参百肆拾捌.お守り
人形「我、この世を統べるものとして生まれ、この世を統べたものとして死ぬものなり」
天照『その力、神器にて試してみるがよい』
天照が手を振ると、どこからともなく三種の神器が舞い集まってきて、赤ちゃんの足元に集まった。
天叢雲剣を赤ちゃんが手に取ると、鏡と玉がその周りをゆっくりと飛び回り始めた。
天照『資格は認められた』
と、そこまで言ったところで帝の体の力が完全に抜けてすやすやと寝息を立て始めた。
天照『お疲れー』
俺「お疲れ様です」
中宮「終わりですか?」
俺「はい」
疑似出産体験の疲労からようやく回復した中宮は少しふらふらしているものの自力で立ち上がった。
天照の手にあったリアルな赤ちゃんの人形は天照がやさしく息を吹きかけると元の紙の人型に戻った。そして、それを中宮へと手渡した。
天照『はい、これはお守り』
中宮「ありがとうございます」
天照『じゃ、中宮ちゃんもおやすみ』
そう言うと、中宮も糸が切れたように崩れ落ちてすやすやと寝息を立て始めた。
天照『さ、これで姫ちゃん、思う存分いちゃいちゃできるよ』
俺『ちょっと待てよ。これ、散らかったままじゃだめだろ。ちゃんと後始末しないと』
天照『平気平気。後で月☆読にやらせるから』
俺『ええっ』
月☆読。勝手に締め出されて、勝手に眠らされて、勝手に惨状の後始末を押し付けられて、なんだかちょっと不憫になってくるな。
その後の展開はわざわざ語るまでもないと思う。いつものように俺と天照で追いかけっこになっただけだ。
途中、何度か月☆読を踏んづけたような気がするが、あまりよく覚えていない。
その後、しばらくして、帝は次に生まれる中宮の子を皇太子とする意向を内示したようだ。ただし、まだその子が生まれていないということもあり、帝の意向ということにとどまっている。
明子の入内の件は再び宙に浮いた形となった。中宮の子がきちんと生まれるまでは少なくとも正式な決定は下らないので、権大納言との結婚の件もそれまでは進めることはできないが、それは仕方がない。
とにかく、明子のことと関白と権大納言の仲について俺ができることはここまでだ。後は当事者で頑張ってもらうより他はない。
雪「とうとう、行くんですね」
俺「ん?」
雪「いえ、なんでもありません」
確かに、ここのところ、現代に帰ることを前提に身の回りの整理を進めてきたが、それも、もう大方済んでしまって、後は当日を待つだけの日々になってきていた。
俺「とうとう、帰るんだよ」
そう思うと、この1年と4か月の期間がなんだか愛おしいものに感じてくる。でも、同時に、ようやく帰れるという思いもある。
本当に、帰るんだ。