参百卅玖.トリオ
俺『いい加減にしろよ。この間からなんなんだよ!』
俺はちょっと頭にきて天照に声を荒げた。
元々天照は際どいネタも平気で辞さないタイプだったが、ここのところは直接的なネタが多くてシャレにならないことが増えてきた気がする。しかも、ただの冗談かと思えば変に意味深な表情をして無視しようにも無視できないし。
俺『何か言いたいことがあったらはっきり言えよ。そんな風に誤魔化されたらわからないじゃん』
天照『別に、言いたいことなんてないよ』
俺『ないわけないだろ。あんだけ意味深な表情しておいて』
天照『してないよ』
俺『してたよ』
天照『意味深な表情って何!? こんなの!??』
天照はそう言って、指を使って思いっきり変顔をして見せる。
俺『それはただの変顔じゃん。違うよ』
天照『じゃあ、何さ』
俺『もういいよ』
天照『よくないよ』
俺『だって、天照はふざけてばっかりじゃないか。これじゃ真面目に話なんかできないよ。現代に戻ったってこんな天照じゃ付き合いきれないよっ!』
俺がそう叫んだ後、あると思っていた天照からの反撃はなく、代わりに口をつぐんで黙ってしまった。
天照『……』
俺『話して。話してくれないと何を考えてるのか分からないよ』
天照『……』
天照は何か言おうと口を開いたが、あきらめたようにまた閉じてしまった。
俺『ちゃんと言ってよ』
天照『……わかった。言うよ。言えばいいんでしょ!』
しぶしぶ承諾した天照は、最後は自棄になったように見えた。そして、その調子のまま話し始めた。
天照『そもそも姫ちゃんは、あたしが現代に行ってもいいって思ってるの!?』
俺『は?』
天照はそんなことを言ってきたが、何が言いたいのか意味が全く分からない。
そもそも現代に行く話は俺から天照にお願いしたんじゃないか。いいと思ってないのにそんなことを言うはずがない。
天照『あたしが現代に行ったら、姫ちゃんと雪ちゃんが一緒の時、あたしもいつも一緒なんだよ?』
俺『そんなことは分かってるよ』
天照『本当に分かってる? 二度と二人きりになれないんだよ!? ……絶対にいつかあたしのことが邪魔だって思うよ』
天照は最後にそう力なく言った。
そうか。もしかして、天照は俺と雪の間に入ってこれるかどうか不安なのか。
そこまできて、俺はようやく天照の心配事に思い当たった。
俺と雪は相思相愛と言っていい状態なのに対し、天照との間には少しだけ距離がある。天照は俺との距離を縮めたいと思っているが、どうしても雪より近づくことはできていない。
そんな状態で天照が雪に憑依して3人で付き合うようになったとき、天照の立ち位置はどうなってしまうのか。次第に隅に追いやられて肩身の狭い思いをしなければならないんじゃないか。傷つく言葉を聞かなければいけないんじゃないか。
考えてみれば、その心配は当然ある。3人グループの人間関係というのは思ったより難しいものだ。時間を旅して疎外感を味わってきた天照がそのことを極端に心配しても責められない。