの約束なんだよ』
俺「そうかもしれないけど」
天照『姫ちゃんは下がってて。大丈夫。絶対、姫ちゃんも喜ぶよ』
そう言って、天照は俺の肩を引っ張って強引に後ろに下がらせた。さすがに、本気で力比べをしたら、天照には勝てない。
まあ、仕方ない。これで墨とはお別れなんだし、最後の墨の希望くらい叶えてあげてもいいかもしれない。血の涙を飲んで我慢しよう。
天照『じゃ、目をつむっててね』
墨「はい」
天照が目をつむった墨の前に立ち、もぞもぞとあちこちを触り始めた。
墨「くぅん」
俺「ずるい、天照。私も触りたいのに」
大国主(はあはあ)
俺「あなたはこっちを見てないで儀式の準備をしてなさい」
天照が触ったところから墨の体が光はじめ、やがて光に包まれて墨の姿が見えなくなり、再び光が弱まって墨の姿が見えてきた。
え?
天照『終わったよ』
俺「天照?」
天照『何?』
俺「何も変わっていないんじゃないかしら?」
俺は思わず天照に問いかけた。
大人にするというから、もっと背が伸びてスタイルもよくなってちょっとアダルティーな雰囲気になるかと思っていたのだが、光の中から現れた墨は相変わらずの幼女だったのだ。
天照『何言ってんの。よく見てよ』
そう言って天照は墨の方を指さすが、何も変わった様子は見られない。
いや待て、何か変だ。