参百肆拾肆.天上天下唯我独尊
月☆読を始末した後、俺と天照は内裏へと向かった。
しかし、まっすぐに帝の下へとは向かわず、まずは中宮のところへと向かった。
今度はこっそり行ったので、前のように騒ぎにはならなかった。もちろん、当直の人々には眠っていただいたけど。
中宮は一人で横になってすっかり寝入っていた。夏で薄着だからちょっとセクシーだ。
俺「中宮さま、中宮さま」
中宮「……、あ、かぐや姫さん、どうしてここへ? そちらの方は?」
俺「天照大御神さまですわ」
中宮「天照大御神さま!?」
天照『ドーモ、ハジメマシテ、ワタシガアマテラスディス』
俺『片言の日本語でぼけても古語に翻訳できないだろうが!』
天照が初対面の中宮を相手にいつものノリで始めたので、思わず全力で額を叩いて突っ込みを入れた。
天照『アウチ!!』
中宮「あのー、かぐや姫さん?」
俺「中宮さま、言いたいことは分かりますが、これが現実です」
一応、天照の言葉は中宮にも理解できるほどの強さで念話も発信していて、中宮には天照が何を話していたのかの大意は伝わっている。ただ、そのニュアンスは伝わっていないと思われるが。
とはいえ、天照の雰囲気と俺の突っ込みとで、何か理解のできない事態が進行しているということだけは分かったようだ。
中宮「ここ数日で私の中の神様に対する思い込みが音を立てて崩れ去った気がいたしますわ」
俺「ごめんなさい」
天照『そうだ。姫ちゃんが悪い』
俺『代わりに謝ってやっただけだろうが!』
はっ、こんなことをしている場合ではなかった。急いで本題に入らないと。
俺「中宮さま、実は明子さんのことで協力してほしいのです」
中宮「はい。なんでしょうか?」
俺「帝に、中宮さまのおなかの子が次期天皇になるという暗示を掛けます。誰にも覆せないほどの強い暗示をかければ、明子さんが入内する意味はなくなってしまうので、入内の件は立ち消えになるはずです」
中宮「なるほど。それはよい考えです。で、どうしたらいいのでしょう?」
帝に中宮の子が次期天皇であるとの暗示をかける。それも言葉ではなく鮮烈に記憶に残るようなシーンを見せることで。それは簡単なようで難しい。
何より、中宮の子はまだ生まれていないということだ。まだいない子供についての暗示をどうやって記憶に残るシーンとして実現するのか。帝は子供の顔も知らないのに。
俺「はい。それで、中宮さまには一度、出産を体験していただこうと思います」
中宮「え?」
仏教の開祖、仏陀は誕生した時に「天上天下唯我独尊」と言ったと言われているが、あれと同じことをやったらいいんじゃないかと思うのだ。
つまり、中宮が赤ちゃんを産んだら、その赤ちゃんがものすごく印象的なことをして、この子を次期天皇にするしかないと思わせるのだ。
中宮「でも、まだお腹の赤ちゃんが生まれるような時期でもないですし、なにをすれば?」