参百肆拾玖.別れ
そして、次の満月の夜、その時は来た。
屋敷の外には帝が軍勢を率いて月からの使者を追い返そうと待ち構えている。兵士たちも一人一人がかぐや姫を守るという気概に満ちていて、士気は高そうだ。
しかし、彼らは屋敷の敷地には一歩も踏み入ることはできない。俺の張った結界が侵入を拒んでいるからだ。
今、敷地内にいるのは俺、雪、空、爺、婆、そして他の使用人たち、それから雪の家族のみ。誰一人話をすることなく、空の月を見上げていた。
十分空高くまで月が上った時、空に人影が見えた。いや、影というのは正しい表現ではない。そもそも夜空に影が見えるはずがない。ぼんやりとした明かりに照らされた数人の人の姿が見えたというのが正しい。
俺「来ましたわ」
視力の問題で最初に見つけたのは俺だ。指さしてあげると他の人たちも気づいたようだ。
誰かが伝えたのか、外の兵士たちも騒ぎ始めた。矢を射かけようと一斉に弓を準備している。しかし、天照に弓矢みたいな原始的な武器が当たるはずがない。
次第に、人影ははっきりと人物が視認できる距離まで近づいてきた。天照と武甕槌と雨に墨もいる。
俺「お爺さま、お婆さま、とうとうお別れのときが来たようです」
爺「かぐや姫、本当に行くのか?」
俺「はい。これまで短い間でしたが、お世話になりました」
婆「体に気を付けて元気で」
俺「はい。お婆さまこそ末永く」
俺は爺と婆の手をしっかりと握って別れを惜しむ。
空「かぐや姫さま」
俺「空、後のことを任せます。特に、お爺さまとお婆さまのことをよろしくお願いします」
空「はい。分かっています」
俺「残してある私物は空に差し上げます。それから、時々上賀茂神社の神域を確認するようにしてください」
空「上賀茂神社ですか?」
俺「はい。一つ罠を仕掛けたままにしてあるので、何年後、もしかしたら何百年後かもしれないですが、罠にかかっているのがいたら使い魔にでもしてしまうといいと思いますわ」
ちょっとした行き違いから作った罠だけど、空に対する置き土産としてはまあまあ気が利いているんじゃないだろうかとあえてそのままにしておいたのだ。別雷神がいつ頃戻ってくるか分からないのが難点だけど。
爺「かぐや姫、これを」
そう言って渡されたのは、竹を編んで作った鞠だった。忙しい中、わざわざ竹を取りに行って編んでくれたのだ。
俺「ありがとうございます、お爺さま、お婆さま。大切にします」
と、そんな風に別れを惜しんでいると、天照たちがとうとう到着したようだ。
武甕槌(かぐや姫、雪、これを)
そう言って武甕槌は墨に天の羽衣を渡し、それを墨が俺と雪に着せてくれた。
これは、背中に黒い羽根をはやして空に飛んでいくというのはさすがに興ざめだし、リアルコ○ミコマンドを人前でやりたくないということで、他に飛行アイテムとして使えそうなものを探しておいてくれたのだ。
俺「じゃ、雪。行くよ」
雪「はい、かぐや姫さま」