参百廿玖.逆転の発想
中宮「……私に考えがあります」
中宮の発言に、一同の視線が集まった。
俺「どんな考えですか?」
中宮「兄に頭を下げてもらいましょう」
俺「頭を?」
中宮「はい。そもそも兄は少し調子に乗りすぎだと思うんです」
明子「中宮さま!」
中宮「いいえ、事実ですわ。だから、関白さまもあれほど頑なになられるんだと思うのです。だから兄には関白さまに謝ってもらって、まずは和解してもらいましょう」
権大納言に頭を下げさせるか。確かに妙案かもしれない。
激しい政争となれば権大納言の方も疲弊するのは間違いないわけで、それを考えればこの案は、結果的には関白にはプライドを取らせ、権大納言には実利を取らせるという形になっている。
ただ、今度は権代納言の方が納得してくれるかどうか。
俺「中宮さま、権大納言さまに頭を下げてもらうことは可能なんでしょうか?」
中宮「話の持って行き方次第だと思います。ですが、武甕槌命さまや天児屋命さまの協力が得られるのでしたら、やりようはあると思います」
なるほど、関白じゃなくて権大納言の方に武甕槌や雨を使うのか。それは確かに目がありそうな気がする。
明子「ちょ、ちょっと待ってください」
俺「どうしたの、明子さん?」
明子「お二人共、大事なことを忘れています」
中宮「大事なこと?」
明子「権大納言さまがどう考えていらっしゃるかを聞かずに話を進めるのは……」
俺「それをこれから説得するのだわ」
もちろん権大納言だって関白に頭を下げるのは気分がよくないに違いないから、いきなり話を持って行ったところでいやだというに決まってるけど、そこはあれこれ手を回して……
明子「いえ、そうではなく、あの、その……」
俺「ん?」
中宮「あ、そうね」
俺「中宮さま、どうしたのですか?」
中宮「私としても、こればかりは本人に聞いてみないとわからないわ」
明子「そうですよね」
わからない。中宮はわかったみたいだけど、一体何の話をしてるんだ?
中宮「あら、かぐや姫さん、わかりません?」
俺が全くわからないでいると、雪がこっそり念話で答えを囁いてくれた。強い加護をもらっているだけあって、一応雪も念話が使えるのだ。苦手なのか普段ほとんど使わないけれど。
雪(あの、かぐや姫さま、明子さまは権大納言さまが明子さまを結婚相手としてお選びになるかどうかを気になさっているんだと思います)
俺(あ、なんだそんなことか)
雪(なんだじゃないです。真剣な悩みですよ)
正直、明子みたいないい娘に慕われて悪い気のする男なんていないと思うんだけど、本人はそんな風に自身は持てないものなのかな。
まあ、そういうとこで自信過剰だとそれはそれで嫌味なやつだけど。