表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
346/362

参百肆拾陸.初産

 準備が整ったところで、俺たちは帝が休む清涼殿、よん御殿おとどへと向かった。


 途中、宿直の者たちは全て寝静まっているので、全く人気のなく静かな内裏には3人の足音だけが響いていた。


 中宮「御所からこのように人気が消えるなんて不思議な感じです」

 俺「ここには昼夜を問わず誰か控えているんでしょうね」


 俺の屋敷は許可がなければ立ち入り禁止になってるから静かなものだけど、ここは立ち入り禁止にするわけにはいかないだろうからな。


 清涼殿に着くと、天照は中宮から赤ちゃんの人形を受け取ると、人形の背中に手を当てて何か呟いた。


 天照『じゃ、姫ちゃん、中宮ちゃんをちゃんと支えてあげてね』


 そう言われて、俺は中宮と正面から抱き合うような形で上半身を支えて中宮が俺の体に体重を預けられるようにした。


 平安時代の出産は現代のように仰向けに寝るのではなく、中腰で座った状態で行う座産だった。


 当然、出産するときに中腰の姿勢を何の助けもなく維持することはできないので、何か支えが必要になる。そこで、柱や天井から下がった紐にしがみついたり、前後左右から人に支えてもらったりするのだ。


 そういうわけで、今回は俺は中宮を前から支える役目を負うことになったのだ。


 天照『それじゃ、行くよー』


 そう言うと天照は人形を中宮のおなかに軽く当てた。すると、赤ちゃんの人形はすぅっと中宮のおなかの中へと消えていった。


 中宮「ひぅっ」


 その瞬間、中宮の顔色が変わって俺の体をつかむ手の力がぐっと強まった。


 リアルな出産シーンをということで、本当にこれから中宮はさっきの赤ちゃん人形を出産するのだ。どういう理屈でそんなことができるのかさっぱり不明だが。


 中宮は今、これまで体験したことのない陣痛の痛みを必死に我慢していた。


 俺「中宮さま、力を抜いてください」

 中宮「うー、うーっ」


 中宮は俺の呼びかけに頷きで答えるが、言葉を話す余裕はないようだ。


 天照『じゃ、帝を起こしちゃうね。せーの……起きろーーっ!!』


 天照がそう言うと、清涼殿の扉が一斉に全部開いて、俺たちと帝の間にあった障壁も取り払われた。


 その物音に何事かと目を覚まして体を起こした帝は、今まさに出産しようとしている中宮を目に留め、目を見開いた。


 帝「こ、これは、一体?」

 天照『ようやく目覚めたか』


 陣痛に耐える中宮の上に浮かんだ天照がいつもと違って威厳のある声で言った。こういう状況でもわざわざ現代語を使うのは天照らしいというところだけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この小説は、一定の条件の下、改変、再配布自由です。詳しくはこちらをお読みください。

作者のサイトをチェック
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ