参百廿壱.賽の河原と地蔵菩薩
墨「あ、雨さま!?」
雨(墨さまのお力なくしては、僕はこの先、何を頼りに生きていけばいいのか?)
墨「あの、えと……」
墨が助けを求めるような目で俺を見てきた。
俺「とりあえず、ちょっと落ち着いて、雨。墨がドン引きしてるわ」
雨(ご主人さまにもお願いします。墨さまを僕にくださいっ)
いろいろな点で危機を感じたのか、墨はとうとう俺の影に怯えるように隠れてしまった。
俺「だから、ちょっと落ち着いてって言ってるの。一体、何がどうなってるの?」
雨(ご主人さまのハグを勝ち取るためには墨さまの力がどうしても必要なんですっ)
俺「あ、そっち。言霊を取られているからどうこうって話じゃなかったのね」
雨(そう、そう。そっちだった)
絶対、違う!
武甕槌(かぐや姫、私からもお願いする。天児屋に墨の力を貸してやってくれ。そうでないと、地上の業務が回っていかない)
俺「武甕槌にまで頼まれたら無視するわけにもいかないわ。墨、どう思う?」
墨「私は手伝いをしても全然いいですよ。ただ……」
雨(本当ですかっ!!)
ちょっとだけ顔を出して返事をした墨だが、雨がオーバーリアクションで食いついたせいでまた俺の後ろに隠れた。
俺「墨を脅かさないで」
雨(ごめんなさい)
俺「墨、本当に大丈夫?」
墨「ご主人さまが現代に帰るまでは、時々ご主人さまに会いたい……」
俺「それはもちろん。数日に1回は顔を見せるようにするわ」
墨「それなら大丈夫……と思います」
雨が落ち着いたので、隠れていた墨ももう一度俺の隣に出てきた。まだ雨の様子を少し気にしているが、もう平気なようだ。
武甕槌(そうと決まったら、早速、仕事に取り掛かってくれ。さっきの会議の間にまた書類が増えているはずだ)
墨「分かりました。雨さま、行きますよ」
雨(はいっ)
墨に連れられて雨は仕事場へと戻っていった。
これで雨の仕事のトラブルも一見落着か。俺が見てなくても大丈夫だよね、どうせ隣でクロンダイクをしてるだけだし。