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参百廿捌.磐長姫

 俺「やはりそう思いますか?」

 明子「あの、どういう意味でしょう?」

 俺「関白さまが失脚した時でも、明子さんの後見を権大納言さまが担ってくれるということですわ」

 中宮「それに、私の義姉ということになれば、私もできることが増えます」


 明子は黙って頷いた。兄の失脚のことを具体的に考えるのは辛いことだろうが、言っていることが正しいことだということはよく分かるからだろう。


 俺「というわけなんですが、明子さんはどう思います?」

 明子「どう、というのは?」

 俺「この話を聞いた上で、明子さんは今でも権大納言さまと一緒になりたいですか?」


 明子は少しだけ頭を整理する時間を置いて、俺の方を向いて話し始めた。


 明子「もともと兄と権大納言さまは政敵でございますから、このような事態が起きることも想像してはおりました。実際に厳しい未来が確定しているということを聞くと、不安な気持ちもありますが、私の気持ちに変わりはありません。むしろ、兄のためにも私が頑張らなければという思いです」

 俺「よかったですわ、そう言ってくれて。じゃあ、これでもう迷いなく明子さんと権大納言さまとの磐長姫いわながひめになれますね」

 明子「ありがとうございます。でも、誰もかぐや姫さまのことを送り返したりはしないと思いますわ」


 これで、明子の気持ちは確認が取れた。なら、後は明子と権大納言を結婚させることだけを考えればいい。


 俺「明子さんと権大納言さまの仲を取り持つ上で一番の問題は、どうやって関白さまに2人のことを納得してもらうかということですわね」

 明子「かぐや姫さまの方から兄に言ってみるのはどうでしょう。私や中宮さまでは考えは変わらないでしょうけど」

 俺「私が言ってもだめだと思いますわ。関白さまの政治生命がかかっているということもありますし、権大納言さまは政敵でもあるわけですし」

 明子「そうですか」

 俺「まあ、私ではなく、武甕槌命や天児屋命に一言言ってもらえば、多少は効き目があるでしょうけど」

 明子「そんなことができるのですか?」

 俺「そのくらいならできますわよ」


 雨については何度も似たようなことをやらせてるし、武甕槌も貸しを作ったところだからこのくらいなら受けてくれるだろう。前振りもしておいたわけだし。


 というか、前にこの手を使ったのは明子に口を割らせるためだったんだけど、もしかしたら気づいちゃうかな?


 空「明子さま、天児屋命さまは、なんというか、ご主人さまの家来のような、むしろ家来というよりもうちょっと残念な感じの立場ですので」


 空の注釈に、明子と中宮はどういう反応をすればいいのかよくわからないといった困った表情をしていた。多分、空の言い方に満載だった残念なニュアンスと天児屋命の神格とのギャップが大きすぎるせいだろう。


 俺「ただ、高位の神様にあまり極端なことを言わせてしまうと、人間世界に与える影響が強すぎて予想外のことになるかもしれませんから。例えば、武甕槌命の一言が関白さまの政治生命を絶つようなことになっては元も子もないので」

 中宮「何もかも神様だよりにしてはいけないということですのね」

 俺「はい」


 そうなのだ。この件で一番困っているのはそこのバランスなのだ。関白の権力に対する意思は強い。それを神様の力で無理矢理曲げようとするとどういう副作用が出るか分かったものではない。


 だから、神様の力はあくまできっかけを与えるだけにして、後は周りの人間の関わりを通して関白が自ら権力を手放してもいいと思わせるのが思い描くシナリオなのだ。


 俺「なんとか関白さまの権大納言さまに対する敵対感情を和らげることができれば、後は何とかなると思うのですが」


 とはいえ、あの2人は俺が初めて会った時から喧嘩腰だったからな。どうやったらそんなことができるのか。

磐長姫いわながひめは、貴船きふね神社の結社ゆいのやしろに祀られる縁結びの神様です。平安時代に和泉式部が夫との仲をお願いしに行ったという逸話があったりします。


そんな人の恋路を助ける神様なのですが、磐長姫自身はというと、美人の妹と供にニニギノミコトに嫁ぐもののブサイクだという理由で一人だけ送り返されてしまったという可哀想な身の上だったりします。

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