参百廿肆.無理難題
俺「と、言うわけなの」
空「そんな恐ろしいことに」
俺「そうなの。だから、なんとかしないといけないのよ」
屋敷に戻った俺は、すぐに雪と空を呼んで事の顛末を話した。
空「でも、なんとかできるんですか? 神様の世界の問題なんですよね」
俺「人間界で戦乱が起きるのは、運命に抗おうとするからなの。関係者が運命を受け入れれば、戦乱は避けられるわ」
空「関白さまにとっては失脚するのが運命ということなのですわよね。そんなことを黙って受け入れるなんてありえるのかしら」
雪「かぐや姫さまは何かお考えがあるのですか?」
雪が信頼のこもった視線を投げかけてくる。しかし、残念ながら俺の中にはこの問題の解は存在しない。
俺「ううん。また託宣してもらうってことを考えたんだけど、どんな中身にすればいいのか」
空「関白さまに、関白の座を権大納言さまに明け渡すように言うとか?」
俺「そんな直接的なことを言ったら大混乱になっちゃうわ。それに、関白が本当に失脚して京を追放されるような事態に発展したら、明子が可哀想よ」
空「じゃあ、どうしたらいいのかしら」
雪「2人で仲良くするように言うのはどうですか?」
俺「そのくらいしか言えないと思うけど、それくらいじゃ関白と権大納言の対決を確実に避けるだけの力があるかどうか」
俺たちは3人で唸ってしまった。
あちらを立てればこちらが立たず。この問題は一筋縄では解決しそうにない。というか、後、1ヶ月もないのにどうやったら解決できるんだ。本当の問題は俺が現代に帰った後のことなのに。
雪「かぐや姫さま。かぐや姫さまが一番心配しているのは明子さまのことでございますよね」
俺「そうですわ」
雪「でしたら、やはり明子さまが権大納言さまとご結婚なさることが一番なのではないでしょうか」
俺「どういうこと?」
雪「明子さまの生活のことだけを考えれば、権大納言さまの庇護下に入ればひとまず身分は確定すると思うのです」
確かに、明子の実家の関白家の勢いが失われて権大納言に権力が移っても、その権大納言の正妻という地位があれば十分な力を発揮できる。
帝の女御という立場じゃ、実家の勢いが失われたらそれに合わせて後宮内での地位も下がってしまうから、それよりずっと安全だ。
俺「だけど、関白と権大納言が対決することになったら、明子は一番つらい状況になるんじゃ?」
雪「そうなると思います。逆に明子さまが仲立ちになることで、最悪の事態を回避することができるかもしれません」
後のことは明子に託すか。どっちみち俺がいなくなった後は誰かが対処していく必要があるんだ。むしろ一番影響を受ける明子が一番見通しのいい地位についているのがベストかもしれない。
空「でも、そんなことが可能かしら」
俺「ん、どういうことかしら?」
空「今の関白さまが明子さまを権大納言さまに嫁がせることに同意するとは思えないわ」
俺「そうだよね」
というか、そもそも明子の悩みはそれだったわけで、それですらまだ有効な解決策を見つけられていないんだった。
それに、こういう状況が判明した後で、明子がそれでも権大納言と結婚したいという望みを持ち続けるかどうかも分からない。
俺「よし、明子と、後、中宮を家に招待しましょう」