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参百卅陸.仲秋

 権大納言「ところで、竹仁殿。あなたも月の国に帰るのですか?」

 俺「え?」


 権大納言から予想外の質問をされて、思わず体が硬直して冷汗が出てしまった。


 この場合、どう答えたらいいんだ? かぐや姫の兄ということなんだから帰ると言うべきなのか? それとも、月の世界の人間はあくまでかぐや姫ひとりだということにしておいた方がいいのか?


 うーん。難問だね。


 でも、どの道、現代に帰った後は俺の姿は消えるんだから、月の国に行くことにするほうでいいかな。


 俺「はい。妹と共に行き、道中の露を払っていこうと思っています」

 権大納言「そうか。当日は私も見送りに行くかもしれないが、おそらく竹仁殿に会うことはできないだろうな。となれば、これがお別れということになるかな」

 俺「……そうかも知れません」


 月に帰る当日、権大納言は竹仁に会えないことをなぜか確信しているようだけど、どうしてなのだろう。……もしかして、俺の正体に気付いてる?


 しかし、その後、権大納言はそれ以上その件について追及することはなく、会見は終わった。明子は再び髪を烏帽子の中に隠し、人目を避けて徒歩で俺の屋敷まで帰ったのだった。



 さて、明子が帰ってから俺は帝の対処について考えていた。


 天照に協力してもらうのがいいと思うのだけど、今は新月に近く夜に月が出ていないので、基本的に月☆読が天照に付きまとっているはずだ。


 付きまとわれていても天照を呼び出すことはできるが、関白の件はクーデターの話とは直接結びついているわけではないとはいえ、関連性がないわけではないのであまり話を聞かれたくはない。


 俺と天照が2人きりでロックした居住結界の中に閉じこもってしまえば、月☆読といえども外から何を話しているか知ることはできないが、その場合、月☆読はどんな手を使っても中に入ってこようとするに違いない。


 そうなった月☆読を抑え込めるのは俺の手には余るので、結局、月☆読を抑え込むのは天照に頼る必要がある。ただ、その相談をするにも天照が一人の時に話をしなければならないわけで……


 俺「まあ、とにかく天照に会ってみましょう」


 あれこれ考えても他にいい案が浮かばないので、とにかく天照に会うために夜になってから上賀茂神社に向かうことにした。


 天照は俺が上賀茂神社に着くと、それをどういう理屈だか察知して空から飛んでくる。今日もそれを待って無人の神社の境内でのんびり待っていた。


 旧暦7月も終わり8月に入ろうとしているこの時期は、体感的にはまだ夏が残っているが、暦の上ではもうすっかり秋だ。


 秋の虫たちが少しずつ鳴き始めているものの、セミたちの声もまだまだ負けじと頑張っていて、夕暮れ時ともなると虫たち全員総出の大合唱だ。


 とはいえ今は夜。セミは朝までしばしの休養につき、秋の虫一色になった虫の声を聴いていると、なるほど暦通りもう秋なんだなと実感が湧いてくる。


 そう。クーデターの予定日は8月15日。何の偶然か、1年で月が一番きれいに見える中秋の名月の日なのだ。


 俺「月が一番きれいな日に、月☆読を出し抜いて天照を解放するなんて不思議な因果だわね」


 そんな感慨に耽っていると、空にただならぬ気配を感じた。ようやく来たようだ。


 月☆読(待ってください、お姉さま。これ以上地上に行ってはいけないと言っているじゃありませんか)

 天照『そんなことは知らないんだよ! 姫ちゃんが待ってるから行くの』

 月☆読(お姉さま!)


 予想通り追いかけっこをしながら来る天照と月☆読。天照は余裕の表情なのに月☆読は息も絶え絶えだ。顔を青くして今にも墜落しそうなのに必死の形相でついて来ている。

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