参百卅参.走り高跳び
とにかく、これで準備完了。権大納言の屋敷へゴーだ。
明子「あの、どうやって行くのでしょう?」
俺「んー。ちょっとじっとしてて」
明子「へ? かっ、かぐや姫さまっ」
驚く明子を無視してお姫様抱っこで明子を抱き上げると、生け垣に向かって駆け出した。
明子「かぐや姫さま、止まって、止まってください。ぶつかりますっ」
明子の声を無視してひょいとジャンプすると、明子を抱えたまま背丈以上もある垣根を飛び越えて外の道へと降り立った。
俺「はい、明子さん、もう立っていいですよ」
明子「い、今のは?」
俺「門を通ると門番に見つかるので、直接塀を飛び越えたんですわ」
明子「塀ってこんなに高いんですよ」
俺「そうですね」
明子は呆れたように言うが、強化された俺の運動能力をもってすればそのくらい造作もないことだ。
最近は塀の外に人が集まっていることもないから、空を飛ばないときにはいつも塀を飛び越えて外に出かけている。門番を誤魔化して外に出るより簡単なんだよね。
外に出てしまえはそこから先は徒歩で権大納言の屋敷に向かうだけだ。歩きなれていない明子に気を使いながら、俺たちは目的の屋敷に向かった。
権大納言「これは、ようこそ竹仁さま。その後、お変わりありませんか?」
俺「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
権大納言「こちらの方は?」
俺「明経と言います。私の従者をさせています」
明子「明経と申します。よろしくお願いします」
明子が挨拶をしたが、権大納言は不思議に思う様子はないようだ。変装は完璧だね。
俺「今日、こちらに伺ったのは、先日、不思議な夢を見まして」
権大納言「夢ですか?」
俺「はい。私が寝ていると枕元に武甕槌命さまと天児屋命さまの2柱の神が現れて言付けを頼まれたのです」
そう言って、俺は先日権大納言に送ったのとは別の手紙を一枚、懐から取り出した。
俺「起きてすぐ、その言付けの内容を書き記したのがこちらです」
権大納言はその手紙を受け取ってじっくりと目を通した。そこに書かれている内容は要約すると次のようなものだった。
権大納言は将来藤原氏の氏の長者になり、関白に就任するだけの人物である。しかし、その道のりは平坦ではなく、権力闘争に発展すれば一族の命運すらも危うくしてしまう。
特に、関白と権大納言の関係が良好であることは極めて重要で、そのためには権大納言が関白の妹の明子と縁を結び関白一門との関係を強化することが大切だ。